ヤン・ヨンソン監督を招聘して新たなるスタートを切ったサンフレッチェ広島だが、灯った信号は依然として黄色のままである。

 新体制がベールを脱いだ7月26日のルヴァンカップ・プレーオフステージ第2戦は、FC東京に0−1と敗戦。森保一監督が指揮していた第1戦でも0−1と敗れており、2試合の合計0−2で今大会からの敗退が決定した。

 ヨンソン監督が就任してまず大きく変わったのは、そのシステムであろう。ミハイロ・ペトロヴィッチ時代から数えれば10年近く慣れ親しんできた3−4−2−1からの脱却を図り、新監督は4−2−3−1を採用。4バックには右から、新加入のDF丹羽大輝(6月にガンバ大阪から移籍)、DF野上結貴、DF水本裕貴、DF高橋壮也が並んだ。

 ただし初陣を見たかぎりでは、3度のJ1優勝という成功をもたらし、選手たちの身体に染みついている3−4−2−1から4−2−3−1への改革は、簡単な作業ではなさそうだ。それほどにピッチで表現されたサッカーは、どこかチグハグに映った。

 特に序盤は乱れが顕著だった。ポジニョニングの違いからかパスミスを連発した広島は、同じく新システムとなる3−1−4−2に挑戦したFC東京にことごとくボールを奪われた。開始4分にはMF中島翔哉にボールを運ばれると、左ウイングバックを務めるDF小川諒也にシュートを見舞われる。さらに前半11分にも中島にミドルシュートを狙われ、それで与えたコーナーキックからDF山田将之にポスト直撃のヘディングシュートを許すなど、終始優位に試合を進められた。

 試合後、ヨンソン監督は標榜するサッカーについて聞かれると、こう答えている。

「攻撃のなかでいくつかテーマがあります。そのなかで、できたら手間をかけずに直接的に攻撃を仕掛けていきたいと考えています。それとは別に、うまくコンビネーションを作って、特にペナルティエリア付近ではファンタジーが生まれる場面もあると思うので、そういうところをうまくミックスしたゲーム展開を作っていきたい。前半の最後のほうにはカウンターもありました。速い切り替えから直接的に仕掛けていくサッカーをしていきたいと思っています」

 ヨンソン監督が抽出していたプレーとは、前半40分のことだ。相手のコーナーキックを弾き返すと、MF青山敏弘が中央を走るMF柏好文へとパスをつなぐ。ボールを受けた柏はドリブルで中央を駆け上がると、右サイドを併走するMF柴?晃誠にラストパス。柴?のシュートは惜しくもサイドネットに外れたが、まさに手数をかけないカウンターから好機を見出した。

 ただ、先に不安要素を挙げてしまえば、3−4−2−1システムを用いていた前体制時にチームの武器となっていた柏が目立ったのは、このプレーだけだったことだ。以前はウイングバックを務めていた柏は、サイドからスペースを見つけて縦に突破を図る、もしくは中に仕掛けることで、持ち味であるスピードを活かしていた。ところが新体制ではサイドハーフになり、中央でボールを受ける回数が増えたことで、明らかに前を向いて仕掛けられる場面が減っていた。

 柏自身もそれを実感していたからか、試合後にはこう語っている。

「個人的にはミスも多かったですし、もっと、もっとクオリティを見せて、相手に怖さを感じさせていかなければいけないですよね。叩いて出たり、ドリブルで仕掛けたり、ワンツーをしたりと、アイデアや発想が生きるポジションなので、(トップ下の柴?)晃誠さんも含めてやっていければと思います」

 4−2−3−1にしたことで、ダブルボランチを務める青山とMF茶島雄介が高い位置で前を向ける機会も多くなり、前線に縦パスが入る頻度が増えたことは光明である。だが、柏しかり、トップ下を務めた柴?しかり、その個性が薄れてしまっていたのは気がかりである。就任から間もないことを考えれば致し方ないかもしれないが、新監督は選手の個性や、特徴を活かす方法を模索する必要があるだろう。

 もうひとつ、ヨンソン監督はサイド攻撃をテーマとして掲げた。

「今日の試合は、クロスを入れて攻撃を仕掛けるという局面がもう少し足りなかったと思います。クロスを入れていくところのクオリティですよね。そういうところをもっとよくしていかないといけない」

 試合後、「がんばっていた選手」として、わざわざ新監督から名指しで期待を寄せられた左サイドバックの高橋が、新たに目指すサッカーのキーマンとなりそうだ。本人も「監督から右が30、左が70の割合で上がっていけと言われていた」と明かしたように、柏も含めた左サイド攻撃が頼みの綱となる。

 ただ、その高橋にしても任務を完遂するには、指揮官が指摘する質を上げていく必要がある。高橋が言う。

「(課題は)上がるタイミングと、守備のポジショニングですかね。具体的なところでいえば、1本のクロスを合わせられるかどうか。自分のところに転がってきた1回のチャンスを、中の味方にドンピシャで合わせられるかどうか。質の部分とクロスの回数は上げていきたい」

 結局のところ失点も、後半17分にFW皆川佑介のスルーパスに抜け出したMFフェリペ・シウバのシュートがポストに直撃し、好機を逃した流れから喫している。そこからFC東京に反撃されると流れを切れず、パスミスをDF室屋成に奪われ、豪快に右足を振り抜かれた。試合中も声を張り上げ鼓舞し続けていた丹羽は、「これはやられたな、というシーンはほとんどなかった」と振り返ったが、前半から通じて何本もミドルシュートを許していた守備も懸念されるところだ。

 新体制での初陣を白星で飾れず、かつ無得点に終わったことで、正直、不安は募る。だが、それでも救いなのは、選手たちがポジティブであり、手応えを感じている点であろう。丹羽が続ける。

「結果が出れば一番よかったですけど、結果が出なかったからといって、全部がアカンというわけではなく、何がよかったか、何がアカンかったかを監督含めて選手でも話をして、リーグ戦に臨みたい。

(僕としても)広島で初めての試合で、フォーメーションも変わったなかでのプレーでしたけど、手応えもあった。ルヴァンカップももちろん大事だけど、何より公式戦を1試合挟んでリーグ戦に臨めるのは大きい。勝っても負けても課題は出ると思うので、次、どうやったら勝てるかをみんなで考えながらやっていければと思います」

 丹羽が語るように、練習ではなく公式戦という場で修正すべきポイントを洗い出すことができたのはプラスであろう。ヨンソン監督は試合中もベンチメンバーに向けてプレーの解説を繰り返していたように、戦術であり、目指すサッカーを落とし込んでいる段階にある。チーム最古参のMF森?和幸も、「まだサッカーのベースとなる基本的なことしか言われていない」と語るように、システムを変えたヨンソン監督の色が出てくるのはここからだ。

 それに、新監督を迎えただけで、リーグ17位という苦しい状況が変わったわけではない。次のJ1第19節・サガン鳥栖戦までは中3日しかないが、わずかな期間で課題を修正し、進化することができるか。灯っている黄色信号を青にするのも、赤にするのも、これからである。