世界水泳短期集中連載・「キャプテン」松田丈志の目線(4)

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 世界大会で日本人初の金メダルの期待が高まった男子200mバタフライだったが、結果は瀬戸大也が1分54秒21で銅メダル。坂井聖人が1分55秒04で6位という結果だった。地元ハンガリーにも2人のメダル候補がいたため、会場のボルテージは最高潮の中でのレースだった。


200mバタフライ決勝、準決勝を1位通過した瀬戸大也は3位に

  私も今大会開幕前、坂井の金メダルの可能性はかなり高いとみていた。それは今シーズン、高いレベルで安定した記録を出していたからだ。

 4月の日本選手権では1分53秒71を記録し、世界水泳の決勝でいえば、銀メダルが獲れるタイムで泳いでいる。しかも、その日本選手権のレースではさらなる進化を求め、前半から攻めて自身のベスト記録であるリオ五輪の100mの通過タイムより0秒54速い53秒81というハイペースで突っ込んで入っていた。その前半からハイペースで飛ばしたレースでも最終的に1分53秒台でまとめられる力を見た時に、これは金メダルの可能性があると感じた。その後、5月に行なわれたジャパンオープンでも1分54秒78で泳いでいる。この大会は日本選手権とは違いコンディションを合わせた大会ではないにもかかわらず、54秒台というタイムを揃えられる安定感に、いよいよ金メダルが見えてきたなと感じていた。

 坂井と奥野景介監督はそこから、さらに上のレベルを目指して、新たなチャレンジをした。

 高地トレーニングから下山するタイミングを変えたのだ。今回は世界水泳開幕3日前とギリギリに下山してきた。

 過去の高地トレーニングのデータを見てみると、下山してから1週間後に目安としているトレーニングでベストアベレージを記録していたそうだ。そのことから今回は自分たちのレースから逆算して、1週間前に下山するスケジュールを試したということだと思う。 

 それが結果としてどうだったのかは、私にはわからない。ただ、これまで安定して高いパフォーマンスができていた坂井が、今回はそれをできなかったことは確かだ。今回のチャレンジもすべて東京五輪を見据えてのものだから、この経験を今後に活かして、悔しさは次へのエネルギーに変えて頑張って欲しい。

 準決勝を1分54秒03の自己ベストで1位通過した瀬戸にも、金メダルのチャンスはあると思っていた。まだ余裕のある泳ぎだったし、本人も感覚より速かったということで、レース後は笑顔も見えていた。

 しかし、決勝レースはロンドン五輪の金メダリストのチャド・レ クロス(南アフリカ)がスピードを活かして前半から飛ばす展開。ここ数年は後半に失速することが多かったレ クロスだから、どこかで捉えられると思ったが、今回は最後まで逃げ切って金メダル。銀メダルには地元の声援を力に奮起したラースロー・シェー(ハンガリー)が入った。2人ともこの種目のベテランで、酸いも甘いも経験してきた選手ならではの「さすが」という泳ぎとレース運びだった。

 瀬戸自身も自己ベストを目指したと思うが、準決勝より少し記録を落としてしまった。今後、この種目で金メダルを目指すのであれば、まずは1分54秒の壁を突破する必要がある。私も経験があるが、200mバタフライには1分54秒の壁がある。私も何度も54秒0や54秒1のレースがあった。

 瀬戸もこのあたりのタイムでは何度も泳いでいるが、なかなか53秒台に突入できていないので、まずはこの54秒の壁の突破が今後の目標になるだろう。

 この結果は悔しいだろうが、瀬戸にとっては個人メドレーが専門であり、今大会も金メダルを目指す200m個人メドレー、400m個人メドレーに繋げていく上ではいいステップとなった銅メダルだったと思う。

 競泳日本チームとしても今大会2個目のメダル獲得となり、チームの流れも引き寄せてくれた。

 200mバタフライは恐怖との戦いだ。

 一般的にも「バタフライはキツイ泳ぎ」と認識れていると思うが、それはトップスイマーも同じだ。そのキツイ種目で200mを全力で泳ぐこと自体がプレッシャーになる。その肉体的キツさに加え、精神的にも「最後バテたらどうしよう」という恐怖との戦いでもあるのがこの種目だ。

 優勝したチャド・レ クロスはロンドン五輪のチャンピオンで2013年の世界水泳も優勝している選手だが、ここ数年は200mバタフライではいいレースができていなかった。昨年のリオ五輪も4位に終わっている。スプリント力を持った選手なので、前半はいつも先行できるのだが、ここ数年は最後バテてしまい、負けるレースが多かった。

 また、2着に入った地元のシェー選手も31歳という大ベテランで、この「キツイ」200mバタフライを泳ぎ続けていることだけで、尊敬に値する。しかも地元開催の世界水泳で銀メダルを獲った。

 私も32歳まで現役を続けたが、200mバタフライではもともと後半が得意だったのに、ロンドン五輪以降はラスト50mがどんなに練習しても全然タイムが上がらなくなった。あの怪物マイケル・フェルプスでさえ、引退する前の数年は最後バテるようになっていた。最後バテるとわかっていながらレースをする怖さは半端じゃない。今回優勝したチャドもシェーもその恐怖との戦いがあったと思う。

 私の競技人生を振り返ってみても、後半バテなかった時期は選手としていい時期だったんだな、と今になって思う。

 日本人選手に話を戻すが、瀬戸には早く54秒の壁を突破してほしいと思うし、坂井は今回、コンディションが合わなかったが、実力のある選手であることは間違いない。選手として”いい時期”である間に、なんとかこの種目で世界大会日本人初の金メダルまで辿り着いてほしい。


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