大胆かつ慎重に。武藤嘉紀のこの夏の調整方法を簡単にいえばそうなる。マインツに入団してからの2シーズンのうち、半分近くはケガに悩まされてきた。3季目となる今季は、何よりシーズンを通しての活躍と、その先にある日本代表への復帰とワールドカップに出場することを見据えて、プレシーズンのトレーニングに励んでいる。

「目の前のことに全力を尽くす」「ひとつひとつ懸命にやるだけ」というようなことを話す選手が多い中で、武藤の場合は、段階的な調整と準備を大事にしていることが、言葉の端々からうかがえた。例えば7月上旬、チームに合流した当初はこうだった。

「新しい選手も入って競争意識もあって、いい雰囲気でできているんじゃないかな。自主練でかなり上げてきたから、コンディションはいいです」

 ぱっと見ただけで、コンディション的に他の選手を上回っていることがわかった。出遅れることのないように、先頭に立って練習をこなせるように、準備をしてきたことは明らかだった。

 ちょうどその頃、古巣であるFC東京とのフレンドリーマッチが7月19日に組まれたことが発表された。

「楽しみですね。みんなもコンディション上、疲れている時期だろうから、そこでは結果を出すというよりも試合勘と、いいプレーを大事にしたいな。アピール合戦だから結果を出すことも大事だけど、ケガをせず、徐々に徐々に。一気に上げようとすると筋肉系のトラブルが出てくるから」

 武藤が何よりも恐れているのはケガによる離脱だった。ケガそのもののダメージだけでなく、休養を余儀なくされれば本来のコンディションに戻るまでに時間がかかる。だからこそ慎重を期し、フルタイムでサポートしてくれるトレーナーを日本から呼び寄せ、足の裏の細い筋肉を鍛えることなどをしている。

「全部を見つめ直して、バランスから何から、把握するところから始めました」と言う。

 そのFC東京とのフレンドリーマッチで、武藤は60分ほどプレーした。この夏一番の暑さとトレーニングによる疲労の中、ヘロヘロになりながら「いや、やばかった。死ぬかと思った。明日も練習試合なの? 休みたいなあ」と、言葉を絞り出した。

 それでも慎重な姿勢は崩していない。この試合で武藤はワントップの位置に入ったが、シュートまで持ち込む場面はなく、味方を使った簡単なプレーに終始した。

「もっと(ゴールに)貪欲にいっていい。でも、今日は自分で仕掛けるというより、簡単にはたいて周囲のリズム的なことを考えていた。もうちょっとして身体ができ上がってきたら、自分でいけるくらいにしていかないといけないなと思う」

 一気に強度を上げて故障しないように、焦らないことを意識しながら身体を作り、その上で試合をイメージしていることが感じられた。

「とにかく無理をしないこと。日本人の悪い癖で、痛いときでもやっちゃう。外国人は絶対それをしないから、そこは見習っていかないといけないと思う。これまでも痛いのにやっちゃって再発、みたいなことがあった。そこは本当に敏感になっていかないといけないと思っています」

 もちろん、ただ慎重なばかりではない。新シーズンへ向けて、武藤はこう抱負を述べている。

「今季はスタートダッシュが大事じゃないですか。今日の試合(FC東京戦)ではライバル(64分から出場したケナン・コドロ)が点を取っちゃっているし。疲れ云々ではなくて、点を取ったやつが残っていく。明日は点を取らないと! エースの自覚を持った1年になる? 間違いないです。でも、そうなるには結果が必要。結果なくしてそれは言えないです。得点こそが評価材料なので。2桁得点? 取らなきゃいけないですよね、3年目のいい時期だから」

 昨季もケガで半分近くを棒に振りながら、19試合出場で5得点。これでフルシーズン戦えるようになれば……武藤は熱く、冷静に準備を進めている。