世界水泳短期集中連載・「キャプテン」松田丈志の目線(6)


「俺たちはできる」。そう感じたレースだっただろう。

 世界水泳競泳6日目、競泳日本初のダブル表彰台が男子200m平泳ぎで実現した。表彰台に上がったのは銀メダルの小関也朱篤(やすひろ)と銅メダルを獲得した渡辺一平だ。タイムは小関が2分07秒29。渡辺が2分07秒47。ともに自己ベストではなかったが、この際もうタイムは関係ない。メダルを獲ったことが何より重要だ。

 2人にはひとつ共通する課題があった。それは大事なレースで「自分の力を発揮する」ということだ。

 2人のリオ五輪での200m平泳ぎと昨日の泳ぎを振り返ってみる。

 渡辺はリオの準決勝でオリンピックレコードの1番通過で決勝に進んだが、決勝ではタイムを落とし、メダルには手が届かなかった。準決勝では彼の持ち味である大きな伸びのあるストロークで自分のペースで泳げたが、決勝は硬くなったうえに、レース展開も周りを見過ぎてしまい、消極的になってしまった。本人も明確なレースプランを持てぬまま決勝に挑んでしまったと言っていた。

 渡辺にとっては初めての世界舞台がリオオリンピックだったわけだから、決勝に行くだけでも素晴らしいことなのだが、準決勝と同じ泳ぎができていれば金メダルだっただけに、本人も周りも失望を味わったことだろう。


 今回の渡辺は大会開幕前から、明確なプランを語っていた。それは予選と準決勝で異なるレースプランを試すということだ。その目的は、ライバルにいろいろなレース展開ができるんだぞと示すことと、自分自身が決勝に向けてベストのレースプランを探ること。今回の渡辺はそれを実践し、決勝でも力を出し切るレースをしてくれた。

 一方の小関は前回の世界水泳を経験し、迎えたリオ五輪の200m平泳ぎ決勝では、前半からガンガンに攻めてリードを奪うレースをしたが、それは「飛び出し過ぎ」だった。積極的に攻めたと言えば聞こえはいいが、自分の力以上の飛び出しは無謀なレースになるし、「玉砕」してしまう。

 昨年までの小関は試合が近くなると、周りを寄せつけない雰囲気を醸し出していた。私は積極的に彼と話すようにしていたが、話すと、水泳に対する熱い思いが伝わってきた。だけど他のチームメイトとのコミュニケーションはそんなに多くなく、ひとりで行動していることも多かった。今大会はレース以外の時の表情も柔らかくなり、チームメイトやスタッフと談笑する姿をよく見かけた。

 昨日のレースも、昨年同様に前半からリードを奪う泳ぎをしたが、力み具合がまったく違った。小関にとっては同じ種目に渡辺がいることもプラスに働いたと思う。1人で頑張らなきゃと思っていた彼が、渡辺とともに成長していこう、ともに日本の平泳ぎを強くしていこうと語るようになった。

 今大会では50mでは準決勝、100mでは決勝まで進んでメダル争いをしていた。世界の舞台で心も体もコントロールできるようになった彼は200mの決勝でも自分の力を出し切れた。

 2人にとって、このメダル獲得は非常に大きな一歩だ、速いタイムを持っている彼らだからこそ、世界の舞台で何度も結果が出ないと「俺は世界では活躍できない人間なのか」と思ってしまう。自分でそう決めつけてしまうことが一番怖いことだ。


 私は個人的に、日本代表に入ってくるような選手に「精神的に弱い」奴なんていないと思っている。皆それぞれにハードなトレーニングを乗り越えて、その舞台までたどり着いている。決勝や大事な時に自分の泳ぎができない選手はそりゃいるし、そんな時もある。でも、それは「慣れ」と考え方の「癖」だ。世界の舞台に慣れて、レース前のプレッシャーのかかるシチュエーションで自分の考え方さえコントロールできれば、ベストパフォーマンスはできる。

 今回のメダル獲得で小関と渡辺は「俺たちはできる」と実感できたと思う。その自信が次の挑戦へのエネルギーになる。彼らが金メダルを獲る日を楽しみにしたい。

 この日最後の決勝となった男子4×200mフリーリレーはよく頑張った。7分07秒68で5位入賞だ。

 第1泳者、萩野公介は自己ベストから2秒遅れたが、第2泳者、江原騎士(ないと)は予選も決勝も1分46秒台で泳いでくれた。第3泳者、天井翼と第4泳者、松元克央(かつひろ)はそれぞれ予選のタイムから1秒上げてきた。

 何より5位という順位で、あれだけ悔しそうにしている彼らを見て、確実に日本の自由形選手が目指すものは変わってきたと感じた。5位という成績は2年前までなら、健闘したと言われる順位だが、昨年の五輪でメダルを獲ったことで、みんなの目標が上がっている。江原は「メダルと獲らないと楽しくないです」と言い放ったし、天井と松本に余裕を持って泳いでもらうために、予選から積極的に泳いで五輪メダリストとしてチームを牽引してくれた。

 前日のレースになるが、女子自由形の選手たちも変わり始めている。五十嵐千尋、池江璃花子、青木智美、高野綾で挑んだ日本は約2秒、日本記録を更新して5位入賞。大健闘してくれた。インタビューでは私たちもメダルを獲りたいと語ってくれた。


 まだまだ日本の自由形は強くなる。改めてそう感じた。これからも目標を下げずに、上げ続けていってほしい。

 しかし、昨日のそのレース後、萩野がウォームアッププールに戻り、瀬戸をはじめチームメイトに迎えられた時に泣き崩れたのには驚いた。こんなにひとりで背負い込んでいたのかと思い、こちらも胸が熱くなった。

 確かに萩野は自己ベストより2秒近く遅い記録だった。でも、萩野が悪いとは誰も思ってないと思う。なぜなら、彼が練習で手を抜かず、いつも頑張っている姿をみんな見ているからだ。昨年末の手術を乗り越え、そこから限られた時間の中でできるだけのことをやってきたはずだ。

 前日の200m個人メドレーの銀メダルの後、思い通りに泳げなかったと語る萩野に敢えて聞いてみた。「やはりこれまでと違って、冬場に十分なトレーニングが積めなかった分、昨年までの自分の体と違いますか?」

 萩野はこう答えた。「今の体でやるだけです」

 あと1レース、頑張ってほしい。