なでしこジャパンがアメリカ、ブラジル、オーストラリアとともに参加する「トーナメント・オブ・ネイションズ」が28日(日本時間)に開幕し、ブラジルとの初戦に臨んだ日本は、籾木結花(日テレ・ベレーザ)のゴールで先制したものの、最後の最後でブラジルに追いつかれ、引き分けに終わった。


試合の2日前にセンターバック起用が決まった、本来サイドバックの鮫島彩

 2017年シーズンに入って、すでに7試合の国際試合を重ねている、なでしこジャパンだが、課題として浮き彫りになっているのが”決定力不足”である。これまでは同格もしくは、格下相手との実戦が多かったが、今大会の対戦チームは各地域を牽引する強豪たちだ。

 初戦のブラジルは、世界屈指のストライカーであるマルタを要する個性際立つチームである。前線のほとんどの選手が、スピードあるドリブル突破から豪快なシュート力を兼ね備えているツワモノぞろいだ。それでもこの初戦は勝つべき試合だった。

 立ち上がりこそ、ブラジルのスピード攻撃への対応にもたつきを見せた日本も、落ち着いた判断をできるようになるまで時間はそうかからなかった。組織力をフル稼働させる日本の守備に切り込んでくるマルタ。33分には宇津木瑠美(シアトル)、万屋美穂(ベガルタ仙台L)、鮫島彩(INAC神戸)を次々にかわしてシュートに持ち込む。37分にも中盤でボールを奪って独走、一気にシュートまで運ばれるもギリギリのところでGK山下杏也加(日テレ・ベレーザ)が触ってCKへ逃れた。

 日本が得点を狙う場面も少なかったわけではない。8分に阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)出した前線へのフィードに反応したのは、田中美南(日テレ・ベレーザ)と中島依美(INAC神戸)だ。クリアボールを拾った横山久美(フランクフルト)がシュートに持ち込んだ。タテパス3本でビッグチャンスを作ったのは42分。市瀬菜々(ベガルタ仙台L)から阪口へ渡ったボールはロスなく前線の横山に収まる。すぐさま押し出したスルーパスに反応した田中が完璧に裏を突いた。しかし、GKとの対決に敗れ、ゴールならず。

 62分には途中交代の籾木のクロスに合わせようとした横山をすり抜け、DFに当たったボールがクロスバーを叩く。こぼれ球を田中が詰めるもバーを越えていった。決定的な場面を作りながら、ことごとくゴールマウスに嫌われるなか、鬱憤を晴らすかのようなゴールがようやく生まれたのは63分。左サイドで相手を一枚かわした中島が繰り出した完璧なクロスに合わせたのは、ゴール前でフリーになっていた籾木。落ち着いてコースを狙いながらヘディングで力強く叩き込んだ。

 しかし、ここからはブラジルの攻勢に自陣に張りつくしかなくなった日本。しのぎ続けていたものの、87分にカミラにミドルシュートを決められ、ドローという結果に終わった。 

 前半からマルタ、ルドミラらから浴びる強烈なシュートをセーブしていたのはGK山下だ。読みもキレも冴え渡っていた。前半こそ、ヒヤリとする場面もあったが、後半になるとそのブレもなくなり、ブラジルの反撃を跳ね返し続けた。

 ただ、失点の場面は「今まで(受けた中)で一番強烈だった」と山下。カミラのミドルシュートにわずかながら触っていただけに、やはりそこでもうひと粘り欲しかった。カミラにボールが入る前のクリアのあと、山下の体勢の立て直しが一瞬遅れた。好調だったこの日の山下だからこそ、超えられる壁だったのではないか。あの空気間の中で一段上の感覚を掴めるチャンスでもあった。

 守備の要であり、キャプテンの熊谷紗希(リヨン)の招集が叶わず、今年に入って代表CBの実績を重ねてきた中村楓(新潟)がケガで辞退と、決して万全の体制ではなかった守備陣。結果、ブラジル戦の最終ラインは、DF裏への対応力を買われた左サイドバックのスペシャリストである鮫島を市瀬とともにCBへ起用した。初めて試されたのは試合のわずか2日前の紅白戦。右往左往しながらも鮫島はこう決意していた。

「すべてが完璧にできるはずもない。ならば、できることを確実に。両隣のカバーと、背を向けているFWは潰す!」

 侵入コースを限定し、時折最終ラインに入ってカバーを見せる宇津木と、前線からのプレスに助けられながら、鮫島はCBをやり遂げた。経験値を差し引けば、この日の最終ラインはできる限りのプレーをしたと言える。

 しかし、攻撃にまで手が及ばなかったことも事実。これまでは熊谷、市瀬らが攻撃の起点を担っている場面も多かった。ブラジル戦は縦に収める展開が生まれず、攻撃は個に託される形になった。

 そこでボールに触れなくなったのが長谷川唯(日テレ・ベレーザ)だ。「唯にもっとボールを触らせないと……」と声をそろえたのは宇津木と鮫島。長谷川もいつものようにポジションを変えながらボールを受けようとするが、どれも功を奏さなかった。

「うまくいかないなっていうのは早い段階で感じていました」と異変に気づいていた長谷川は、FWにボールをつけ、逆サイドの中島や自分が中へ入り込んでサポートをすれば、サイドのスペースも活用できると踏んでいた。しかし、それを全体で共有するまでには至らず、ハーフタイム後に、多少改善されたものの、肝心の長谷川は前半でベンチに退いていた。

 限られた時間の中でゲームをコントロールするために、コミュニケーションは必須。特に現状の攻撃は、横山や田中をはじめ、FWの個の対応に偏っているため、さらなるコンビネーションを生み出すには、長谷川の絡みは必須であり、いわば攻撃のバロメーターだ。長谷川を有効活用できていないなら、ピッチ上で早急に解決していかなければ、何度試合を重ねても攻撃バリエーションが増えることはない。この試合のように決定機をことごとく外していく展開では別のアプローチを持っていなければ打つ手がなくなってしまう。

個のプレーを全力披露するだけで許される時期は終わった。2年目のチーム作りに入った高倉ジャパンに必要なのは、個の能力をいかに掛け合わせるかの融合作業。自己の得意なプレーだけで切り抜けられるほど世界は甘くはない。オーストラリア、アメリカとの2連戦にどう臨むのか、1秒たりとも無駄な時間はない。

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