2得点は、まるで人間の野性が目覚めたかのようだった。左足のひと振りは鋭く重かったし、ヘディングは2人にはさまれながらものともしていない。

 元ドイツ代表FWルーカス・ポドルスキのJリーグデビューは鮮烈だった。

「(得点は)入るときも入らないときもある。今日は入ってよかった」

 ポドルスキは試合後に淡々と語ったが、そこまで腹をくくれる豪胆な性格こそ、世界標準のゴールゲッターの条件なのかもしれない……。

 7月29日、ノエビアスタジアム。J1リーグ第19節、ヴィッセル神戸は大宮アルディージャとの試合に臨んでいる。

 はたして、ポドルスキは活躍を見せるのか。話題性は高く、必然的にメディアの数も多かった。

 ドイツ代表として3度のワールドカップ出場を果たした世界王者。代表通算49得点の経歴はだてではない。バイエルン・ミュンヘンやアーセナルというメガクラブで、アタッカーとしての足跡も残してきた。

 一方で、「年俸6億円の価値はあるのか?」という意地悪な見方もないわけではなかった。2014年、ウルグアイ代表FWディエゴ・フォルランは「ワールドカップ得点王」の看板を背負って、年俸6億円でセレッソ大阪に入団。結果は期待はずれに終わった。本人の実力や、やる気よりも、しっかりと受け入れる態勢ができなかったとも言えるだろう。

 大宮戦、神戸は重い立ち上がりを見せている。じめじめとした暑さもあるのだろうが、足が動かない。パスを回され、ほとんどチャンスを作り出せなかった。ポドルスキも前線で孤立した。

「前半は前からプレスに行けず、自由にボールを持たれてしまった」

 神戸のネルシーニョ監督は説明したが、ドイツ人スターの運動量の少なさをチクリと示唆している。チーム戦術としては機能性に乏しかった。ポドルスキの守備の負担を周りがカバーせざるを得ないのだ。

 ところが、個人が戦術そのものになることもある。

「ポドルスキの左足シュートはすごい」

 神戸の選手たちは口を揃える。練習でもアタッカー陣が突っ込んで、そのこぼれをポドルスキがエリア外から突き刺す。それがひとつのパターンになりつつあるという。

 後半4分の先制点は、まさしく典型だった。

 神戸が攻勢に出て、渡邉千真がシュートを放つも、一旦は跳ね返される。これを再びエリア外で拾い、ポドルスキの左足下に流す。ポドルスキはほとんど振り向きざまに一瞬でゴールを視界に捉え、ダイレクトで左足を振り抜き、エリア外から右隅に打ち込んでいる。ボクサーが相手のパンチを払い、電光石火のアッパーでダウンを奪うように、刹那的で感覚的なシュートだった。

 ポドルスキは間違いなく、戦術軸になっていた。彼の左足が生み出す得点の可能性が、チームを旋回させつつある。エリア外でポドルスキがシュートチャンスを得るだけで、アドバンテージになるのだ。

 この夜の神戸の戦いぶりは、決してよくなかった。先制した直後も、ボランチが攻め上がるところで、不用意にボールをつつかれて失ってしまう。そこから逆襲を浴びるわけだが、数的に圧倒的優勢だったにもかかわらず、簡単にクロスを入れられ、緩慢なマークから失点を許していた。

 しかし、同点にされた後に再びポドルスキが輝いた。自らドリブルでエリア内に侵入し、左から的確なクロスを折り返すが、これは流れてしまう。しかし諦めずに中で有利なポジションを確保すると、右からのクロスを呼び込む。挟み込んできた2人の相手選手を蹴散らしながら、ヘディングで豪快にねじ込んだ。

「いいクロスがきたね。(マークする)日本人は小柄なので、それが自分にとってプラスに働いたのかもしれない。2−1にする貴重なゴールになった」

 ポドルスキは冷静に振り返っている。彼は決して生粋のストライカーではない。シャドーストライカー、セカンドストライカー、もしくはサイドハーフが本職だろう。しかし、ボールを呼び込み、叩き込む技術センスを持っているし、その形を確立している。それゆえ、シュートに対する躊躇(ちゅうちょ)がない。ゴールによって、自分の道を切り開いてきた自負があるのだろう。

 ひるがえって日本サッカーでは、ストライカーに対して減点法が適用される。「運動量が足りない」「ポストワークが下手」「機動力がない」……それらはチーム戦術には、しばしばマイナスに作用する。しかしゴールというサッカーの目的に到達する能力は、軸になり得るのだ。

 ポドルスキの存在は、日本サッカーのストライカー論に一石を投じることにもなるかもしれない。

 では、ポドルスキは6億円の価値があるのか? 1試合で答えは出ないが、自らのゴールでデビュー戦の勝利(3−1)を祝した事実は特筆に値する。

「ポドルスキは決定力があるストライカー。チャンスがあれば決める。これから試合ごとに生産性は上がるだろう」(ネルシーニョ監督)

 日本の酷暑を戦い切るのは簡単なことではない。日を追うごとによくなる、という視点は楽観的すぎる。海外挑戦の場合、デビュー戦から数試合後に大きなダウンがくる場合の方が多いだろう(最初のモチベーションが切れるのだ)。

 ただ、世界で渡り合ってきたポドルスキは感覚をアジャストさせる力に長けているし、自身の活躍にも満足していない。大宮戦が終わった直後だ。主審に対し、疑わしいハンドのシーンを抗議していた(笛が吹かれていたら、神戸のPKだった)。勝負へのこだわりというべきか。

「スターとして(扱われるのに)プレッシャーはあるが、それを力に換えて、活躍したい」

 そう言ってカメラの砲列に微笑を向けるポドルスキには、世界王者の貫禄が漂った。