J2第25節、最大の注目カードだったと言っていいだろう。

 勝ち点47で首位に立つ湘南ベルマーレと、勝ち点43で3位につける徳島ヴォルティスの直接対決。徳島が勝てば、他の試合結果次第では首位に勝ち点1差まで肉薄することになる首位攻防戦は、しかし、湘南が2−0で勝利した。

 勝った湘南の2ゴールが生まれたのは、いずれも後半である。つまり、拮抗した試合は後半に動いたことになるわけだが、最終的に勝敗を分けたカギは、恐らく前半の攻防。それが伏線になった可能性は高い。

「徳島はボールを動かすことが得意で、(これまでの試合で)ショートコンビネーションで点を取る場面をたくさん見た」

 湘南の曺貴裁(チョウ キジェ)監督がそう語っていたように、湘南はボールポゼッションに長けた徳島に対し、高い位置から積極的にプレスをかける作戦に打って出た。

 これにより、じっくりと下からボールをつないで攻撃を組み立てることができなくなった徳島だったが、それでもロングボールをうまく使い、いくつかのチャンスを生み出すことには成功した。長身のFW山?凌吾をターゲットにし、セカンドボールをFW渡大生、MF島屋八徳が拾って前を向く形だ。

 ボクシングに例えるなら、手数で勝る王者に対し、数は少ないながらも的確にパンチを当てていく挑戦者。徳島はダウン(ゴール)を奪うまでの決定打こそ放てなかったが、効果的なパンチを繰り出しているかに見えた。

 しかし、さすがは首位に立つクラブと言うべきか。それでも湘南は慌てることがなかった。曺監督が語る。

「(ロングボールの出どころに)フタをしなければいけない部分もあったかもしれないが、長いボールを蹴られるからとラインを下げてしまうと我々のよさが出ない。裏を返せば、(徳島が)蹴らざるをえないプレスをかけているということ。心配はしていなかった」

 一方で徳島は、「1本目のロングボールで(セカンドボールを)拾えたので、それでいけると(いう気持ちに)なって、うちのサッカーはつないでいくのがコンセプトなのに、それ(ロングボール)ばかりになってしまった」と渡。MF杉本太郎もまた、「作戦のひとつとしては(ロングボールを使っても)いいが、それだけになったのではリズムはよくない」と振り返った。

 もしも湘南が徳島のロングボールを警戒し、プレスを緩めてラインを下げる選択をしていれば、徳島本来のパスワークに火がついた可能性もある。そうなれば、試合はまったく違う展開を見せていたに違いない。

 だが、湘南はそうはしなかった。

「とにかく、選手には『相手の嫌なことをしろ』と。(自分たちが前からプレスをかけ続けて)足を止めないことで、少しは徳島の特徴を出させない戦い方ができたのではないか。逆に相手の足が止まったときに、我々の走力を生かせた」

 曺監督はそう振り返り、「自分たちの土俵で試合ができた。自分たちのよさが出せた」と満足そうに話した。

 徳島は第18節でホームでの湘南戦に敗れて以来、6戦無敗(5勝1分け)を続けていたが、またしても湘南に黒星を喫し、その勢いはそがれた。渡は「湘南戦といっても、(対戦相手別に)21試合あるうちのひとつ。特に意識はしなかった」としながらも、「相手(の戦い方)に合わせてしまった感がある。向こうのほうがトータルで上回っていた」と、湘南を称えた。

 これで、湘南と徳島の今季リーグ戦での対戦成績は、湘南の2戦2勝。順位と勝ち点のうえでは接近した状況での対戦だったとはいえ、徳島から見れば、力の差を見せつけられたとも言える。徳島は前節、2位のアビスパ福岡をアウェーで破ったのに続き、上位叩きを狙ったものの、逆に首位との差を広げられる結果となった。

 とはいえ、この試合が、両者ともにハイレベルな攻防を繰り広げた好ゲームだったことは疑いようがない。お互いが相手の出方に応じた駆け引きを繰り広げながらも、プレー強度が落ちることはなく、非常に見応えのある試合だった。

 その意味で言えば、敗れた徳島もまた強かった。さすがは今季一度も連敗することなく、上位争いを続けているだけのことはある。それを印象づけた試合ではなかったか。

 徳島がクラブ史上初のJ1を経験したのは、2014年のこと。前年シーズン、J2で4位となった徳島は自動昇格こそ逃したものの、見事にJ1昇格プレーオフを勝ち抜き、夢だったJ1昇格を実現した。

 しかし、初挑戦のJ1で勝利の美酒を味わえたのは3試合のみ。34試合でわずかに勝ち点14しか得られず、17位(セレッソ大阪)にすら勝ち点17差をつけられる断然の最下位でJ2に再降格した。

 以来続くJ2での戦いは、今季で3シーズン目を迎えた。一昨季は14位、昨季は9位と、最近は昇格争いに絡むことすらできていない。

 ところが、今季の徳島は開幕直後から好調を維持し、一躍J1昇格候補に名を連ねている。第12節から第18節にかけて、なかなか勝てない時期があり(1勝2敗4分け)、一時は順位をふた桁(10位)まで落としたものの、それ以外では概ね上位をキープ。現在(第25節終了時)、首位に勝ち点7差、2位とは同6差の3位につけ、J1昇格プレーオフ進出はもちろん、自動昇格となる2位以内も射程圏内にとらえている。

 そんな徳島の”大変貌”を支えているのは、やはりサッカースタイルの転換だろう。

 今季から新たにスペイン人指揮官、リカルド・ロドリゲス監督を迎えた徳島は、ポゼッション志向へと明確に舵を切った。低い位置からでも徹底してパスをつなぎ、攻撃を組み立てる。そんなスタイルが結果となって表れていることは、前出の曺監督のコメントからも見て取れる。

 この試合でも、敗れはしたが、特に後半の反撃には迫力があった。2点をリードされた徳島は、ふたりの選手交代を一気に行なうと同時に、選手のポジションも入れ替えて、実質2バックと言っていい攻撃的な布陣にシフトチェンジ。中盤に人数をかけ、ボールポゼッションを高めるとともに、ピッチの幅を広く使ってボールを動かし、湘南陣内にじわじわと攻め入った。

 相手守備網を横に広げ、中央に生まれたギャップをつくなど、あわやゴールかという見せ場も作っており、リカルド・ロドリゲス監督も「3つ、4つのチャンスを作れたのはよかった」と評価。結果的に得点には至らなかったため、「ボールポゼッションはできたが、点を取ることが目的だったので残念だ」とも話していたが、得点の可能性を感じさせる攻撃に見えた。

 指揮官の戦術的狙いと、そのための選手交代、ポジション変更も的確で、選手もその意図に沿ってプレーすることができる。結果はともかく、目指すサッカーが確実にチーム内に浸透してきていることをうかがわせる内容だった。

 最近では「対戦相手に研究されることも多くなった」と杉本。この日の湘南戦でも「相手が前から(プレスに)来ているのはわかっていた」が、結果的に「相手のサッカーに合わせてしまい、下(低い位置)でつなげるのに蹴ってしまった」と悔やむ。

 だが、そうした”徳島対策”が進むなかでも、一度も連敗せずにここまできているのは、敗戦の教訓が次に生かされている証拠だろう。

 とりわけ、今季J2の上位は混戦状態にあり、2つ、3つと連敗すれば、たちまち大きく順位を落としかねない。にもかかわらず、徳島がこの位置を保ち続けていることは、単にサッカーの目新しさだけが理由ではないはずだ。首位・湘南の壁に再びはね返される結果にはなったが、今季この先も、徳島はJ1昇格候補のひとつであるはずだ。

 J2得点ランキングの2位となる14ゴールで、好調なチームをけん引する渡は言う。

「ここで湘南に勝っていれば、勢いに乗れて、J1昇格にも現実味が出たはず。でも、ここで負けたことで、もっとやらなければいけないという気になったというか、これがカンフル剤になったと思う。これを機に、チームの力をさらに二段も三段も上げていきたい」

 すでに他チームの脅威となっている、徳島のポゼッションサッカー。新たな武器にさらなる磨きがかかるようなら、4シーズンぶりのJ1復帰もいよいよ現実味を帯びてくるに違いない。