ハンガリーのブダペストで行なわれた世界水泳の最終日も、メダルが期待される男女の400m個人メドレーと、男子50m背泳ぎなど、競技が続いた。だが、午前の予選はその期待に暗雲が立ち込める結果となった。

 最初に行なわれたのは、大会2日目の200m個人メドレーで銀メダルを獲得した大橋悠依(東洋大)と、清水咲子(ミキハウス)が出場する女子400m個人メドレーだった。この種目の優勝候補は、2013年と15年の世界選手権に続いて、16年リオデジャネイロ五輪でも個人メドレー2冠を獲得し、両種目の世界記録保持者でもある地元ハンガリーのカティンカ・ホッスー(ハンガリー)。

 そんな女王に、今季世界ランキング1位の4分31秒42のタイムを持って挑む大橋が優位に立てる要素があるとすれば、ホッスーは、準決勝を棄権した100m背泳ぎを含めて5種目13レースを泳いで疲れていることだ。対して大橋は、200m個人メドレーの3レースだけで中5日開いている状況。そこにつけ入る隙があるかもしれないと思われた。

 午前9時30分から始まった女子400m個人メドレー予選。第2組で出場した大橋は200m個人メドレーの予選、準決勝と同様に、穏やかな表情だった。

「朝なので体が動ききっていない感じはしましたが、予選としてはよかったと思う。本当は組1番でタッチしたいと思っていたけれど、平井伯昌先生から『組3番でも決勝に進めるから、完璧なレースを求めてプレッシャーをかけない方がいい』と言われたので、そう思って泳ぎました」と、4分36秒97の全体7位で決勝に駒を進めた。

 それに対して第3組のホッスーは、最初のバタフライを1分01秒89と全体の最速で入り、200mで銀メダルを獲得している背泳ぎも、余裕のある泳ぎで2分10秒79。平泳ぎではこの区間を1分17秒44で泳いだ清水に抜かれたものの、最後の自由形を1分02秒84で泳ぎ、4分33秒90の全体1位で通過した。

「最後のフリーの前半は流したんですが、みんなが追いついてきたのでヤバイと思った」と笑う清水は4分36秒43で、全体5位の通過。大橋も清水も決勝に向けて勢いがつく結果ではなかった。

 女子400m個人メドレー予選後に行なわれたのは、男子400m個人メドレー予選。出場した瀬戸大也(ANA)の泳ぎは、少し重そうに見えた。前半の背泳ぎまでで、隣のレーンを泳ぐチェイス・カリシュ(アメリカ)を離し切ることができず、カリシュの4分09秒79に対し4分12秒89と、差を見せつけられる結果になった。その次の組の萩野公介(ブリヂストン)は泳ぎにキレがなく、バタフライは瀬戸より遅いタイムで通過。背泳ぎでもさらに遅れ、ゴールタイムは4分14秒15で7位通過という結果になってしまった。

 最後の予選となった男子メドレーリレーでは、1泳の入江陵介(イトマン東進)が、宣言通りに52秒台に入る泳ぎを見せて流れを作り、3分31秒63でアメリカに次ぐ2位通過を果たした。小関也朱篤(やすひろ/ミキハウス)が、「日本も13年世界選手権まではメダルを獲っていましたが、15年からは獲れていないので、東京五輪へ向けてこの大会からメダルを獲れるチームにしようと入江さんとも話しました」という目標に向かって前進したかに見えた。

 しかし、午後の決勝は思いの描いたようにはうまくいかなかった。まず、最初に行なわれた男子400m個人メドレーの決勝で、エース・萩野の不調が想定以上だった。

 最初の50mこそトップで折り返したものの、そこからは遅れていき、バタフライはカリシュと瀬戸に次ぐ3番通過。そこからもまったく伸びずに順位を落とし、4分12秒65の6位でゴール。萩野らしい泳ぎを見ることはできなかった。

 一方で、萩野と同じく予選ではあまりいい泳ぎできていなかった瀬戸は、なんとか銅メダルを獲得した。

「予選より体の重さはなくなっていましたが、前半から乗っている感じが自分の中ではあまりなくて……。バタフライと背泳ぎで思ったよりカリシュを離せなかったので、平泳ぎから抑えてメダル狙いにした」

 そんなふたりの結果以上に驚かされたのは、カリシュの泳ぎだった。平泳ぎを警戒し、2種目目の背泳ぎまでに、どれだけ差をつけられるかというのが日本勢ふたりの考えだったが、カリシュは決勝で、最初のバタフライから先行し、背泳ぎでもその差を開く泳ぎを見せた。こうして独泳態勢を作ると、最後の自由形も58秒65でカバーし、萩野の自己ベストを0秒15上回る世界歴代3位の4分05秒90まで記録を伸ばした。それは日本勢優位と思われていた状況を、一気に覆すものだった。

 男子50m背泳ぎの古賀淳也(第一三共)も好スタートを切って、今大会初の金メダルかと思われたが、力みが出てしまい、後半でカミーユ・ラクール(フランス)に逆転される2位。優勝が近かっただけに、銀メダルという結果も悔しさが残るものとなった。

 そのあとの女子400m個人メドレーも、日本勢が力を出し切れないレースになってしまう。ホッスーが、地元ハンガリーでの2冠達成を目指して、最初から圧倒的な泳力を見せる中、期待された大橋の泳ぎは前半から200mの時のような柔らかさが見られなかった。

 バタフライは50mから伸びずに3位通過。得意の背泳ぎでは、2位に上がったものの、3位以下を大きく突き放す展開には持ち込めず、最後の自由形でミレイア・ベルモンテ(スペイン)にかわされて4位とメダルを逃し、4大会連続2冠を達成したホッスーには力の差を見せつけられる結果で終わった。

 レース後、大橋は「中5日の練習もうまくいっていたようでも、どんどん疲れが溜まっていたみたいです」と泣きながら言い、この大舞台では、レースに出て体力を奪われること以外にも、精神面で安定を保つ難しさを実感したようだった。

 また、平泳ぎで大橋に迫った清水も課題の自由形で伸びず、5位にとどまった。

 瀬戸の銅と古賀の銀でメダルは獲得したが、最終日、最終戦直前のここまで日本勢は、いまひとつ流れに乗れていない感が否めなかった。

 それが男子メドレーリレーに影響したと言ってもいいだろう。

 選手たちのそれぞれの泳ぎをみれば、素晴らしいものだった。背泳ぎの入江は、予選より0秒06上げる52秒80で2位と流れを作り、平泳ぎの小関も目標にしていた58秒台のラップを実現する58秒54で泳いだ。さらに、バタフライの小堀勇気(ミズノ)は51秒12、自由形の塩浦真理(イトマン東進)は47秒64と目標通りの泳ぎで、高速水着時代の09年世界選手権で出した記録を0秒55更新する3分30秒19の日本記録を樹立と大健闘した。

 しかし、メダルにはあと一歩届かない4位だった。小関が「目標タイムは出せたけれど、ピーティの泳ぎに8割以上は惑わされた」というように、イギリスはアダム・ピーティが56秒91のスーパーラップで2位に盛り返した。最後の自由形では、予選を泳いだ選手から代わって出てきたロシアのウラジミール・モロゾフが46秒69で泳ぎ、日本を逆転して3位に滑り込んだ。まさに、世界の”大砲2発”に日本のメダルが奪われてしまった形だ。

 うまく流れに乗れていれば、このような紙一重の場面で勝利の女神が微笑みかけてくれるということは、よくある。しかし、今大会の日本は、最後の最後で波に乗り損ねてしまう締めくくりとなった。2020年に向けて、世界のスイマーが力をつけてくる。日本競泳陣は、実力とともに流れも味方につけなければ、金メダルは見えてこないだろう。