宮城の代表として仙台育英が勝ち名乗りを上げ、夏の甲子園に参加する49校すべてが出揃った。最大の注目だった早実・清宮幸太郎は、西東京大会の決勝で敗れ、最後の夏を甲子園でまっとうすることはできなかったが、彼と同じように地方大会で姿を消した”逸材”たちは全国に数多くいた。

 地方大会を目前に控えた7月上旬。今年の九州を代表するふたりの本格派右腕のピッチングを見る機会を得た。ひとりが熊本工・山口翔で、もうひとりが柳ヶ浦(大分)・田中瑛人だ。

 ともに、今秋のドラフト上位候補と目されている快腕だが、この夏の地方大会では山口が3回戦で、田中は準決勝で敗れ去った。だが、練習試合で見たふたりのピッチングは、「さすがドラフト上位候補」と言われるだけの素晴らしい内容だった。

 まず、山口の変わりようには驚いた。春のセンバツでは上体が前傾して腰が後ろに残ったままステップしていたから、右腕が十分に上がらず、腕の振りも”横振り”になっていた。

 センバツ後、この夏にかけて体幹をみっちり鍛えたのだろう。今は背中を立てた状態で踏み込めるので、しっかり腕を縦に振れている。センバツではストレートがシュート回転していたが、それが見事に解消され、実に素晴らしいバックスピンが加わった。

 立ち上がりから140キロ台中盤をコンスタントにマークするが、速い球を投げようとし過ぎていないのがいい。セットポジションからいい感じで力が抜け、リリースの瞬間にパチッと力を加えるだけで145キロ。

 練習試合で対戦した西日本短大付(福岡)の打線は、間違いなく全国クラス。試合序盤、その強力打線が山口のストレートの強さについていけない。左打者の懐(ふところ)を突いたストレートがどん詰まりとなって一塁に転がる。金属バットが折れたのでは……と思うぐらいの詰まり方だった。

 試合前のブルペンでは、縦、横のスライダーが荒れに荒れていたが、試合が始まった途端、内に外にビシバシ決まるから、もう手がつけられない。縦に落とし、横に滑られて、スライダー2球でサッと追い込む軽快なテンポも、春のセンバツではなかったものだ。

 気温33度の炎天下。さすがに前半飛ばし過ぎたのか、後半は投げ急ぎが目立ち、センバツのときのように腕が横振りになり、アウトコースを狙ったストレートがシュート回転して真ん中に入ることもあったが、そんな”課題”よりも春からの”成長”の方が強く印象に残った。

 一方、田中は”したたか”な投手だ。後半にへばらないように、打者の実力を見計らいながら出力を加減して投げるのがにくい。

 リーチが長いから、軽く腕を振っているようでも速球が唸りを上げてミットを突き刺す。それだけじゃない。カウントを取るカットボールを右打者の外にも、左打者の外にも出し入れできるテクニックは、まさに”大人”のピッチングだ。

 ストレートとカットボール、スライダーでカウントをつくり、勝負球のチェンジアップの”抜け”はプロでも通用する必殺球と言える。

 さらに、ボークぎりぎりのけん制や、セットポジションでのクイック。球審から警告を受けると、「すみません、わざと試しました」と言ってのける、その根性。間違いなくマウンドを支配できる男だ。

 このふたりほど知名度はないが、板野高(徳島)の右腕・森井絃斗(もりい・げんと)も素晴らしい才能を持った逸材だ。

 春の県大会で150キロをマークし、一躍注目を集めた。184センチ、87キロという体から、剛速球で相手を圧倒するピッチングをするのだろうと勝手に想像していた。しかし、この夏の地方大会を見て驚いた。

 セットポジションから軸足に体重を乗せたどっしりした姿を見て、この投手のピッチングがわかった。スピードよりも意識しているのは制球力だ。とにかく投げ損じがないように、細心の注意を払いながら投げる。それでも、しっかりと指にかかったボールは重く、打者は外野に飛ばすのもひと苦労だ。

 真上から投げ下ろしているのにホップするようなストレート。高めのボールゾーンでも、打者はつられて空振りを繰り返す。3ボールになっても、そこから簡単にストライクを続けて打者を封じ込める。大型の本格派で3ボールから粘れるのは、それだけで大きな財産だ。

 ストレートも素晴らしいが、真横に滑るスライダーは”魔球”と呼べるほど精度が高い。打者がストレートだと思って振りにいった瞬間、ボールは視界から消えるように横に移動する。高校生がこの球を打つのは至難の業だ。おそらく、プロでも十分に通用するだろう。

 森井は絶対的エースでありながら、チームのキャプテンも務める。「オレが背負うんだ!」という気概に溢れている。たとえば、同点のまま迎えた試合中盤で、打席に入った森井は一塁にプッシュバント。そして渾身のヘッドスライディング。「投手がヘッドスライディングとは何事か!」と一喝されそうだが、「なんとかしなければ!」の気持ちが清々しい。

 惜しくも甲子園まであと一歩のところで力尽きたが、躍動感溢れるピッチングは将来を大いに期待させた。高校卒業後の進路は、社会人野球を希望しているという。3年後、どんな投手になっているのか、今から楽しみでならない。

 ずっと見たいと思っていながら、最後まで見られなかったのが仙台高(宮城)の左腕・佐藤隼輔(さとう・しゅんすけ)だ。

 宮城大会の準々決勝で敗れたが、全5試合に先発して41イニングで58の三振を奪った。奪三振の多さも見事だが、佐藤は初戦から3試合連続完封(1試合は7回コールド)を飾り、「宮城のドクター0」の異名を取るなど、投手としての完成度の高さを示した。

あるプロのスカウトは、「球も速いが、それ以上に点を取られないクレバーさが光る」と絶賛し、「今年の高校生左腕ではナンバーワン」というスカウトまでいる。聞けば聞くほど、見逃したことを”後悔”しているが、幸い、彼のピッチングを見るチャンスはこの先も十分にある。そのときまで楽しみにしておこう。

 このほかにも、星槎国際湘南(神奈川)の本田拓海、青藍泰斗(栃木)の石川翔、東海大望洋(千葉)の金久保優斗といった好投手が、甲子園に出ることなく地方大会で涙を呑んだ。

 昨年の作新学院・今井達也(現・西武)のように、高校生は甲子園で変わる。ここに挙げた逸材たちの変身ぶりを甲子園のマウンドで見たかったが、その思いは叶わなかった。そんな無念を忘れさせてくれる投手が、新たに甲子園のマウンドに現れることにも期待したい。