「ネイ(ネイマール)とユニホームを交換したよ。今回がバルセロナの選手として最後のユニホーム交換になることを願っているよ。そうしたらレアルにとっての問題が減るからね」

 7月29日、マイアミで行なわれたインターナショナルチャンピオンズカップ・バルセロナ対レアル・マドリードのクラシコ終了後、セルヒオ・ラモスはネイマールのバルセロナ退団騒動を冗談交じりで語っていた。だが、それは現実のものとなった。8月2日、ネイマールが父親、代理人とともにクラブを訪れ、チーム退団の意思を告げたことをバルセロナは公式声明として発表した。

 3日、ネイマールとPSGはバルセロナとの契約解除のための違約金をリーガに預けようとしたものの、スペインプロリーグ機構(LFP)は「PSGの経営は、サッカークラブとしてよりブランド力のあるレアル・マドリードやマンチェスター・ユナイテッドを上回るものではない。ファイナンシャルフェアプレー(クラブの健全経営のためにUEFAによって設けられた制度)に抵触する」という理由から受け取りを拒否。同協会会長のハビエル・テバスは「法廷で争う準備がある」と、スター選手の流出を阻止する姿勢を見せた。

 だが同日、PSGはネイマールと5年契約を結んだことを発表する。

 もっとも、すでにファンから裏切り者扱いされているネイマールの立場を考えれば、もうバルセロナに戻るという選択肢は残されていなかった。

 カンプノウ周辺の電柱には「裏切り者」「傭兵(金で雇い主を変える)」といった言葉や、米ドルのマークとともにブラジル代表FWの顔がプリントされた、お尋ね者扱いするポスターが貼られており、バルセロナを敬愛するカタルーニャ地元紙のアンケートでは、80%以上が退団に賛成していた。たとえLFPが引き留めたとしても、バルセロナにもうネイマールの居場所はなかったのだ。

 ネイマールを失うことになるバルセロナ。その損失がピッチ内外でとてつもなく大きいのは誰の目から見ても明らかだろう。

 記録として残る得点以上に、ネイマールはその突破力でバルセロナの攻撃の起点となるプレーを担っていた。毎シーズン100得点以上を決めていたリオネル・メッシ、ルイス・スアレスとのトリオMSNは解体。さらに、MSN唯一の20代選手がチームを去ったことは、将来のバルセロナのプロジェクトの柱を失ったことを意味する。

 ピッチ外に目を向けても、メッシ、クリスティアーノ・ロナウドの次の時代を担うネイマールが抜けたことで、新たなスポンサー獲得が困難になるのは間違いない。

 また、背番号11番が写っているポスターやメインキャラクターとして起用していた商品などはすべて差し替えを余儀なくされた。レンズを向けたくなる華のある選手の退団は、カメラマンたちにとっても死活問題であり、新シーズンに向けて特番を組んでいたテレビ局も再編集を強いられるなど、大なり小なり影響を与えている。

 もちろん、失うものだけではない。ネイマールが退団したことで、固定されていたバルセロナの3トップに新たな風が吹くことになった。これまでは「バルセロナに移籍してもサブでしかないだろう」と、二の足を踏んでいた実力のある選手たちも興味を示すことだろう。

 また、2億2200万ユーロ(約288億円)の違約金を手にするバルセロナを今、欧州のビッグクラブは、PSGを恐れたバルセロナと同じように恐れている。ユベントスのパウロ・ディバラ、ボルシア・ドルトムントのウスマン・デンベレ、アトレティコ・マドリードのアントワーヌ・グリーズマンが後任候補として挙げられており、今夏の移籍市場はネイマールを発端とした”玉突き移籍”が起こる可能性を含んでいる。

 ともかく、今回の騒動はバルセロナにとってあまりにもショックな出来事だったに違いない。

 常にチャンピオンズリーグ優勝を争う実力のあるチーム、欧州の住みたい場所ランキングで常に上位に挙がる街にあるチーム、高額な給料を支払われるサッカー選手にとっても、これ以上ステップアップすることはできない存在のチーム……そんな自負や自信を大いに傷つけられたのだから。

 2倍になるといわれる給料、愛する父親の影響、メッシの影に隠れることへの不満など、ネイマールがバルセロナ退団を決めた理由はいろいろと挙げられている。だが、真相はネイマールだけが知っている。この後、彼はどのような説明をサッカーファンに向けて発するのだろうか。