熊本大会の準決勝が予定されていた7月23日の早朝、新大阪から新幹線の始発に乗って熊本へ向かっていると、新神戸にも着かないタイミングで、「秀岳館の鍛治舎巧監督が緊急入院した」というニュースが飛び込んできた。

 病状ははっきりしなかったものの、21日の準々決勝後に体調不良を訴え、自ら119番通報して搬送されたという。

 新大阪へ引き返すことも考えたが、昨年のセンバツから3季連続で甲子園に出場し、3大会連続でベスト4に進出した同校を支えてきた川端健斗と田浦文丸の二枚看板は、一度、地方大会で見ておきたいと思い、そのまま熊本へ向かった(準決勝のプレーボール前に、監督代行を務める山口幸七コーチが、鍛治舎監督の病名が不整脈であることを公表)。


 準決勝の八代戦は、川端と田浦の継投で、秀岳館は8回コールド(7対0)で勝利する。その日の夕刻、監督からメールが届いた。

「私はいたって元気ですが、外出許可が下りません。医師の横暴です(笑)。しかし、山口コーチが私とまったく同じ指揮を執ってくれました。いい跡継ぎができました」

 周囲の心配をよそに、本人はいたって元気な様子。最初のメールから2時間近く、熊本の高校野球事情と、秀岳館と戦う前に敗れたライバル・熊本工業のエース右腕・山口翔に対する独自の見解や、非凡な才能を認める文面を送ってくれていた。

これまで3回の甲子園経験で、何かと物議を醸す言動の多かった鍛治舎監督であるが、思ったことは口に出したくなる性分であり、心から高校野球が大好きだということがメールの内容から伝わってきた。

 決勝も指揮を執ることはないという。

「明日はテレビで応援します」

 翌日、決勝の相手は九州学院だった。9月に開催されるU18ワールドカップに臨む高校日本代表の第1次選考にも入っている捕手・村上宗隆のいる九州学院とは、昨夏の決勝でも対戦し、2対13と勝利していた。

 先発は、今春のセンバツで背負った「10」番からエースナンバーに変更された川端だ。甲子園経験も豊富な川端は、いつものようにポーカーフェイスでマウンドに上がったが、反面、ボールは荒れた。1回裏に2つの四球と単打で二死満塁のピンチを招き、6番打者に押し出しとなる死球を与えて、1点の先制を許す。

「気持ちが入りすぎていたのか、力みが出てしまいました。なんとか最少失点に抑えられたあとは、ブルペンでフォームの修正をしました。すぐに同点に追いついてくれたので、振り出し戻った気持ちで2回のマウンドに上がりました。今日はカットボールが良かった。それを中心に組み立てるようにしました」

 すると2回は三者連続三振を奪う。その後、試合は、川端と九州学院のエース・田尻裕昌の投げ合いとなる。両校に単打は生まれるも、後続が続かない。

 そして7回表に一死二塁のチャンスを作った秀岳館は、9番・川端に代打を送った。つまり、九州学院より先にエースに交代を命じたのである。

 山口コーチからしてみれば、勝負に出た交代だ。しかし、この代打策は失敗に終わる。

 2番手のマウンドに上がったのは、もちろん田浦。リードしていたり、リードされたりしている状況より、むしろ同点の場面でマウンドに上がる方が、投手の心の持ちようは難しいかもしれない。田浦は振り返る。

「準決勝までは、変化球を使ってカウントを整えていました。でも、最後(決勝)だし、もし変化球を使って打たれたら後悔する。思い切ってストレートで勝負しました」


 先頭打者を1球でレフトフライに打ち取るなど、田浦はわずか10球で三者凡退に抑えた。山口コーチは普段、秀岳館の投手陣を主に指導しているという。鍛治舎監督が指揮を執っていても、Wエースの状態を伝え、交代を進言することもある。

 そういった普段の指導が、決断に迷いを生まなかった。

「本当は5回で代えようかとも考えたんです。キャッチャーの幸地竜弥に確認すると、球威はまだまだあるので大丈夫です、と。そこで6回まで投げさせました。田浦に関しては、この大会を通じて安定感があった。同点の緊迫の場面でしたが、送り出すうえで不安はなかったですね。とにかく継投のタイミングが遅れないことだけを意識していました」

 試合が動いたのは9回表。四球のあと、今大会7割6分2厘という驚異の打率を残した竹輪涼介に長打が飛び出し、一死二、三塁。そこで相手にエラーが出て勝ち越しに成功。そのまま9回裏は、田浦が0点に抑えて、秀岳館が2対1で辛勝した。

 九鬼隆平(現・ソフトバンク)らを擁した昨年は打のチーム。一方、今年は熊本大会で1本の本塁打も出ず、Wエースの安定感がチームの快進撃を支えた。

 川端はエースの座を争ってきた田浦の実力を、次のように認めた。

「全試合で自分が先発し、試合中盤から後半に田浦にバトンタッチする形で勝ち上がってきましたが、田浦は無失点。ここぞという場面で力を発揮する、勝負強いピッチャーだと思います。自己評価ですか? 自分はストレートで押すピッチャーですけど、まだ立ち上がりが悪いのと、コントロールの精度が修正できていない。そこは甲子園までの課題です」

 片や田浦は、川端をこう評価する。

「ストレートが一番いいボールで、上から投げ下ろして、簡単には打てないかなと思います。自分はどちらかというと変化球が武器の投手だと思います」

 縦横のスライダーに、シンカー気味に落ちるチェンジアップを武器とする田浦は、決勝の最終回に自己最速を更新する148キロをマークした。球速でも川端に引けを取らない。

「甲子園ではうまくストレートと、変化球を使い分けて、緩急をつけたピッチングを心がけたい」

 秀岳館は熊本大会全5試合をWエースの継投で勝ち上がった。川端は28回2/3を投げて7失点。一方の田浦は14回1/3を投げて無失点。

 鍛治舎監督は常々、「調子のいい方にエース番号を与えます」と話してきたが、Wエースに「1」を競わせることで、切磋琢磨を促してきた。

 鍛治舎監督からのメールは、決勝後も続いた。

「2年の夏は田浦の方が経験豊富で、川端は急成長してきた投手でした。昨秋、ともに29イニングを投げて、ほぼ同様の活躍でしたから、田浦が背番号1を背負ってこの春のセンバツを戦いました。ただ、センバツでは川端が自己最速の148キロを記録。その実績で春の九州大会は川端が1番を背負いました(中略)この夏の熊本大会は、10番を背負った田浦が鬼気迫るリリーフで、防御率0.00。彼も自己最速となる148キロを記録した。甲乙つけがたい結果を残してくれていますが……」

 8月7日開幕の甲子園に臨む秀岳館の背番号「1」は、熊本大会では「10」を背負った田浦に与えられた。

 秀岳館は大会4日目に登場する。相手は神奈川の横浜。1回戦屈指の好カードとなった。組み合わせ抽選会後、鍛冶舎監督はこう語っていた。

「相手にとって不足なし。がっぷり四つの試合ができると思います」

 果たして、Wエースで挑む夏。秀岳館はベスト4の壁を超えられるのか。