トレード期限ぎりぎりの7月31日、テキサス・レンジャーズのダルビッシュ有投手がロサンゼルス・ドジャースに電撃トレードされました。そしてその衝撃的なニュースからわずか4日後、8月4日のニューヨーク・メッツ戦にドジャースのユニフォームを着たダルビッシュ投手が先発として登板。7イニングを投げて3安打無失点10奪三振と快投を披露し、移籍後デビュー戦を白星で飾りました。

 今シーズンのドジャースはメジャー最高勝率を誇り(77勝32敗・勝率.706/現地8月4日現在)、ナ・リーグ西地区で独走状態を築いています。同じ西地区2位のアリゾナ・ダイヤモンドバックスとは14ゲーム差。5年連続の地区優勝はほぼ間違いないでしょう。

 その快進撃の最大の原動力は、やはり投手力です。特に先発投手陣は防御率3.17、WHIP(※)1.14ともメジャートップを記録し、安定感のあるローテーション6人は質・量ともに申し分ありません。クレイトン・カーショウ(15勝2敗・防御率2.04)を筆頭に、アレックス・ウッド(12勝1敗・防御率2.45)、前田健太投手(10勝4敗・防御率3.90)、リッチ・ヒル(8勝4敗・防御率3.35)、ブランドン・マッカーシー(6勝4敗・防御率3.84)、柳賢振(リュウ・ヒョンジン/3勝6敗・防御率4.02)。この6人の先発陣はメジャー随一の豊富さと言っても過言ではないと思います。

※WHIP=被安打数と与四球数(与死球数は含まない)を投球回数で割った数字で、1イニングあたり何人の走者を出したかを示す数値。

 しかしながら、ドジャースの先発陣に弱点がないわけではありません。先発メンバーを見ると、エースのカーショウ以外に「剛腕タイプ」のピッチャーがいないのです。彼らは大舞台の経験が少なく、カーショウをのぞく5人はポストシーズンで合計2勝しか挙げていません。

 さらにレギュラーシーズンで最多勝2回、最優秀防御率4回、奪三振王3回を誇るカーショウですら、肝心のプレーオフでは奮わなかった過去があります。ポストシーズン通算18試合(14先発)での通算成績は4勝7敗・防御率4.55。特にリーグチャンピオンシップシリーズでの成績が悪く、8試合のうち5先発して1勝4敗・防御率5.58という低調ぶりです。

 また、ドジャースの先発陣にはケガの不安もあります。今シーズンは先発6人全員が故障者リストに一度は入っており、それは延べ9回を数えます。シーズン終盤になって主軸が次々と戦線離脱してしまう事態になれば、さすがのデーブ・ロバーツ監督も不安になるでしょう。

 そんなリスクを踏まえた結果、29年ぶりのリーグ優勝、そして悲願の世界一になるべく、ドジャースは「切り札」としてダルビッシュ投手をトレードで獲得したのです。現在、カーショウが故障者リストに入っていますが、それだけが理由でダルビッシュ投手を補強したのではありません。完全にポストーズンを睨んだ戦力補強です。

 短期決戦のプレーオフを勝ち抜くには、ゲームを支配できるような圧倒的な力が必要となります。カーショウが万が一、今回もプレーオフで信じられないような悪いピッチングをすることになれば、その流れを断ち切らなければなりません。そんな悪いムードを大舞台でガラッと変えられるのは、やはりダルビッシュ投手のような「剛腕タイプ」の本格派ピッチャーなのです。

 2013年から2015年の3年間は、カーショウと同じ際立つ投手がもうひとりいました。現在ダイヤモンドバックスでエースを務めるザック・グレインキーです。左のカーショウに対し、右のグレインキーは、まさにドジャースの誇る「2枚看板」でした。今回、ドジャースはその名コンビを復活すべく、右のダルビッシュ投手を獲得したのだと思います。

 一方、ダルビッシュ投手にとってドジャースへの移籍はどうなのか──。メリットを挙げるならば、まずは本拠地がドジャースタジアムになったことでしょう。

 レンジャーズの本拠地グローブライフ・パーク・イン・アーリントンは以前からボールがよく飛ぶと、ダルビッシュ投手本人も言っていました。対してドジャースタジアムは「ホームランの出づらい球場」として有名です。ダルビッシュ投手はレンジャーズでア・リーグ11位の被長打率.396というすばらしい結果を残していただけに、ナ・リーグのドジャースではさらに優位に立つことができると思います。

 本拠地の特性が打者有利から投手有利となっただけでなく、猛暑のテキサスから温暖なロサンゼルスに移ったこともメリットは大きいでしょう。ダルビッシュ投手本人も「あんなすごく暑いところから、気候が安定して気持ちいいところで投げるだけでもだいぶ違う」と言っています。

 ダルビッシュ投手自身は2012年にメジャー移籍してから、一度もドジャースタジアムで投げたことはありません。ただ、2009年のWBCで日本代表が2連覇したとき、韓国代表と対戦した決勝の舞台でマウンドに立っています。最後のひとりを打ち取って栄冠を掴んだ場所だけに、ダルビッシュ投手はドジャースタジアムにいいイメージを持っているのではないでしょうか。

 また、ダルビッシュ投手のこれまでのインターリーグ(交流戦)の結果を見ると、ナ・リーグのチームに対して好成績を挙げている点も注目です。通算16試合の先発登板で8勝3敗・防御率3.07。105イニング3分の2を投げて、ホームランは9本しか打たれていません。奪三振率は9イニング平均11.8個、被打率.208、さらにWHIP1.06と、いずれもすばらしい数字を残しています。

 さらに特筆すべきは、ドジャースのライバルチームとの対戦成績でしょう。今年のポストシーズンに進出しそうなナ・リーグのチームは、東地区を独走するワシントン・ナショナルズ(63勝43敗)、昨年世界一に輝いた中地区1位のシカゴ・カブス(57勝51敗)、そしてワイルドカード争いで現在1位・2位のダイヤモンドバックス(63勝46敗)とコロラド・ロッキーズ(63勝47敗)です。それら4チームに対し、ダルビッシュ投手は好結果を残しています。

 ナショナルズ戦は1試合の登板で1勝0敗、8イニングを投げて無失点・12奪三振。カブス戦も1試合の先発で0勝1敗ながら、9奪三振をマークしています。ロッキーズとは対戦したことがありませんが、ダイヤモンドバックス戦では2試合の先発で1勝0敗・防御率2.45。14イニング3分の2を投げて28個もの三振を奪っています。ダルビッシュ投手の獲得はプレーオフを勝ち抜くための戦力補強なので、これらの好成績が今回のトレードに大きく影響したのは間違いありません。

 ドジャースの先発陣はカーショウ、ウッド、ヒル、柳の4人が左投手で、上記のライバルのうち3チームは左投手に強いデータもあります。左投手の先発に対してナショナルズは11勝7敗、カブスは17勝7敗、ロッキーズは19勝12敗。そういうデータからも、右投手のダルビッシュ投手は貴重な存在と言えるでしょう。

 ドジャースはこれまで幾多の日本人投手が実績を残してきましたが、そのパイオニアといえば野茂英雄投手です。ダルビッシュ投手もかつての野茂投手と同じように、自慢の奪三振ショーで地元ロサンゼルスのファンを熱狂させてくれるのではないでしょうか。かつての「野茂フィーバー」をダルビッシュ投手が再現すれば、29年ぶりの世界一もグッと近づくと思います。