4週間のサマーブレイクを経て、シーズン後半戦の緒戦となった第10戦のチェコGPはマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が制した。不安定な天候でフラッグ・トゥ・フラッグの展開になったレースを、マルケスの勝負勘のよさと機知(きち)、そして臨機応変な選手の状況判断に機敏に対応したチームの高い総合力が噛み合って掴み取った勝利といえるだろう。

 コンディションの変化などによるマシン交換が許可されるフラッグ・トゥ・フラッグのレースでは、天候が悪化してスリックタイヤのバイクからレインタイヤのマシンへ乗り換える場合と、路面が乾いて初期のレインタイヤを装着した状態からスリックタイヤのバイクへ交換する場合の、大きくふた通りのケースがある。

 天候が悪化する場合は、マシン交換を許可する旗がマーシャルポストに提示された後に選手たちはピットインを許可されるが、ウェットレースでスタートして路面がドライへと変化する場合は、選手たちはレース開始後の状況変化に応じ、いつでもピットに戻ってマシンを乗り換えることができる。

 今回の場合は、ウェット路面からスタートし、路面が乾いていく展開だった。スターティンググリッドでは全員がレインタイヤを装着して臨んだが、ポールポジションのマルケスはスタート直前にリアタイヤをミディアムコンパウンドからソフトへと交換した。

「午前のウォームアップ走行でいいフィーリングを得られなかったので、レース序盤にソフトコンパウンドで一気にペースを上げておいてから、早めにピットへ戻ってマシンを交換する」のが当初の作戦だったようだ。

 レースがスタートすると、マルケスは先頭で1コーナーへ飛び込みホールショットを奪ったが、コーナーごとに順位を落として2周目には5番手あたりまで下げる。この周回でマルケスはピットへ戻り、誰よりも早くスリックタイヤのバイクに乗り換えた。「スピニングが激しく、このタイヤ選択は失敗だったと思ったので、さっさとピットインすることにした」のだという。

 コースへ復帰したときにマルケスの見た目の順位は19番手だったが、やがて他の選手たちも続々とピットインしてバイクを乗り換えていくなか、マルケスはすでにスリックタイヤの速いペースをいち早く維持することに成功していた。皆がマシン交換を終えてコースへ復帰したころの6周目には先頭に立ち、10周目には2番手に対して20秒以上の差を開いていた。この圧倒的なリードを残りの12周で完璧にコントロールし、トップでチェッカーフラッグを受けた。

 雨から晴れ、あるいは晴れから雨へコンディションが変わっていく状況下では、どのタイミングでピットへ戻ってマシンを交換するかという判断が、その後のレース展開を大きく左右する。トップ集団の数名が僅差で激しく争っている場合は、意地の張り合いと戦略の駆け引きが勝負を決める。

 マルケスは、この咄嗟の判断力が非常に優れている。この数年のフラッグ・トゥ・フラッグのレースを振り返っても、昨年の第9戦・ドイツGPでは2位に9秒差、一昨年の第13戦・サンマリノGPでも、2位の選手に対して7秒以上の大差でいずれも優勝を飾った。これらのレースでは、コンディション変化に応じて乗り換え用のマシンを素早く準備し、サインボードなどで選手と的確にコミュニケーションを取るチームの対応力も、勝利に大きく貢献している。まさに抜群のチームワークの賜物、といえるだろう。

 一方、今回のようなレース展開を比較的苦手としているのが、バレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)だ。今回は4位で終えたが、レースを終えたロッシは「フルウェットもしくはフルドライの状況なら表彰台を狙えただろう」と振り返った。

 フラッグ・トゥ・フラッグのレースを不得意としているのは本人も認めるところで、その理由は「なまじウェット路面で速く走れてしまう」ためにタイミングを逸してしまいがちなのだとか。過去のフラッグ・トゥ・フラッグのレースでは、2015年のサンマリノGPでは5位、昨年のドイツGPは8位というリザルトだった。

「たしかにもう1周、早く戻ることもできていたかもしれないけど、でも4位という結果は8位よりはマシ」と、今回のリザルトをポジティブに捉え、苦笑しながら話した。

 2位はマルケスのチームメイト、ダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム)。3位にはマーベリック・ビニャーレス(モビスター・ヤマハ MotoGP)が入り、スペイン人選手が表彰台を独占した。3名は表彰式で、交通事故が原因で8月3日に70年の生涯を閉じた往年の名ライダー、アンヘル・ニエトに哀悼の意を表した。通算90勝を挙げ、13回の世界タイトルを獲得したニエトは、スペインを代表する国民的英雄だ。レジェンドの突然の訃報を追善するという意味でも、今回のチェコGPのリザルトはふさわしい結果になったといえるだろう。