■東海大・駅伝戦記 第3回

 7月13日の網走は異常に暑かった。

 日中の気温は36度、トラックの照り返しが厳しく、コース上は40度近くあるように思える。まだ湿気がない分マシだが、中長距離走にとってはかなりの悪コンディションだ。

 東海大学は、この日開催されたホクレンディスタンスに主将の春日千速(ちはや/4年)をはじめ10名の選手が各種目(1500m、5000m、1万m、3000m障害)にエントリーしていた。

 主力の關颯人(せき はやと/2年)、鬼塚翔太(2年)、館澤亨次(2年)は、北欧遠征に出ており、この大会には参加していない。

 網走で注目していたのは、4年生で主将の春日だ。

 東海大学というと、どうしても昨年のスーパールーキー、今の2年生たちに注目が集まる。実際、館澤は日本選手権の1500mで優勝し、關、鬼塚も調子は上々だ。また、全日本大学駅伝の予選会は4年生が教育実習などで走れず、2、3年生が中心となって全体2位で突破した。

 このように4年生の姿があまり見えてこないわけだが、その存在はやはり大きい。年初の箱根駅伝、往路は1年生が中心だったが力を発揮できす、復路で石橋安孝ら4年生が意地の走りを見せ、シード権をギリギリ(10位)で守った。今年も2年生が中心の若いチームだけに4年生の存在がキーポイントになるはずだ。

 春日は川端千都(かずと/4年)とともに、1万mB組にエントリーしていた。

 A組はロンドン世界陸上出場をかけて派遣標準記録を突破しなければならないので、かなりのハイペースになる。練習の一環としてタイムを狙いつつ走るにはB以下のレースがベストだが、かといって簡単なレベルではない。実業団の選手が多く、学生も塩尻和也(順天堂大)ら実力のある選手が出走する。

 スタートから外国人勢を中心に先頭集団が作られ、春日は中盤より後ろにいた。1周を約68秒ペースで走る。5000mの先頭タイムは14分21秒、春日は10名程度の先頭集団の後方で粘っている。このままキープできれば、28分30秒前後になる。

 しかし、6000mを過ぎて先頭から遅れ、300mぐらい離されただろうか。足取りが重く、ちょっとキツそうだ。結局、タイムは29分24秒48だった。

 着替えて、すぐに両角速監督に報告しにいく。背筋を伸ばし、両角監督の話を聞いている。

 終わって声をかけた。聞きたかったのは、このレースの出来よりは、むしろチーム全体のことやキャプテンとしての取り組みについてだった。春日は春から主将になったが、突然選ばれたわけではない。両角監督曰く、2、3年生の頃からいずれ主将になることを見越して、上に立つ者としての言動を意識させてきたという。そうしたプロセスを経て、主将になった。

「2年の頃から隙を見せないようにしていました。主将がちゃんとしていないのに、みんなにちゃんとしろというのはおかしな話なので。主将になってからは4年生が協力してくれるので、今までの主将と比べるとかなりラクというか、みんなに頼りっぱなしのところがありますね」

 春日は主将になってから新たに着手したことがある。

 東海大学には3つの寮がある。陸上部はレベルに応じてS・A・B・C・Dと5つにクラス分けされているが、メインの寮にはSとAとBの一部、残りの2つの寮にB・C・D の選手が入り、生活をしている。年に3回ほど入れ替えがあるらしいが、それは最終的に両角監督の判断で行なわれる。競技のレベルだけではなく、生活面での態度なども判断材料のひとつになっているという。その寮生活において春日は改革を進めた。

「東海大学は3つの寮があるんですけど、今まではそれぞれの寮の選手との交流が稀薄で、同じ寮生活をしているのにお互いにいい影響を与えることができなかったんです。今年はチーム全員で集まる機会を増やしています。

 寮の仕事も昨年から1年生だけではなく、全員でやろうということになったんですけど、今年は係を決めたりしてシステム化することでうまく回るようにしました。上半期は、そうした生活面での充実を4年生中心に積極的にやってきました」

 春日はチームに一体感を創り出すために、まず生活面から取り掛かった。幸い今まで練習時も含めて、キャプテンが声を荒らげることはなく、スムーズにきているという。

「そういう意味じゃ、あまり主将らしい仕事をしてないなって思います(苦笑)」
 
 チーム自体は、7月末までで競技会などが一段落し、8月から夏合宿に入る。上半期、チーム全体の手応えはどう感じているのだろうか。

「課題としては、今年は全日本の予選会があったので、それが終わって少し緊張感が抜けたのを感じたので、夏に向けてもう一度士気を高めていきたい。あと、全体の底上げはできてきたと思うんですが、練習の質がチームのレベルと同時に上がっているので、そこで故障してしまう選手が出てしまったのが残念でした。チームは盛り上がっているので、逆にそういう選手の落ち込みがちょっと心配ですね」

 とはいえ、全体的に選手は順調に成長している。

 現在Sランクの選手が12名おり、チームとしては中間層のレベルアップが急務だったわけだが、タイムはともかく結果を出す選手が増えたという。また、「主力組がさらに力をつけてきました」と春日は言う。

「今年の上半期は、スピード強化に取り組んでいたんです。その成果としてレースにおいて勝負強さが随所に出せるようになってきましたし、ラストのきついところでも競り勝てるような力がついてきたのかなと思います」

 レースシーンで東海大学は、強さを見せた。館澤は日本選手権1500mでラストスパートの強さを見せて優勝し、阪口竜平(2年)は個人選手権5000mに出場し、ラスト150mでまくって逆転優勝した。 

 網走での厳しい暑さの中でも5000mD組で西田壮志(1年・14分23秒75)、5000mC組で松尾淳之介(2年・14分18秒78)、國行麗生(れお/4年・14分23秒44)、西川雄一朗(2年・14分26分52)らが14分30秒内で走った。阪口は3000m障害を8分37秒64で走り抜いて2位になり、自己ベスト更新、東海大記録をも更新した。

 春日がいう通り、全体的なスピードが伸びてきているのはもちろん、ラストで競り勝つ強さが選手に出てきた。それをいかに秋の駅伝シーズンにつなげていくのか。

「これまでロードを忘れてトラックに集中していたので、今、自分がどのくらい走れるのか、イメージをつかめていない選手が多いと思うんです。そういうところを夏合宿で解消し、自信を持てるようになると駅伝で結果が出てくると思います。幸い、僕はトラックよりも長い距離を中心にやってきているので、走り込みはみんなよりはできています。夏は自分がしっかり引っ張っていきたいですね」

 夏合宿はレベルごとや全日本インカレなど目標大会に応じて、4回ほど場所を変えて行なわれる予定だ。トラックからロードに変わり、しっかりと走り込むのが主になるのだろうが、大きなテーマはあるのだろうか。

「勝つイメージを作りたいですね。力はついてきたと思うんですけど、駅伝では勝ったことがない。イケそうだと手応えはあるのですが、そこから本当に勝つのはすごく難しい。実際、昨年は思い通りの結果を出すことができず、悔しい思いをしました。勝つイメージをしっかりと作り上げていくのは難しいことでしょうが、『これだけやったから勝てる』と思えるような夏にしていきたいです」

 昨年は前評判が非常に高く、出雲駅伝ではアンカーまで首位に立っていた。しかし、勝てなかった。その後、全日本ではシード権を失い、箱根ではシード権確保がギリギリの10位に終わった。力があるはずなのに出し切れないのは、本物の力になっていないのではないか。そんな思いを各自が背負い、上半期はそれぞれがさらに”個”を磨いてきた。春日のいう勝つイメージは、その個に「チームとしていかに戦うか」という意識づけを浸透させることのような気がする。個々に秀でた力が備わったとしても「For the Team」の精神がなければ、駅伝は勝てないからだ。

「夏は合宿がバラバラで全員が同じ流れというわけにはいかないので、各地の4年生と連絡を取り合って、チームをまとめていきたいと思います」

 春日は落ち着いた声でそう言った。主将ひとりではなく、4年生全体でチーム創りを進める。夏に鍛えられたそれぞれのチームが最後にまとまれば、強固な団結力を持ったチームが完成するだろう。春日にはそういう絵が見えているのかもしれない。

 8月5日、白樺高原での全体合宿から東海大の夏が始まった……。

(つづく)