WEEKLY TOUR REPORT
◆米ツアー・トピックス


「カリー! カリー!」

 聞き慣れない大声援がコースに響いたのは、カリフォルニア州サンフランシスコ郊外、TPCストーンブレア(パー70)で開催されたウェブ・ドット・コムツアー(アメリカ下部ツアー)のエリーメイ・クラシック(8月3〜6日)の予選ラウンドでのこと。NBA(プロバスケットボール・リーグ)のゴールデンステート・ウォリアーズに所属するスーパースター、ステファン・カリー(29歳/アメリカ)がスポンサー推薦を受けて同大会に出場し、ゴルフツアーデビューを果たしたのだ。

 結果は、初日「74」、2日目「74」の通算8オーバー。カットラインに11打及ばず、決勝ラウンド進出はならなかった。

「この結果は、僕が思っていた以上の成績。自分のプレーを誇りに思う」

 ラウンド後、カリーははにかみながらそう語った。

 ノースカロライナ州出身のカリー。父は元NBA選手のデル・カリー、弟のセス・カリーもまた、ダラス・マーベリックスに所属するNBA選手と、真のバスケットボール一家だ。

 地元のデビッドソン大で活躍したカリーは、2009年にウォリアーズから全体7位でドラフト指名を受けた。以降、同チームでキャリアを重ね、エースとして成長。2014−2015シーズンには、チームをNBAチャンピオンに導いて、自身もMVPに輝いた。翌2015−2016シーズンにも2年連続でMVPを獲得し、まさにNBA界のスーパースターである。

 そんなカリーは高校時代、1〜2年生まではゴルフ部にも所属していたという。3年生になるとバスケットボールに専念することになったが、そもそもジュニアゴルファーでもあったわけだ。

 その腕前は、NBAの中ではベストプレーヤーと言われる。思えば、一昨年のPGAツアー開幕戦、カリフォルニア州のナパバレーで開催されたフライズコム・オープン(現セーフウェイオープン)のプロアマ戦にも出場。当時、大ギャラリーを連れている組を発見し、何事かと思って近づいてみると、カリーが大勢のファンを引き連れて豪快なプレーを見せていた。

 今大会の初日の朝、カリーは思いのほか緊張していたという。下部ツアーとはいえ、れっきとしたプロツアーに初めて挑むのである。プロアマ戦とは、まったく違う空気感を肌で感じたのだろう。

 そして、10番スタートのティーグラウンドに立つと、NBAの試合に臨む瞬間と同じようにアドレナリンが吹き出たという。そのときの緊張感をカリーが振り返る。

「(NBAの試合前と)同じ感覚だったよ。同じようにアドレナリンが出るのがわかったからね。でも、バスケットボールと比べると、ゴルフはずっと、時間がゆっくりと流れていく。その中で、いろいろなことを考えてしまう。自分の名前を呼ばれた瞬間には、もう手の感覚をほとんど感じることができなかったよ」

 目まぐるしく展開が変わり、スピーディーなプレーが求められるバスケットボールとは違って、確かにゴルフにはそうしたスピード感はない。プレーしている時間よりも、考えている時間のほうが圧倒的に長い。ゆえに、頭の中ではいろいろな感情がよぎる。それこそ、「ゴルフの難しさなのだろうと改めて思った」とカリーは言う。

 カリーの記念すべき第1打は、左に大きく曲がった。最初の5ホールで3つのボギーを叩いた。それでも、6ホール目の15番パー5で初のバーディーを奪うと、初めてガッツポーズも飛び出した。

 後半に入って、3番パー5でふたつ目のバーディーを奪ったが、5番でダブルボギーを喫するなどして、トータル「74」。2日目も、前半9ホールで4つのボギーを喫したが、後半は我慢のプレーを見せて「74」で終えた。カリー自身、2日目の粘りあるプレーには胸を張った。

「今日(2日目)のラウンドは、『80』とか『90』くらいまで簡単に崩れそうな雰囲気があった。でも(崩れずに)本当によく粘れたと思う。特にバックナインでパープレーだったことは、すごく誇りに思う」

 予選通過はならなかったが、カリーのそのプレーぶりは多くのプロから称賛されていた。ある選手が言う。

「他競技のスーパースターの参戦は、ゴルフ界にとっても大きな意味がある。だいたい、彼ひとりで我々の100倍のファンをコースに集めることができた。それは、下部ツアーのウェブ・ドット・コムツアーにとって、本当に素晴らしいこと。また、集まったファンの中には、きっと初めてゴルフを見た人もいるだろう。そうした中で、子どもたちが『ゴルフはクールなスポーツ』だと思って、少しでも関心を持ってくれたら、これはもう大成功だ」

 そんな声がある一方で、カリーは今回の出場について、謙虚にこう振り返った。

「スポンサー推薦で出場の機会を与えてもらったことは、すごく感謝している。ツアーで生きているゴルファーにとって、とても貴重な出場権で、本来はそうしたゴルファーに与えられるものだからね。そういう意味では、そのひとつを奪ってしまったことは申し訳なく思う。ただでも、僕にとっても貴重な経験だった」

 さて、今後のカリーだが、バスケットボールからゴルフへの転向もあるのか? 無論、現状でそんなことはない。しかしながら、カリー自身は自らの可能性を見出して、今後はスイングコーチにつくなど、自分のプレー、ゲームのレベルをさらに上げていくことを考えているという。

 次戦の予定も決まってはいないが、NBAがオフシーズンとなるこの時期、この大会には毎年参戦する、という可能性は大いにありそうだ。そうなれば、新しいゴルフファンが増えるのは間違いない。今後の、カリーのゴルフ界での活躍にも注目である。