ドイツではシーズンの始まりを告げるドイツ杯1回戦が各地で行なわれている。4部のTuSエルンテブリュック対1部のアイントラハト・フランクフルトの試合では、3人の日本人選手が出場し、昨季のファイナリストであるフランクフルトが苦しみながらも3−0で勝利した。

 ケガからの復帰が待たれていた長谷部誠は、右膝を痛めた3月11日のバイエルン戦以来の公式戦復帰となり、先発フル出場を果たした。この日は4−4−2の2ボランチの一角に入ったが、22分にCBのダビド・アブラハムが一発退場となると、その後はキャプテンマークを引き継ぎCBのポジションに入る。数的不利を強いられたフランクフルトは時折、危ないシーンを作られる場面もあったが、長谷部は抜群の危機察知能力でピンチの芽を摘み、無失点勝利に貢献した。

 7月上旬のチームのシーズンインとともに練習に合流した段階では、このドイツ杯初戦ではなく、8月第3週のリーグ開幕戦に間に合えばいいという雰囲気だった。このタイミングで復帰し、先発フル出場を果たせたというのは順調な回復の結果と言える。

 ただし、「個人的な感覚として状態はまだまだ上がるし、上げていかなければいけない」と振り返ったように、まだ状態は完璧ではない。

「試合に出ている以上、あまり痛みがあると言いたくはないんですけど、膝の感覚や自分のコンディションという部分でいえば、まだ60〜70%という感じかなというのは自分のなかではあります」と、現状を説明した。「1対1のところで、まだ行き切っていない部分がやっぱりある」と語るように、身体的というより、感覚的なところで取り戻さなければならないものがあるようだ。

 ドイツ杯初戦は下部カテゴリーのクラブとの試合になったが、だから簡単だということは決してない。4部や5部に所属するクラブの選手にとってはトップレベルのチームと対戦できる貴重な機会であり、アピールしようとモチベーションも高い。復帰初戦としては、通常の試合とは違った難しさがあった。

 普段より激しい接触プレーも覚悟しなければならない試合だったが、長谷部は「そこを怖がっているんだったら、ピッチに立たないほうがいいと思う。それくらいの覚悟を持ってピッチに立たないと他の選手にも失礼。だから、ピッチに立つからにはやるだけだと思ってやっています」と、強い覚悟をもってこの試合に臨んでいたことを明かした。

 残念だったのは、序盤に退場者が出たために、ボランチとしてプレーする時間が短くなってしまったことだ。代表復帰も見据えてボランチとしての感覚を養っておきたいところだったが、「今日はせっかく中盤で出られたんですけど、自分のミスも重なって1人退場になってしまったので、個人的にはもう少し中盤でやれればよかったというのはある」と悔やんだ。

 その代表復帰については「自分がここでプレーをして、それを日本代表の監督なりスタッフなりが見て、いけるとか、呼びたいと思ったら、呼んでいただけると思う。自分ができることは、自分のコンディションを上げること。そして、そのコンディションがいいところを見せる。それしかないと思う」と語る。

 ただ、「自分がケガしてからの代表戦を何試合か欠場して、自分のなかで8月末のゲームで戻ってきたいという目標ももちろんあります。焦って再発しても……という葛藤もありました。ただ、自分のなかで日本代表というものは頭にあるので、もちろんそこは目指しています」と、代表復帰を強く意識していることは隠さなかった。

 今夏フランクフルトに加入した鎌田大地も、この試合で公式戦デビューを飾った。4−4−2の右MFとして先発した鎌田は、退場者が出ると左MFに回り、73分に交代を告げられるまでプレーした。

 立ち上がりに左足でシュートを放つと、12分にもゴール前でヘディングシュートを放つが決められず。16分には長谷部の浮き球のスルーパスに抜け出し決定機を迎えたが、ダイレクトで狙った味方選手への横パスが流れてしまい、モノにすることはできなかった。公式戦デビューの感想を問われた鎌田は、「退場者が出るまでにチームとしても僕自身もチャンスがあったので、ああいうのを決めきれるようにしたいです」と、チャンスで仕留められなかったことを最初に反省した。

 先週も4部クラブとの練習試合に出場した鎌田は、「4部でもやっぱり足の出どころは日本とは違うと思うし、ガツガツ(ボールを奪いに)来るなと思いました。いくつかイージーな奪われ方をしてしまったなと思ったんですけど、それも慣れだと思うので。この試合でも試合中にある程度慣れましたし、問題ないかなと思います」と、ドイツの球際の激しさにも順応しつつある。

 この試合はフランクフルトからおよそ2時間ほどのスタジアムで行なわれ、1万3000人の観客の8割以上をフランクフルトのファンが占めた。「4部の相手との試合とは思えないような雰囲気だったので、いい経験になりました」と語った。

 一方、TuSエルンテブリュックで最も大きなインパクトを残したのは日本人FW西谷優希だった。今季からエルンテブリュックに加入した23歳の西谷は、4部リーグの開幕戦で2ゴールをマークし、地元紙にとっては注目の的。記者が試合前にわざわざ日本メディアのところへ取材に来たほどだった。

 3年前、「世界王者の国であるドイツで自分がどれだけできるか挑戦してみたかった」と、大学を2年で中退してドイツへやってきた西谷は6部のクラブに入団。6部の得点王に輝くと、翌年は5部でも得点王になり、その実力を評価されてエルンテブリュックに引き抜かれた。

 そんな西谷は22分には相手の最終ラインでボールを奪ったところで倒されてダビド・アブラハムの退場を誘発。直後のFKでは左足で決定機を作り出した。身長166cmという体格でもフランクフルトのDF陣に臆することなく挑み、後半もいくつかの決定機を作り出してみせた。試合に敗れはしたが、西谷はその実力を十分に示したはずだ。

 試合後、西谷は「普段テレビで見ている選手と一緒にできるというのは本当に光栄です。こういう相手とやって自分がどれだけできるかというのはひとつの挑戦でもあって、できた部分もできなかった部分もありました。ただ、一番は長谷部選手、鎌田選手と対戦できたのが嬉しいという気持ちがあります」と語った。

 全く異なるルートでドイツへ渡った日本人選手たちがこうして相まみえるというのは、ドイツ杯の大きな醍醐味のひとつだろう。