第19戦・ブラジルGP予選後の技術ブリーフィングを終えて、フェルナンド・アロンソはスタッフ間の会話用インターコムを外してからこう言った。

「これはダウンフォースつけ過ぎなんじゃないか? これじゃ明日のレースでは抜けないし、相当厳しいだろ?」

 予選は7位。ダニエル・リカルド(レッドブル)のグリッド降格でひとつ繰り上がるが、前にはフォースインディアのセルジオ・ペレス、後ろにはウイリアムズのフェリペ・マッサと”直線番長”に挟まれている。

 しかし、アロンソが最高速を気にしてダウンフォース量を指摘した理由は、そればかりではなかった。

 マクラーレンは金曜日にダウンフォースを軽めに抑えたセットアップをトライしていた。その時点ではアロンソの最高速が325.8km/h、ストフェル・バンドーンが327.3km/hまで伸びていた。予選の最高速に照らし合わせれば、全体で8番手にあたるスピードだ。つまり、非力なホンダ製パワーユニットといえども、セットアップによってはこのくらいの最高速は出るのだということが証明された。

 しかしMCL32は、そのダウンフォース量では満足のいく挙動を確保できなかった。結果、土曜日にはいつも通りダウンフォースをしっかりとつけて、コーナーは安定して速いが、最高速はアロンソが316.2km/h、バンドーンが315.5km/hと、それぞれ10km/h前後下がってしまった。

 金曜には抑えているエンジン出力を、土曜には最大限に絞り出す――。もし金曜のままのセットアップで走っていれば、最高速はさらに伸びていたはずだったのに、これだけ下がってしまうほどウイングを立て、巨大なガーニーフラップをつけて車体の前傾姿勢を強めたのだ。

 マクラーレンのエンジニアリングディレクターを務めるマット・モリスは、それが最速タイムを記録するためのベストな選択だったと説明する。

「ここはストレートスピードとインフィールドのバランスが非常に重要で難しいサーキットだから、そのバランスを探ったんだ。当然ながら、決勝での競争力を考えると最高速はほしい。しかしダウンフォースを削ると、セクター2を速く走ることができない。結果的に、土曜日に向けてダウンフォースをつけることが、我々にとってはベストな妥協点だとわかったんだ」

 マクラーレンの車体はドラッグ(空気抵抗)が大きい。その事実はモリスも認める。しかし、それは車体が持つ特性ではなく、速さを引き出すためにウイングを立てているからだと説明する。

「それは我々がダウンフォースをつけているからだ。不思議なことを言っているように思われるかもしれないけど、もしもっとパワーがあればダウンフォースを削り、ストレートで稼ぐ方向のセットアップにすることもできるんだ。しかし現状の我々は、ダウンフォースを削ったとしてもストレートで稼ぐことができない。その一方で、コーナーでもロスすることになってしまう。だから、パワーがないからこそダウンフォースをつけてコーナーで稼ぐほうにいくしかないんだ」

 しかし、ホンダのあるエンジニアはそれに反論する。

 マクラーレンが目指しているのは「最速タイムの出せるマシン」ではなく、ドライバーが「走らせやすいマシン」なのだという。

「それが最速の妥協点ではないと思います。今回はメルセデスAMGやフェラーリでさえ、スピンやコースオフしているくらいだったじゃないですか? それでもマクラーレンはビシッとしていて、コースオフなんかしません。

 それが金曜日は、ダウンフォースを削ったらストフェルがターン2でスピンして、『ほら、やっぱり走れないじゃないか』という状況になった。トップチームでさえ、そのくらいギリギリのところまで攻めてダウンフォースを削っているのに、マクラーレンはしっかりダウンフォースをつけて、ドライバーが走らせやすいクルマを作ってしまっているんです。

 マクラーレンは伝統的に、そういうエンジニアリング方針のチームなんです。ドライバーの不満には絶対に応える、対応するっていうのが彼らの方針ですから。その結果、走りにくいけど速いマシンではなくて、ドライバーが走りやすいマシンに仕上がることになる。『こっちのセッティングのほうが速いから、後はお前ががんばって走ってこい』とドライバーに言えないチームなんですよ」

 マクラーレン自身も、ドラッグの大きさは気にしているという。それだけに金曜にレスダウンフォースのセッティングをトライしたのだが、その結果、車速が伸びないのはパワーユニットのせいだけではないということが明るみに出てしまった。

 予選後のブリーフィングでアロンソが冒頭のように語ったのは、そのせいだった。

 わざわざインターコムを外してエンジニアに対して話したのは、ファクトリーに聞かれず、録音もされないためだった。それが”不都合な真実”であることを、アロンソ自身も認識していたことになる。

 実はこれまでにも、マクラーレンとホンダの間でこのセットアップの方向性に関しては話し合いが持たれてきた。話し合いというよりも、ホンダ側からのクレームに近いものだ。

 ホンダの長谷川祐介F1総責任者はこう語る。

「もちろん話し合いましたよ、何回も。『もっと軽めのダウンフォースにしようよ』っていう話は何度もしましたけど、それでもなかなか……。チームはトータルのラップタイムが速いほうを優先しますし、ダウンフォース量はクルマの安定性にも影響しますから、それこそハミルトンがスピンするようなところでもウチは絶対スピンしませんからね(苦笑)。チームを批判するわけではなくて、そういう方向性のセッティングだということですが、それはいわば先行逃げ切り型の考え方ですから、それでポールポジションを獲っていれば問題ないんですけどね……(苦笑)」

 決勝でアロンソは、アグレッシブなスタートでペレスをかわして5位に上がったものの、直後のセーフティカーからのリスタートで反応が遅れ、マッサに抜かれて6位に後退。ペースはアロンソのほうが速いが、曲がりくねったインフィールド区間では抑え込まれ、ストレートではDRS(※)を使っても追い抜きのチャンスが得られず、本来の速さを発揮できなかった。アロンソが危惧したとおりの展開になってしまったのだ。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。ドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 唯一の逆転のチャンスはピットストップだったはずだが、1度しかないそのチャンスでウイリアムズに先に動かれてしまい、アンダーカットは果たせず。その後はまた必死にマッサに食らいついていき、そのスリップストリームとDRSを活用することで最高速が350km/hまで伸びるペレスをなんとか抑え、8位でフィニッシュするのがやっとだった。

「レースを通してクルマはすばらしかったけど、パワー不足でオーバーテイクすることは難しかった。メキシコGPと同様、アメイジングなくらいパワーがなかったからね。最終コーナーでは何度かフェリペにかなり接近することができて、『これで抜けるかも!』と思ったけど、DRSを使っていても(メインストレートで)引き離されてしまうくらいで、ストレートエンドでは遠すぎてチャンスなんてなかったよ。”普通の”レベルの車速があれば、4位か5位にはなれたはずだ。このパワー不足は、トロロッソにとっては来年に向けて大きな心配事だろうね!」

 レース後にアロンソはそう言ってパワーユニットをこき下ろしてみせたが、すでに彼はそうなった本当の理由を知っているはずだ。前出のホンダエンジニアは語る。

「彼自身もエンジンパワーだけが原因じゃないということはわかっていると思います。だけど、チームから(メディアに対して)そういうふうに言えって言われているんでしょうね」

 8位入賞は喜ばしいことだが、マクラーレン・ホンダはこれで本当にマシンパッケージの実力を100%発揮できたと言えるのだろうか? それもブラジルGPに限らず、この3年間ずっと同じことが繰り返されてきたことになる。

 最終局面を迎えて浮き彫りになった”不都合な真実”を前に、3年間の総まとめとなる最終戦アブダビGPをマクラーレン・ホンダはどのように戦うのだろうか。彼らの最後の戦いぶりに注目したい。