「ラグビーW杯最前線 桜の下の戦士たち」 
●連載第2回:福岡堅樹(後編)

 韋駄天。スピードスター。フィニッシャー。そんな言葉ではまだ届かない。日本代表のWTB(ウイング)福岡堅樹は、生来のスピードを武器にグラウンドを駆けまわってきた。

 とくに、その爆発的なダッシュ力たるや。背を少し丸め、深い前傾姿勢を保った重心の低いランニングで相手ディフェンス網を切り裂いていく。ディフェンスでも、閃光のごときタックルでチームのピンチを救う。「挑みかかる気概」を感じさせるのだった。

“ラグビーワールドカップイヤー”の1月某日。秩父宮ラグビー場近くのカフェの2階だった。いつも誠実、実直。NHK大河ドラマの「いだてん」を見ているかと聞けば、26歳ははにかんだように笑った。

「見ていないです。そういうあれ(ニックネーム)を自覚しているわけじゃないので」

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―昨年秋には、日本代表として、ニュージーランド代表オールブラックス(●31−69)、イングランド代表(●15−35)、ロシア代表(○32-27)と戦いました。3試合で得たものはなんでしょうか。

「ひとつは自信ですね。自分の中では。オールブラックスとは、代表に入ってすぐにやったことがあるんですけど、その時(2013年11月2日、●6-54)は”世界のトップで高い場所にいるチームだ”と必要以上に相手を高く見ていました。何とかしたいとがむしゃらにプレーしていた部分があったと思うんです。それが昨年は、例えば、向かいの選手がスーパーラグビーでマッチアップした時の選手だったので、そういう意味では必要以上に大きく見ることはなくなっていました。自分の中で蓄積されたものもありますし、自分らしいパフォーマンスを出せたのもあったので、やっぱりオールブラックス相手でも、自分の考えを持ってプレーすればパフォーマンスは出せるんだという自信を得られました」

―オールブラックス戦では、トライにつながる、2、3人抜きの鋭いランもありました。大相撲でいえば、同じ土俵で戦える相手だということですね。

「そうです。絶対勝てない相手かと聞かれると、そこまで思わなくなりました。自分たちの戦い方ができれば、(日本)代表は、十分世界に通じるチームになっていると。地力はついてきていると思います」

―ワールドカップまであと8カ月です。自分のテーマ、課題はなんでしょうか。

「一番はケガをしないということです。そこに焦点を絞って、コンディショニングを意識していきたい。早い段階で(体力を)しっかりともう一度、高い水準に持って行かないと、これから戦っていく上で、ケガにつながることになります。そういう意味でトレーニングは欠かさずにやっていきたいと思います」

―コンディショニングというと、具体的に教えてください。

「トレーニング期に関しては、やっぱりベースとしての筋力を上げていきたいと思います。自分自身、ひざには不安を抱えているので、そこに疲労がたまって痛みが出るということがないよう、調整しながらトレーニングをやっていければいいかなと。基本的には、トレーナーと相談しながら。その日、その日でコンディションが変わるので、無理はしないように心掛けますが、その中で限界に挑戦しながら成長はしたいと思っています」

―コンディショニングのキーポイントはなんでしょうか。

「そこは、コミュニケーションです。自分のからだの状態をしっかり伝えて、それをコントロールしていかないといけません。自分のコンディションが悪いのに無理して悪化させるのは避けたい。そういう意味で、コーチ陣だったり、トレーナーだったり、チーム側にも状態をよく伝えて、一緒にコントロールしていきたいと思います」

―福岡さんは文武両道を地でいっていて、将来医学の道を志しています。身体のメカニズムはわかりますか。

「ははは。普通の選手よりは、ぐらいかもしれません」

―医学の勉強はラグビーのプラスになっていますか。

「まだ、医学を勉強しているわけじゃないですけど、自分のケガについて話を聞く時、担当をしている先生が詳しく説明してくれます。メカニズムは多少わかっているので、自分自身の状態、痛み、原因というのを考える際、役に立っているのかなと思います」

―9月にはラグビーのワールドカップが日本で始まります。プール戦の対戦相手も決まっています。日本代表に選ばれたとして、今から試合のことを考えたりしていますか。

「対戦相手を仮想して、これからはしっかりと戦術的に詰めていかないといけません。実際、対戦したことがある相手ばかりなので、イメージはつくりやすいのかなと思います」

―初戦の相手はロシアです。昨年の試合では、トライもマークしていますね。

「はい。戦術に関してはチームに任せているので、自分はそこに合わせてやる、動けることをやるだけです。チームが勢いに乗るためには、初戦がキーになってくると思います。2015年のワールドカップでも、2016年のオリンピックでも、そこを勝ったことでチームは勢いに乗れました。その重要さを実際に体感していますので」

―日本代表の目標はベスト8以上ですよね。

「間違いないです」

―目標達成のためのカギは?

「チームとして、明確にディフェンスの部分で弱点というのがあるので、そこの改善がカギになると思います」

―日本で開かれるワールドカップはやはり特別でしょうか。

「もちろん。それがなかったら、ここまでラグビーを続けていなかったと思います。日本で開催されるから、ここまでやろうと実際、思いました。それぐらいスペシャルなことなんです。チャレンジできるなら、チャレンジしなきゃ、アスリートとして失礼だと思っています」

―ということは、今年の大会が日本でなければ。

「15年の大会で辞めていたと思います」

―日本開催は日本のファンがいるから特別なのでしょうか。

「それもありますけど、なんだろう…自分の国の大会で、自分の国を代表するチームで戦うわけですから。ワールドカップ、オリンピックって4年に1度という、それだけでも十分にレアなことなのに、それが自国でやるとなったら…。その周期が、自分が現役で、しかもピークくらいの時にくるという巡り合わせに幸せを感じています。運の良さというのは、ありがたいなと」

―福岡さんって強運ですよね?

「結構、運に恵まれているなと思います。だから、その運に応えたいなって」

―その流れで東京オリンピックもですか。

「その通りです。本当に最高のタイミングだと思います」

―私たちメディアも同じです。日本でやるワールドカップ、オリンピックを取材できるなんて。その分、自国開催のプレッシャーはありますか?

「わりと感じません。ラグビーをしていない時は、周りに聞かれて感じたりすることもあるんですけど、実際、試合に臨む時は、そういうことは考えずにプレーしているようにしています。目の前のプレーに集中するという切り替えは、自分の中でうまくなったんじゃないかと思っています」

―プレッシャーを気にしない、あるいはそれを喜びに変える。いいですね。

「逆に(昨年)イングランドの(アウェーの)8万人の大観衆の中でやったときは、母国の代表を応援する人たちを黙らせてやりたいぐらいの気持ちでいきました。前半は黙らせられたんですけど。イングランドは勢いに乗り出したらすごかったです」

―東京オリンピックが終わると、医師の道を目指すんですよね。ラグビーでファンを喜ばせ、医師になって人々の病気やけがを治す。人々を幸せにしたいビジョンは共通でしょうか。

「あまりラグビーで人を喜ばせるというのは、最初は考えてなかったですけど…。医学を志す上では、なかなか直接人に感謝される仕事ってないという意味では、光栄な仕事だと思います。そこに生きがいを見出したいなと感じているんです」

―たしか祖父は開業医、父も医師ですよね。そういった周りの影響もありますか?

「はい。もし実際に医師になることができたら、自分自身、スポーツに携われたらいいなというのがあります。自分のような経験はなかなかないと思うので…。お医者さんに理屈的に言われても納得がいかない選手ってたくさんいると思うんですけど、トップレベルを経験した医者から言われると、たぶん、そこは説得力が違うと思うんです。選手とのコミュニケーションもとりやすいでしょうから。そういう自分にしかできないことができたらいいな、というぐらいの漠然とした思いがあります」

―東京オリンピックが終わったら、ラグビーはやめるんですか。

「はい。やめます」

―かつてインタビューした元ウェールズ代表のJ・P・Rウィリアムスという選手は現役時代、医者で代表でしたよ。

「聞いたことはあります。でも、僕には無理です。タイプも年齢も違います。トップレベルでは身体が持ちません。やるとしても、ほんと趣味程度でしょう」

―突然ですが、自分を色に例えると何色でしょう。

「難しいですね」

―純粋ですから、白でしょうか。

「やっぱり自分の生きる道というのは曲げたくないので、周りに染まりそうな白ではないと思います」

―ちなみに所属しているパナソニックのクラブカラーは青ですね。広い海、広大な空の色。

「では、青ですね。基本的には自分のやりたいことにチャレンジしていきたいです。自分の夢には妥協したくない。後悔のない選択をしていった先にあるのが、結局、自分がなりたかった自分になれるのかなって」

―オンリー・ワンですね。

「臨機応変に対応しますけど、基本的には曲げたくないですね」

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 写真の撮影時、福岡堅樹がボールを抱えて窓際に立つ。「今年のラグビーワールドカップに向けた決意を」と聞くと、背筋を伸ばした。

「もちろんトライはとりたいですが、後悔の残らない大会にしたいですね」

 独自の人生設計を生きる。焦らず、気負わず、迷わず、わが道を走っていく。

著者:松瀬 学●文 text Matsuse Manabu