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 近年、日本のプロ野球から世界各地のウインターリーグに参戦する選手は急増している。その多くは、球団が提携を結んでいるチームに派遣するというものだが、自分で受け入れ先を探し、球団に許可を得て海を渡るケースも少なくない。

 ウインターリーグに参加している選手の半分は、自らを「フリーエージェント」と名乗る。日本では「選ばれし者の特権」と思われているこの言葉も、直訳すれば「自由契約」。北半球のリーグで所属球団からクビを言い渡された者たちが、冬場に食いつなぐため、あるいは所属先を探すべく自ら売り込むために集まるのがウインターリーグという場なのだ。


戦力外通告後にトライアウトを受けた村中恭兵だったが、どこからも声はかからなかった

 だから、彼らは目の色を変えて必死にプレーする。今、オーストラリア・ウインターリーグに参戦している元ヤクルトの村中恭兵の立場はまさにこれで、日本から”野球留学”で来ている選手とはまったく立場が違う。

 多くのケースは、日本の球団に籍を置いたまま、海外に武者修行に行く”野球留学”だ。彼らは日本ではない土地でのプレーに、口を揃えて「楽しい」と言う。日本人選手の野球留学は、オフのちょっとした体験型の海外旅行なのかもしれない。昨シーズン終了後、ヤクルトを戦力外となった村中がプロ2年目にハワイでプレーしたもの同じケースだった。しかし、そうした「楽しさ」も日本での所属球団があってこそである。

 村中は、その”野球留学組”とすでに顔を合わせたという。村中が所属しているオークランド・トゥアタラ(ニュージーランド初のプロ球団)と同リーグのキャンベラ・キャバルリーには、横浜DeNAから数人の選手が参加していた。試合前にあいさつを交わしたが、それ以外はなにもなく、とくに意識することもなかったという。

「他人のことは気になりません。結果としてNPBに戻れたらいいですが、まずは野球がしたいという気持ちのほうが強いですね。せっかく腰もよくなったことですし……。独立リーグであっても、国外のリーグであっても、とにかく1年を通して投げたいですね。そのためにここに来たということです」

 先のことは考えず、とにかく今年1年は現役で投げたいというのが、現在の村中の偽らざる心境である。

 このオーストラリアのウインターリーグにはさまざまな者が集まってくる。メジャーリーグとの契約を狙う者もいれば、サラリーマンをしながら野球をしている者、メジャー球団から派遣されてくる者もいる。

 村中と同じく、NPB球団から戦力外通告を受け、かつてこのウインターリーグに参加したことのある選手は、オーストラリアに来た理由についてこう言い切った。

「もう現役という意識はありませんでした。これから第二の人生を歩む前のひとつの体験でした」

 村中の心もまた、「マウンドへの復帰」と「現役を終えるためのけじめ」の間で揺れ動いているのかもしれない。

 年明け最初の登板は、4回を2安打、2失点(自責点0)。リードを守ったままマウンドを降りたが、3四球ということもあって、本人は内容に納得していなかった。それでも、先発としては十分な働きをした。

 観客が野球観戦に慣れていないという理由から、ニュージーランドでの試合に限って7イニング制を採用している。村中も現地に来て初めてそのルールを知ったというが、ここでは先発の責任イニングは基本4回である。2点は失ったが、自責点0で終えたことには自信になったに違いない。

 2失点も、初回にエラー2つが出たことが原因である。そのことについて、村中は自分のリズムが悪かったからだと反省する。

「エラーは全然気にならなかったです。うちのチームは守備がいいんです。今日はたまたま出ただけで、むしろいつも助けてもらっています。今日の相手は韓国人だったでしょ(昨シーズンからオーストラリア・ウインターリーグに韓国人だけで構成されたジーロング・コリア)。やっぱりアジア人は打球が弱く、ボテボテのゴロになりやすい。こっちの選手は速い打球に慣れているから、逆に難しかったと思います」

 この年明け初戦のあとも、村中はエースとして連戦の初戦を任され、結果も出している。チームは地区優勝に向けて独走かと思われたが、その後連敗を喫し、優勝どころかポストシーズン進出さえも危うい事態になりかねない。

 ポストシーズンについては、契約もあってまだプレーするかどうかわからないと村中は言うが、今もチームのエースであることに変わりはない。

「とにかくこっちの野球は豪快で面白いですよ」

 そう言う村中に「こっちで現役を続ければ」と投げかけると、こう即答した。

「はまっちゃっても、こっちは冬だけですから」

 もしかしたら、最後になるかもしれない2020年のマウンドを、村中は思いきり楽しんでいる。

著者:阿佐智●文 text by Asa Satoshi