アメリカ人は本当にトレイルが好きなんだな、とつくづく感心する。

国立公園州立公園に立派なトレイルがあるのは当然にしても、住宅街の公園、フリーウェイのサービスエリア、道路脇のちょっとした休憩エリアにも必ずトレイルがついている。

その理由は、アメリカという国が道を切り拓きながら大きくなった歴史にあると思う。東部のちっぽけなエリアでひっそりと独立宣言をした国が世界の列強に伍していくためには、国土を広げる必要があった。それが西部開拓という夢だった。作られた道はトレイルと呼ばれ、その途中に町ができていった。わずか200年ほど前のことだ。

今回はアメリカ旅行中に体験したさまざまなトレイルを紹介しようと思う。それぞれがいろいろなスポーツと結びついている点にも注目してほしい。

■針葉樹林を抜けてシエラネバダ山脈を眺望

アメリカのトレイルといって、まず思い浮かべるのは森の中を行くハイキングコース。

カリフォルニア・シエラネバダ山脈セコイア国立公園キングスキャニオン国立公園がちょうど隣接する地点にあるストーニークリーク・キャンプグラウンドにチェックインした。

キャンプ場にはトレイルがつきもので、ジェニーエリス・レイク・トレイルは、何本かあるうちのひとつだった。このトレイルを選んだのは、片道7マイル(11.2キロ)という手頃さ。朝イチに出れば湖を見て午後には帰って来られるだろうと軽く考えた。なんとなく湖を見たい気持ちも沸いてきた。

ところが、のっけから急な上りが続く難コース。アメリカのトレイルは難易度によって3段階に分類されるが、初心者向けと思い込んでいたところが上級者コースだったのだ。

キングスキャニオンからシエラネバダ山脈を望む   撮影:牧野森太郎

針葉樹林を縫って伸びる道を、ときに見失いそうになりながら2時間ほど登り続けると、その甲斐があって、雪をいただくシエラネバダ山脈を眺望する地点に到達した。ここを峠の頂点と自分で決め、持参したランチをおいしくいただいた。戻ったときにはかなりへばっていて、トレイルヘッド近くを流れるクリークの冷たい水に足を浸すと満足感がじわっと沸いてきた。

■公園内に2つの砂漠の境界線が存在

トレイルは森の中ばかりではない。ジョシュアツリー国立公園は、カリフォルニア州東部に広がる砂漠の公園だ。砂漠なんてどこも同じだろうと思いがちだが、アメリカには5つの砂漠があり、それぞれ気候が違い、生息する動物も自生する植物も異なる。

U2にも歌われたジョシュア・ツリー国立公園 撮影:牧野森太郎

ジョシュアツリー国立公園の特徴は、東に低く乾いて暑いコロラド砂漠が広がり、西を標高が高く比較的、降雨量が多いモハべ砂漠が占めている点。つまり、2つの砂漠の境界線が存在する。公園内を東西にドライブすると、劇的な変化が楽しめる。

公園の西部は奇岩が大地に突き出していることでも知られ、ヨセミテ国立公園と並ぶロッククライミングの聖地となっている。トレイルヘッドがあるヒドゥンバレーの駐車場で、準備をする若者たちに出会った。命がけのスポーツだけに思いのほか、重装備だ。灼熱のトレイルを歩き、目的の岩に登る。這い上がった岩の上から眺める砂漠の景色は、さぞや壮観だろう。

ジョシュア・ツリーを行く筆者・牧野森太郎

■滝を見ながらのランは爽快そのもの

オレゴン州南部にあるクレーターレイク国立公園の見どころは、その名のとおり、火山の噴火によるカルデラ湖。いわば、スケールの大きな十和田湖だ。水深597メートルは、アメリカで一番深い湖として知られている。

訪れた5月末は、まだ雪が残り、ほとんどのトレイルは閉鎖されていた。観光の中心、リムビレッジから延びる、リムを周回する有名なトレイルも雪の中だ。しかし、へこたれるわけにはいかない。何とか雪をかきわけ、ディスカバリーポイントまでのたった1マイル(1.6キロ)をなんとか踏破した。最盛期なら人混みのトレイルだが、さすがにすれ違ったハイカーは数人だけだ。

夏になり、リムを降りて湖畔からボートに乗るトレイルもオープンしたようだ。かなりの難コースと聞いているが、この湖にボートを漕ぎ出す快感は想像を絶する。

広角レンズでもおさまりきらない雄大なクレーターレイク  撮影:牧野森太郎

ワシントン州北西部のオリンピック国立公園は、温帯雨林という特異な気候が生む森の景観が見どころ。まずは、クイノールト湖のトレイルヘッドから伸びる、初心者コースのレインフォーレスト・ナチュラル・トレイルに入った。

さまざまな苔が木と共生する不思議な景色にカメラを向けていると、「エクスキューズ・ミー」と明るい声が響いた。なんと、若い女性3人組のトレイルランナーが背後から近づいていたのだ。

考えてみれば、この森こそランナー憧れのシングルトレイルではないか。翌日、歩くはずだった3マイル(4.8キロ)のゴットンクリーク・トレイルは、ランニングで挑戦することにした。

クリークを超え、滝を見ながらのランは爽快そのもの。ときに足を止めて撮影をしながら、トレイルを楽しんだ。国立公園を訪れるときは、どうぞランニングシューズを忘れないように。

眇たる人間の存在を痛感させるオリンピック国立公園  撮影:牧野森太郎

■数多の国立公園では大自然がそのままに

カリフォルニア州北部のラッセン火山国立公園は、1915年5月22日に起きた大噴火によって激変した景観と、今も続く火山活動が見どころ。冬の間、周辺はウインタースポーツを楽しむ人たちで賑わう。

チェックインしたマンザニータ・レイク・キャンプ場から延びる、湖畔を一周するマンザニータ・ループ・トレイルを歩いた。ラッセン山のビューポイントでは、かわいいガチョウの親子にも遭遇した。

ふと足を止めて上空を見上げると、大きな鳥が悠々と滑空している。その様子を眺めていると、それは突然、ものすごい勢いで湖面にダイブした!

この湖はトラウト・フィッシングで知られている。きっと鳥はトラウトを狙っていたのだろう。しばらく歩くと、ランプで1人の老アングラーがボートを下ろしていた。「鳥がダイブしていましたよ」と話すと、親指を上げてニヤッと笑った。

アメリカでは釣りは立派なスポーツ。スポーツショップに行くと、必ず大きな売り場が確保されている。国立公園に行くときは、釣り竿も忘れずに。

大自然が手つかずのままというラッセン火山国立公園  撮影:牧野森太郎

世界で初めて国立公園を制定したのは、もちろんアメリカだった。1872年、イエローストーン国立公園が初めて指定された。広い国土を活かした数多の国立公園は大自然がそのまま残されている。その国立公園でのトレイル・ランニングは新型コロナ禍により、狭い島国に長らく閉じ込められていた心身を解放するには、うってつけだ。

著者プロフィール

牧野森太郎●フリーライター

ライフスタイル誌、アウトドア誌の編集長を経て、執筆活動を続ける。キャンピングカーでアメリカの国立公園を訪ねるのがライフワーク。著書に「アメリカ国立公園 絶景・大自然の旅」「森の聖人 ソローとミューアの言葉 自分自身を生きるには」(ともに産業編集センター)がある。デルタ航空機内誌「sky」に掲載された「カリフォルニア・ロングトレイル」が、2020年「カリフォルニア・メディア・アンバサダー大賞 スポーツ部門」の最優秀賞を受賞。