今季よりSCフライブルクへ加入した日本代表MF堂安律が敵地で行われたドイツ・ブンデスリーガ開幕戦、FCアウクスブルク戦で先発出場。「4-2-3-1」システムの右ウイングとしてプレーし、チーム4点目となるゴールを挙げ、4−0の勝利に貢献した。堂安は独誌『キッカー』が選ぶマン・オブ・ザ・マッチおよび第1節のベストイレブンに選出される活躍を見せ、幸先の良いスタートを切った。

■ドイツでもっとも模範的なクラブ

開幕戦で大勝したフライブルクは昨季ブンデスリーガで6位、DFBポカール準優勝の大躍進を遂げたチーム。今季は2013-14シーズン以来のUEFAヨーロッパリーグへ出場する。

従来のフライブルクは活躍した選手が国内外の上位クラブへと引き抜かれ、その移籍金収入をもとに、若手の育成やインフラ整備に投資してきた典型的な育成型クラブだ。浦和レッズでも指揮を執ったフォルカー・フィンケ監督が1991年から2007年まで16年間率いた時代にその礎が築かれ、ドイツで「もっとも模範的なクラブ」と称されている。

昨年10月には新本拠地ヨーロッパ・パルク・シュタディオンがオープン。ソーラーパネルによる完全自家発電のシステムを搭載し、3700台の自転車駐輪場を備える最先端の未来型エコ・スタジアムとして高く評価されている。

昨季の躍進もあり、胸スポンサー料も約2倍となった。よって今夏の移籍市場では主力選手が軒並み残留。ドイツ代表でも存在感を増すDFニコ・シュローターベックこそ、強豪ボルシア・ドルトムントへ引き抜かれたものの、代役として8年ぶりの古巣復帰となったマティアス・ギンターを獲得。クラブOBとはいえ、28歳と全盛期にある現役ドイツ代表DFの獲得はクラブが次のステップに進んでいる証だ。

堂安の獲得にもクラブ史上2番目に高額な移籍金800万ユーロ(約11億円)を投資。ギンターにしても堂安にしても他クラブとの熾烈な争奪戦を制している。代表クラスの逸材を積極補強するクラブは、常にリーグでトップ6に入って欧州カップ戦に出場できる「ビッグクラブ化」への野心を見せている。

■堂安がドイツで高く評価される理由

堂安は2020-2021シーズン、オランダの強豪PSVアイントホーフェンから1年間の期限付き移籍によってブンデス1部昇格組のアルミニア・ビーレフェルトでプレー。絶対的な主力としてリーグ全34試合に出場し、5ゴール3アシストを挙げてチームの1部残留に大きく貢献した。特に卓越したドリブルスキルや体幹の強さを活かしたキープ力の高さもあり、局面での1対1による「デュエル勝利数」がリーグ全選手の中で7位となる384回を記録。

同シーズンに同ランクトップとなる476回を記録した日本代表MF遠藤航シュツットガルト)が「デュエル王」として注目を集めたが、攻撃陣でこの数字を記録した堂安は驚異的だ。また、ビーレフェルトのチームとして放ったシュート数がリーグワースト2位だった中、堂安は個人としてリーグ全体8位の67本のシュートを放つなど、孤軍奮闘する姿が印象的だった。

現在のドイツは現代的で組織的なサッカーが浸透して「戦術大国」となっているが、局面での1対1の勝率を重んじる伝統は今も変わらない。昨季はPSVに戻って公式戦11ゴールを挙げたこともあるが、昨夏からドイツの複数クラブが獲得に動いたのは、こうしたビーレフェルトでの活躍ぶりを高く評価されているからだ。

フライブルクの地元メディア『バーデン・オンライン』では堂安の特集を掲載し、バイエルンで一時代を築いた元オランダ代表のレジェンド、アリエン・ロッベンとも比較されている。ロッベンが堂安と同じく左利きで右サイドのウインガーだったこと、オランダのフローニンヘンからPSVへステップアップしたキャリアといった共通項が多く、実際にロッベンのトレーニング方法を知るために、彼の父親とも話をしていたことも伝えられている。

■長所も短所も理解するシュトライヒ監督の存在

しかし、フライブルクで就任12年目を迎えているクリスティアン・シュトライヒ監督は、「リツはサイドで張ってプレーするタイプではない。内側のハーフスペースに入って縦パスを引き出せる選手で、今までのウチにはない新たな武器だ」と、堂安がロッベンとは異なる長所を持っていることを理解している。

堂安自身もフライブルクを新天地に選んだ理由として、この長期政権を築く指揮官の名前を挙げており、「短所も含めて理解してもらっている。この監督にならキツイことを言われても素直に受け入れられるし、父親のような指導者だと思う」と信頼を寄せる。

PSVのドイツ人指揮官ロジャー・シュミット(現ベンフィカ監督)からも「ウチと似ていて、戦術的にボールを失った瞬間から積極的にプレスをかけるサッカーを志向しているから、フライブルクはベスト・ステップになる」とアドバイスを受けたことも明かしている。

フライブルクの凄さは前線からボールを激しく奪いに行くハイプレスのチームでありながら、昨季のブンデスリーガで警告を受けた回数がリーグ最少の34回だったことに表れている。それだけ緻密に戦術が練られ、チーム全体に深く浸透していることが裏付けられる。

また、フライブルクで歴代最多の101得点を記録し、途中出場からのゴール数がブンデス史上最多の33を誇る元ドイツ代表FWニルス・ペーターゼンは、バイエルン所属時代に堂安の先輩でもある元日本代表FW宇佐美貴史(ガンバ大阪)と家族ぐるみの付き合いがあり、現在では日本食レストランを経営するほどの親日家だ。堂安もさっそくレストランのメニューについての意見交換をするなど、新たなチームメートとのコミュニケーションも上々のようだ。

「監督、チームメート、クラブ、街並みなど、全てが気に入っていて、加入してから2週間くらいでフィットできたと思う」。

11月にカタールW杯を控える中で、新たな野心を持つクラブと相思相愛の関係で挑む今シーズン、好スタートを切った堂安律はさらなる高みへと飛躍する。

文●新垣 博之