ネスレ日本・高岡浩三社長(左)と深谷龍彦次期社長(右)

ネスレ日本は3月10日、事業戦略発表会をインターネットのライブ配信で開催した。4月1日から社長兼CEOに就任する深谷龍彦常務と、退任する高岡浩三社長兼CEOが揃って登壇することで注目された。高岡社長は、マーケティングの視点を経営に取り入れ、数々のイノベーションにより業績を伸ばしてきた。

高岡社長は、社長在任期間の約10年間について振り返り、「単においしくて、栄養価値の高い食品をお客様に提供することにとどまらず、経営にマーケティングの考え方を取り込み、顧客の問題を発見し、解決していくことで新しいイノベーションを創出してきた。それにより、社内でも働き方改革をかなり前から実践できた」

「ビジネスモデルは、いわゆるデジタルトランスフォーメーションを駆使してきた。その結果、それまで家庭内消費に集中してきたコーヒーを中心とした食品のビジネスを、“ネスカフェ アンバサダー”という新しいサービスなどにより、家庭の外のビジネスにつなげられた。アンバサダーのビジネスモデルは、インターネットという21世紀の技術がなくてはなしえなかった」と語った。 「2010年〜2019年の振り返り」(ネスレ日本資料)

「2010年〜2019年の振り返り」(ネスレ日本資料)

深谷次期社長は、ネスレ日本の今後のビジョンについて発表。「まずは、食品、飲料メーカーとして、安全でおいしくて身体にも心にも嬉しいといった商品を、お客様に間違いなくご提供していく。そして、これからの時代は、おいしさや身体によいだけでは、決して十分ではない。環境に優しく、しかも使いやすい形で、付加価値をつけた製品をご提供していく。その上で、数年前より単に製品だけではなく、どうやってサービスという付加価値を、製品に付加できるかにチャレンジしている」
 
「お客様の問題を解決できるようなサービスという要素を、おいしくて、環境に配慮されている製品に付加して、よりスピーディーに、よりイノベーティブな発想で提供することに、これから突き進みたい。そうすることで、クオリティに対する要求が非常に高い日本の消費者の皆様、そしてお取引先の皆様、そしてネスレ日本の従業員とその家族が幸せになれるようなクオリティ・オブ・ライフを向上させていく」と話した。

「ネスレ日本の事業戦略(2020年〜)」(ネスレ日本資料)

「ネスレ日本の事業戦略(2020年〜)」(ネスレ日本資料)

具体的には、共働きで家庭内で過ごす時間が減少していることから、「ネスカフェ アンバサダー」「We Proudly Serve Starbucks事業」を中心としたオフィスチャネルのさらなる開拓。そして、超高齢化社会を迎えることから「ネスレ ヘルスサイエンス」ならびに「ネスレ ピュリナ ペットケア」のビジネスを、これから大きく伸ばす可能性を感じる領域として挙げた。
 
そして、「高岡(社長)が作り上げてきたイノベーションカルチャーに溢れ、非常に生産性の高い、社員が頑張って働いている組織がある。ネスレが持っている強固なブランドと、われわれの強みである組織を組み合わせた時に、最大限の力が発揮できると考えており、戦略の根幹として持っているCSV(共通価値の創造)をより推進することで、事業がさらに大きく羽ばたけると思っている」(深谷次期社長)。
 
ネスレ日本を退任する高岡社長は、2010年の社長就任から約10年間、「ネスカフェ アンバサダー」や「キットカット ショコラトリー」などのイノベーションを行い、「キットカット」受験生応援キャンペーンの展開などイノベーティブなマーケターとして知られている。
 
この10年で最も重要なイノベーションは何だったかという問いに対して、高岡社長は、ひとつ挙げるのは難しいと前置きしつつ、「意外かもしれないが“イノベーションアワード”が一番気に入っている。やはり、どんな成功も、最初から意図したところで、意図したとおりに成功したことは、私の中で一回もない。おそらく、先輩諸氏の方々もそうだろう。いくつかの成功体験と、数えきれない失敗体験を重ねてきた結果、自分の中ではイノベーションの在り方というものを定期的に紐解いて、考える時間をアワードで取れたということが大きい」
 
※イノベーションアワード=社員全員が顧客の問題解決を実践できるよう、毎年行われる社内コンテスト
 
「それを社内の中に根付かせるために、社内のトレーニングを“イノベーションアワード”に集約して、一般社員からトップマネジメントに至るまで、顧客の問題発見に努め、何度も小さいテストをくりかえしながら顧客の問題解決を生み出していくという方程式を全社挙げてやってきた。その結果が出たということは、正直世界的にも類をみないのではないか。そういった意味では、何か一つどうしても挙げるならば、“イノベーションアワード”を挙げたい」と語った。
 
ライブ配信では、ネスレ日本の昨年度の業績も発表された。それによると、売上成長率が前年比3.3%増、営業利益額は同11.2%増、営業利益率は2.6%改善している。なお、利益面の改善は、企業年金の仕組みの変更の影響も含まれる。高岡社長は、自身の締めくくりとなる昨年の業績について、「先進国においても他国にひけをとらない成長となった。その意味では、非常に満足のいく結果が出た。これは当社社員のみならず、お取引先様、全てのステークホルダーの皆様のおかげと思い、感謝を申し上げたい」と述べた。
 
〈高岡社長のコメントは以下の通り〉
グローバルに通用するような日本的経営を、自分が在任している間に達成したいと強く思ってきた。それはすなわち、日本企業における非常に大きな長所として、社員間に非常に高い企業のロイヤリティーを、そして社員だけでなくお客様も含めて企業のロイヤリティーを作り出していくものだ。そして、社員に対しては、ワークライフバランスのとれたイノベーションカルチャーに溢れる、そして極めて生産性の高い経営をいかに実践していくか。そのような目標をもってこれまで邁進してきたつもりだ。
 
その結果、社員の協力もあり、マーケティング経営という形で、顧客の問題発見とその解決に努めてきた。単にコマーシャル部門だけでなく、(総務や人事など)間接部門においても顧客の問題を発見し、解決していくことで新しいイノベーションを創出し、より高い労働生産性を果たすことに努めてきた。
 
働き方改革では、すでに時間や場所にとらわれない働き方を推奨しており、会社から指示をしなくても、社員の権利として、上司に承認ではなく報告をすることで、自宅で仕事をすることを認めている。それにより小さな子どもを持つ共働きの社員にとっても、会社に行くことなく、子どもの面倒を家でみながら仕事ができる体制をすでに数年前から準備を整えてきた。
 
採用についても通年採用を導入し、新卒の一括採用や入社式もやめて、年間を通じて多種多様なダイバーシティに富んだ社員を採用していくという方針もかなり前から実施している。そして、いかに大きな組織の中にあっても、小さなスタートアップ企業のように、迅速にイノベーションを果たしていくために、人事部と一緒になって「イノベーションアワード」という全社員が個人で参画する、単なるアイデアコンテストにとどまらない、新しいイノベーションを生み出すトレーニングの方法を、社内でこの10年間構築し、実績を積んできた。
 
この10年間にかなりの新しい変革を起こしてきたことにより、10年前に比べて企業文化が大きく変わったと社員も言ってくれている。ただ、全ての問題解決に取り組めたわけではない。日々、新しい顧客の問題が生まれていく昨今の中で、私自身、バトンを次の若い世代に渡すという決断をし、新しい社長の任命に至った。
 
〈深谷龍彦次期社長のコメントは以下の通り〉
これからの方向性で、いくつかのキーワードがある。単なる製品だけではなく、そこにどういったサービスやソリューションを付加できるか。そこにはデジタルのイノベーションが必要で、われわれが特に注力しているブランド.COMを中心としたeコマースという新しいチャネルを活用していく。日本の人口が減る中で、企業として成長するためにはプレミアム化は避けて通れない。プレミアム化を推進していきながら、また一方で共働きが増え、家庭で過ごす時間が減っている状態の中で、外食のビジネスにももっと注力していく。
 
一方、プラスチックの削減は、日本だけでなくグローバルの問題になっている、こういった包装に対するわれわれのコミットメントをどのように達成していくのかも考えていく。一方で、プラスチックだけではなく、よりサステナブルな形でお客様に食品や飲料を届けるという観点に立った時に、プラントベース(植物由来)の製品もお客様にお届けしていきたい。
 
ネスレ日本が現在追求している共通価値の創造は、“個人と家族”では「ネスカフェ アンバサダー」や「介護予防カフェ」を推し進めている。また、“コミュニティ”では、働きがいのある会社、“イノベーションアワード”など社内のコミュニティ、そして、昨年スタートした「沖縄コーヒープロジェクト」など、外のコミュニティに対してもどうやって寄与し、一緒に価値を創り上げていけるかにチャレンジしていく。“地球”では、未来の環境のために、資源を守るために、プラスチックの削減やプラントベースへの取り組みにこれからチャンレンジしていきたい。それらの活動を通して、より強いネスレ日本という会社を目指していく。
 
ネスレは、とてもユニークな会社である。スイスに本社があるので、グローバルのディレクションが出ることはあるが、それをそのまま日本で当てはめたからと言って成功するはずもなく、世界で考えられたものを、どうやって日本のお客様の問題解決に役立てるかを考え、日本の色をつけていくのがわれわれの仕事だ。そういった意味で外資系でありながら、日本に100年以上長く根差して事業を展開しているというユニークなところは、今後ももっと生かしていきたい。