新型コロナウイルスの感染が拡大し、終息の気配が見えない。安倍晋三首相が全国の小中学校、高校などに春休みまでの臨時休校を要請するなど不安が募るばかりだが、専門家は「みんながパニックに陥れば、医療や社会が崩壊する」と警鐘を鳴らす。今こそ、健康に関する正しい情報を入手して活用する力「ヘルスリテラシー」を高め、冷静に行動することが重要だ。 

受診の目安、一般の人は37.5度以上が4日以上

 政府が2月末にまとめた基本方針は、風邪の症状がある場合は外出を控え、むやみに受診しないよう呼び掛ける。相談・受診の主な目安は、高齢者や基礎疾患がある人ら重症化のリスクが高い人は37.5度以上の発熱など風邪の症状が2日程度、一般の人で4日以上だ。

 ただ、その間、自宅で様子を見るだけで大丈夫なのか。感染症専門医で、マイファミリークリニック蒲郡(愛知県蒲郡市)院長の中山久仁子さんは、7万人を超える症例を分析した中国の論文などを根拠に「感染者の8割は軽症で、特に治療をしなくても1週間ほどで治る」と説明する。

 進行も比較的緩やかだ。国の対策づくりに関わった沖縄県立中部病院感染症内科の高山義浩さんが作成した図(下)によると、感染者がたどる経過は2つのパターンに分けられる。1つは、普通なら2〜3日で終わる発熱やせきなどの風邪症状が1週間ほど続いて治るパターン。患者の大半はこれにあてはまる。もう一つは、風邪症状が1週間くらい続いて、強いだるさなどが出てくるパターンだ。

「初期は風邪かインフルか、新型か見分けられない」

 中山さんは「初期は普通の風邪か、インフルエンザか、または新型コロナかを見分けることはできない」と指摘。その上で「インフルのような抗ウイルス薬もない中では、自宅安静が一番」と話す。市販の風邪薬を飲んでもいい。ただ朝夕2回の検温など症状を注視することは必要だ。急な高熱や体の痛みなどインフルを疑う場合は「医療機関に相談の上、受診して」と言う。特に子どもは要注意だ。

 風邪症状が受診の目安を満たすか、息苦しさや強いだるさがある時は、新型コロナ感染の可能性があるため、帰国者・接触者相談センターに連絡する。肺炎が疑われる場合は胸部画像診断や血液検査などが行われる。その結果、ウイルスが原因の可能性があり、入院が必要なほど重症と判断されて初めてウイルスを検出するためのPCR検査が実施される。この流れを踏まえれば、早い検査が治療や回復につながるものではないと分かるはずだ。

感染力強いのは発症から3〜4日目

 検査態勢に限界があることに加え、新型コロナはインフルと比べて感染者のウイルス量が極度に少なく、検出や判定が難しいことも明らかになっている。検査はこれまで、陽性者を見つけて隔離するのが目的だったが、感染経路が追えない患者が出てきて封じ込めが難しくなりつつある現時点では、重症者を見つけることが重視され始めている。

 「重症例や死亡者を減らすには、地域で感染者を増やさないことが大切」と中山さん。感染力が強いのは発症から3〜4日目といわれ、無症状の人からの感染を示唆する例も国外では報告されている。中山さんは「軽い風邪症状でも『自分が感染源になるかも』という危機意識を持って行動してほしい」と訴えている。

差別やいじめ、誤情報の拡散を防ぐためには

親がイライラ…子どもは余計にストレス

 真意が分からない情報に追われ、パニックになってはいけない」。長年にわたり地域医療に携わる諏訪中央病院(長野県茅野市)名誉院長で、内科医の鎌田実さん(71)は「正しく恐れることが重要」と訴える。

 首相の要請を受け、2日から全国で多くの小中学校、高校などが臨時休校となった。大人でも不安になる中、鎌田さんが心配するのは、友達や先生に突然会えなくなった子どもたちの精神的ショックだ。「親がイライラしていると、子どもは余計にストレスをため込む。こういう時こそ冷静になることが求められる」と話す。

 まず大事なのは、どんな病気であっても特性を理解することだ。新型コロナに関しても世界保健機関(WHO)などが情報を出している。例えば、風邪。「風邪に効く抗生物質はない」と鎌田さん。「症状があるから」と受診すれば、院内で新型コロナを含め別のウイルスに感染する恐れもあり「自宅での安静が基本」と強調する。

感染を非難する言動は絶対にしない

 新型肺炎に関わる動きの中で、もう1つ、鎌田さんが危惧するのは、感染を巡る差別やいじめだ。

 鎌田さんは「医療従事者が差別される状況になれば医療は崩壊する」と断言する。患者が差別を恐れて感染を隠すことがあれば、さらに拡大の危険が増す。「誰もが感染する可能性がある今、感染したことを非難する言動は絶対にしてはいけない」と語気を強める。

 ニュースも新型コロナ一色で社会が騒然とする中、鎌田さんは「ストレスは免疫力を低下させるという論文もある」と指摘。電話を使って人と話す機会を多くつくるなど、心を落ち着かせるよう促す。

高めようヘルスリテラシー

 新型コロナのような未知の病気に直面した時こそ、正しい情報を入手して活用するヘルスリテラシーが不可欠だ。だが、聖路加国際大看護情報学分野の中山和弘教授は「日本人のヘルスリテラシーは他国より低い傾向にある」と指摘する。

 中山教授は2014年、ドイツなど欧州8カ国の大学が作った47の質問項目を使い、20〜69歳の日本人1054人に調査を実施。「治療に関する情報を見つける」「医師の説明を理解する」などについて4段階で難易度を尋ねたところ、「やや難しい」「とても難しい」と答えた人の割合が全項目で欧州平均を上回った。中でもインターネットを含むメディア情報が信頼できるかを判断することについては73.2%が「難しい」ととらえ、欧州の49.7%を大幅に上回った。

情報は「出典」のチェックを

 日本人のヘルスリテラシーが低い理由として、中山教授は欧州に比べて学校で体や健康について学ぶ機会が少ないことを挙げる。新型肺炎を巡り、ネット上には、さまざまな情報があふれ、不安につけこむ詐欺も横行している。「マスクを無料送付。確認お願いします」「費用を肩代わりするので検査を受けるように」などの文章をメールなどで送り付け、個人情報を盗み取ろうとする手口に対し、厚生労働省などが注意を呼び掛けている。

 中山教授が情報の正しさを見極める上で提案するのが「か・ち(価値)・も・な・い」の合言葉だ。「出典がない情報はあてにならないと心得て、誤った情報に飛び付いたり拡散したりしないことが重要」

[元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年3月3日]