低体重の赤ちゃんに与える「ドナーミルク」=藤田医科大提供(一部画像処理)


 1500グラム未満で生まれた小さな赤ちゃんに、ボランティアが寄せた母乳「ドナーミルク」を与える「母乳バンク」の取り組みが広がっている。母乳が出ない、服薬の影響で母乳を与えられないといった母親の代わりに、免疫成分を多く含む母乳を与え、病気から守るのが目的。東京でしかできなかったドナー登録も各地でできるようになってきた。

1500g未満…ドナーミルクに救われた

 愛知県岡崎市の平野由麻さん(29)は、ドナーミルクに助けられた一人。長女の詩(うた)ちゃんは8月、同県豊明市の藤田医科大病院で生まれた。予定より約2カ月早く、体重は1447グラムで通常の半分程度だった。

 7年前に子宮頸(けい)がんを患って手術を受け、医師からは早産のリスクを指摘されていた。初めて対面した時は「『小さく産んでごめんね』と娘に申し訳なく思った」という。母乳が出ないことで余計に落ち込んだ。

免疫成分があり、腸への負担が少ない

 低体重の赤ちゃんは消化器官が未発達で、腸の一部の細胞が死んでしまう「壊死(えし)性腸炎」をはじめ、病気にかかりやすい。母乳は、病気から赤ちゃんを守る免疫成分を含む上、粉ミルクに比べて消化がよく、腸への負担も少ない。なのに、全く出ない。「早くあげなきゃと焦りだけが募った」

 そんな時、医師から聞いたのが、殺菌・冷凍処理が施されたドナーミルクの存在。詩ちゃんは、生まれた翌日から7日間、チューブを通してドナーミルクを飲んだ。最初は1日8回、1ミリリットルずつ。体重が順調に増えたため、粉ミルクに切り替えた。「ドナーの方の善意が救い。感謝しかない」と平野さん。生後2カ月の今、体重は3600グラム。誕生時の倍を超えた。

図解 母乳バンクの仕組み

2014年に開設 全国10施設で登録

 母乳バンクは、昭和大江東豊洲病院(東京都江東区豊洲)教授で小児科医の水野克己さん(59)が2014年に院内で開設。2017年には、ドナーの登録手続きなどを行う「日本母乳バンク協会」も設立した。水野さんによると、1500グラム未満で生まれる赤ちゃんは日本で年間約7000人。母乳を与えることで、壊死性腸炎にかかるリスクは3分の1程度に減らせるという。

 日本母乳バンク協会は全国約20カ所の病院と連携。年間約100人の赤ちゃんに、ドナーミルクを提供してきた。認知度が上がるにつれ、東京の日本母乳バンク協会でしかできなかったドナー登録は全国約10施設で可能になった。

◇ドナー登録・検診を行っている施設
北海道 のえる小児科(札幌市)
東京都 国立成育医療研究センター(世田谷区)
昭和大学病院(品川区)
仲村医院(目黒区)
神奈川県 かるがも藤沢クリニック(藤沢市)
茨城県 つくばセントラル病院(牛久市)
愛知県 緑の森こどもクリニック(岡崎市)
藤田医科大学(豊明市)
兵庫県 古賀小児科(尼崎市)
香川県 香川大学病院(三木町)

 10月から希望者を受け入れている藤田医科大病院はその一つ。今月上旬、生後3カ月の子を育てる愛知県内の母親がドナーとして登録した。母親を問診し、血液検査の結果などを確認した小児科の宮田昌史医師(48)は「どの地域で生まれた赤ちゃんも、最も望ましい医療を受けて成長できるよう母乳バンクの取り組みに協力したい」と喜ぶ。

全国2カ所目 ピジョンが日本橋に

 9月には、育児用品製造販売会社のピジョン(東京都中央区日本橋)に全国2カ所目となる母乳バンクがオープン。低温殺菌する機械や保管のための冷凍庫などを備え、2カ所合わせて年間約700人の赤ちゃんにミルクを提供できる態勢が整った。

 水野さんは「自分の子育てだけでも大変な中、母乳を提供してくれるドナーや連携病院の協力なしでは成り立たない」と感謝。「母乳バンクは大勢の人に支えられている」と話す。

無報酬でも希望者多数 ドナー受け付けは一時停止中

 ドナーは搾乳した母乳を冷凍し宅配便で日本母乳バンク協会へ。必要な処理をした後、発注があった病院に送られる。登録希望者は日本母乳バンク協会を通じて申し込み、全国約10カ所の登録病院で医師の問診を受ける。ドナーは無報酬。希望者が多く、今は受け付けを一時中止している。再開時期は日本母乳バンク協会のサイトで確認できる。