原因不明の子どもの急性肝炎が各国で相次いで報告されている。風邪などを引き起こすアデノウイルスが原因として疑われており、海外では肝移植が必要なほど重症化する例も。ただ、今のところ、国内では明らかな増加傾向は見られず、専門医は「肝炎の兆候に日頃から注意を払うことは大事だが、過度に恐れる状況ではない」と冷静な対応を求めている。

専門医「重症例は年間20例もない」

 「小児の急性肝炎は、とてもまれ。肝移植が必要なほどの重症例は、国内では年間20例もない」。名古屋市立大病院小児科助教の伊藤孝一さん(45)は、こう説明する。小児の肝臓疾患の診療に15年以上取り組み、専門医でつくる日本小児肝臓研究会の運営委員として症例検証にも携わる。

 人体の中で最も大きな臓器の肝臓は、体に必要なタンパク質を合成したり、血を固める成分「凝固因子」をつくったり、加えてアンモニアなどの有毒物質を無毒化する役割も担う。伊藤さんによると、炎症で肝臓の細胞が壊れている状態が肝炎。肝炎の結果、肝臓の機能が低下した状態が肝不全だ。重症化すると他の臓器の働きも悪くなって、肝移植を要することがある。

成人は肝硬変や肝臓がんのリスク

 炎症が起きる原因は薬剤やアルコールの影響などさまざま。成人で最も多いのはA−Eの5つの型がある肝炎ウイルスへの感染だ。A、E型は主に食べ物、B−D型は血液を介して感染する。中でもB、C型は体内に残って慢性化することがあり、肝硬変や肝臓がんのリスクを高める。

 ただ、子どもの肝炎は、先天性の代謝疾患や自己免疫異常、EBウイルスやサイトメガロウイルスといった非肝炎ウイルスへの感染が大半を占める。非肝炎ウイルスは多様で原因特定が難しいのが実情だ。

英国では7割がアデノウイルス陽性

 世界保健機関(WHO)が原因不明の小児肝炎の増加を報告したのは4月。厚生労働省によると、5月26日までに全世界で少なくとも614件の発生が報告されている。国内でも疑似例が同日までに31件見つかっているが、伊藤さんは「もともと重症例の半数以上は原因不明。例年と比べて特別多いとは言えない」と話す。

 英国では、急性肝炎の子どもにアデノウイルスの検査をしたところ、約7割が陽性だったため最も関連が疑われる病原体とされる。ただ、国内ではアデノウイルス流行の兆しはなく、検出されたのは疑似例31例中2例だけ。国立感染症研究所は「感染症以外の原因も含め引き続き調査を進めている段階」とする。

白っぽい便・黄疸は肝炎を疑うサイン

 伊藤さんによると、子どもの肝炎を疑う兆候の1つは便の色。おなかは緩くないのに、白っぽい状態の便が続いていたら気を付けたい。肝臓でつくられる胆汁が肝炎の影響で腸に排出されにくくなり、便の色が薄まっている可能性がある。

 また、皮膚が黄色に近づく黄疸(おうだん)は、肝炎の進行を疑うサインとして要注意だ。肝臓で処理されて胆汁に排出されるはずの黄色い色素を持つ物質ビリルビンが、血中に過剰に流れ出ている可能性が高い。

 子どもの肝炎は、だるさや食欲低下、発熱などをきっかけに、血液検査を受けて診断される例が多い。肝細胞が壊れた際に血中に出てくる肝逸脱酵素の急上昇が見つかり、血液の凝固能力に問題があることが分かるという仕組みだ。

 ただ、肝移植が必要なほど肝機能が落ちるのはまれで、安静にしているだけで回復することも多い。各国で原因不明例が報告されて不安になりがちだが、伊藤さんは「体調がおかしいと思ったら、かかりつけの小児科へ行く。現状はそれで大丈夫」と呼び掛ける。