政府が10月下旬に発表した総合経済対策に、妊娠や出産に当たって計10万円相当を支給する、いわゆる「出産クーポン」が盛り込まれた。出産前後は何かと物入りの上、最近は物価高。子どもを産み育てる世帯の負担を和らげるのが狙いだが、支給方法を巡って方針変更も。利用者本位の施策なのか。少子化を食い止める効果があるのか。当の子育て世帯も疑問を抱いているようだ。

出産費用 最も高い東京は60万円近く 

 「東京では出産に60万円はかかる。赤ちゃん用品は高額で、ベビーベッドやベビーカーをどれにするか悩んでいる。10万円で少し助かるけれど、必要な物をそろえるには足りない」。来年3月に出産を控えた東京都練馬区の女性会社員(29)は、出費に戦々恐々だ。

 厚生労働省の昨年度の調査によると、東京で出産にかかる平均費用は、女性の感覚に近い約57万円。都道府県別で最高で、現行で原則42万円の出産育児一時金を大きく上回る。

 出産クーポンは今年4月以降に生まれた子どもに、1人当たり10万円相当を配る制度。当初、支給方法はクーポンだったが、利便性や事務負担を巡る批判回避のためか、岸田文雄首相は10月中旬、自治体の判断で現金支給も可能と方針を修正した。

 女性は言う。「クーポンはどの店で使えるのか、ネット通販でもいいのか。一律現金支給のほうが、どこでも使えて便利なのに…」

ありがたいが、今後のことを考えると…

 来年4月に第1子を産む東京都豊島区の女性会社員(29)はこう要望する。「もらえるのはありがたいが、今後の教育費を考えると、この施策で2人目も産もうとは思えない。むしろ、早く職場復帰したい人が多いのだから、ゼロ歳児の高額な保育料の軽減など、継続的な対策を考えてほしい」

 10月に長男を産んだ東京都葛飾区の女性会社員(28)は「『これぐらいあげればいいだろう』とおじさんたちで練り上げたな、と感じた」と語る。「今後を見据えた支援こそ必要」として、産後ケア施設の増設や父親の産休・育休義務化、妊婦健診や出産費、保育料の無料化などを求めた。

 政府は出産クーポンについて、0〜2歳児がいる家庭向けに、妊娠期以降の困り事の相談に乗る「伴走型支援」の一環とし、少子化対策をうたう。一律現金支給にしない理由について、厚労省の担当者は「施策の趣旨上、使途を出産育児に限られる形がいいとの声が根強いため」と説明する。ベビー用品の購入のほか、一時預かりや家事支援など子育て関連サービスに限定して使えるクーポンの配布が、当初想定だったようだ。

 政府は出産クーポン新設のほか、出産育児一時金の増額も決めた。これらに所得制限はないが、中学生以下の子がいる世帯への児童手当は所得制限が導入されている。厚労省担当者は「出産期は家計が苦しい家庭が多い」とするが、しっくりしない面がある。

子育て世代の不安 他国より重い教育費

 経済ジャーナリストの荻原博子氏は「クーポンにこだわるのは、貯金させず消費を促すため。『子育て支援』に『消費喚起』という別の意図を絡めている」と指摘。少子化の歯止めになるかも疑問という。「子育て世代の不安は先々の教育費。日本は他国と比べ、教育費の家計負担が重い。教育への公的支出を増やすなど、対策を講じなくては」

 物価高対策は後手に回り、旧統一教会問題も尾を引いて、岸田政権の支持率は低迷中。政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏は「状況を変えるには経済活性化。そこで、ばらまきに出た。来年、こども家庭庁が始動する。育児支援なら大義名分が立つし、若年層へのアピールにもなる」と政権の思惑を分析。ただ、それでは本質的な解決ではないと鈴木氏は釘(くぎ)を刺す。「企業への賃金アップの働き掛けや消費税率引き下げ、女性の働く環境改善など中長期的な課題に取り組むべきだ」