政府は先月、児童手当について、一定の所得以上の世帯を対象としていた月額5000円の特例給付を廃止した。浮いた財源は待機児童対策に充てるが、実は収入の線引きそのものに明確な根拠はない。小さなパイを奪い合うような財源の付け替えは、来年4月のこども家庭庁発足を機に掲げた「こどもまんなか社会」を目指すという理念に反している。

柚木まり記者


待機児童対策? 財源付け替えに憤り

 「政策がコロコロと変わり、手当もあてにできない。削減されたお金で待機児童が解消する保証はどこにもない」「子どもは親の収入によって区別されるべきではない」

 児童手当の打ち切りに対し、子育て中の親たちは政治への不信感や憤りに満ちた声を上げ続ける。児童手当か待機児童対策か、という二者択一の話ではなく、どちらも必要な子育て支援だからだ。政府に子育て関連予算の増額を求めるオンライン署名には、5万6000筆以上が集まる。

 旧民主党政権が導入した「子ども手当」は、基本的に全ての子どもを対象としてきた。子育てにかかる手当は、経済的な困難の有無にかかわらず、広く給付されるべきだとの考えからだ。自民、公明両党との合意に基づき、2012年度から児童手当に変わった際、一部の高所得層に限って減額する制度として設けられたのが特例給付だった。

 約10年をへて、今度は特例給付すら受け取れない世帯が生まれることになったが、所得制限の目安を「夫婦いずれかの年収が1200万円以上」などとしたことを巡り、規制改革担当相の直轄チームは昨年、「根拠を見いだせなかった」と指摘。それに対し、内閣府子ども・子育て本部は「政治による総合的な判断だ」と認めた。この政府内部のやりとりからも、子育てにかかわる重要政策の決め方がいかにずさんだったか分かる。

国際的に見て少なすぎる子ども予算

 日本は国と地方の借金が先進7カ国(G7)最悪の1000兆円超で、子ども予算に手厚く振り向けるのは容易でないだろう。ただ、国際的に見て子ども関連予算が少ないのも事実だ。対国内総生産(GDP)比は1.73%(2019年度)で、英国やスウェーデンの3%超に遠く及ばない。日本では2021年の出生数が約81万人と過去最少を記録したが、これまでの研究では子ども・子育てへの公的支出が多い国ほど、出生率が高くなる相関関係も示されている。

 「これほど少子化が進んでいるのに、どうして子どものための予算を増やせないのか」。2年前、先に紹介したオンライン署名活動をたった1人で始めた埼玉県の会社員工藤健一さん(35)の思いだ。

 岸田文雄首相が子ども予算の将来的な「倍増」を打ち出したのは、欧州並みの水準を実現することで、子育てしやすい国に変えたいという強い思いの表れではなかったのか。工藤さんの素朴な疑問に正面から向き合うべきだ。