下北沢は開発でどう変貌した? 全長1.7km「下北線路街」がすごかった!

「サブカルの聖地」と呼ばれた下北沢。ここ数年、駅付近の開発が行われていた。注目は小田急線の地下化で生まれたスペースを利用した全長1.7kmの「下北線路街」。そこには新しいスタイルの商店街、互いに学び合う居住型教育施設、東京農業大学のアンテナショップ、水タバコ専門店も入る個店街などが続々とオープンしている。下北沢はどう変わったのか。そして、新しい顔とは? 注目のスポットをぐるりと巡ってみた。
「開かずの踏切」がなくなり、車の渋滞が解消された

小田急線の下北沢駅、世田谷代田駅、東北沢駅が地下化されたのは2013年3月。同エリアに9カ所あった「開かずの踏切」がなくなり、車の渋滞が解消された。

駅東側の踏切も今となっては懐かしい風景。写真は2013年3月のもの(写真提供/小田急電鉄)

駅東側の踏切も今となっては懐かしい風景。写真は2013年3月のもの(写真提供/小田急電鉄)

現在の下北沢駅(写真撮影/相馬ミナ)

現在の下北沢駅(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/石原たきび)

(写真撮影/石原たきび)

この街によく来ていた僕にとっては、駅が地下にあることも、踏切がないことも不思議な感覚だ。

下北沢駅の南口改札も廃止され、南口商店街という名称のみ残った(写真撮影/相馬ミナ)

下北沢駅の南口改札も廃止され、南口商店街という名称のみ残った(写真撮影/相馬ミナ)

その南口には僕がよく仕事をしている、お気に入りのカフェがあります。テラス席が心地いいのです(写真撮影/石原たきび)

その南口には僕がよく仕事をしている、お気に入りのカフェがあります。テラス席が心地いいのです(写真撮影/石原たきび)

5軒の飲食店を営むオーナーに下北沢の今昔物語を聞く

さて、今回の取材で最初に向かったのは、開放感のあるテラスが売りの飲食店、「ARENA 下北沢」。

カレーとチキンオーバーライスが名物(写真撮影/石原たきび)

カレーとチキンオーバーライスが名物(写真撮影/石原たきび)

テラスのベンチでは矢吹ジョーが出迎えてくれる(写真撮影/石原たきび)

テラスのベンチでは矢吹ジョーが出迎えてくれる(写真撮影/石原たきび)

なぜ、この店を訪れたかというとオーナーの山本秀教さん(48歳)に下北沢の今昔を聞きたかったからだ。

ここを含めて下北沢に5軒の飲食店を展開(写真撮影/相馬ミナ)

ここを含めて下北沢に5軒の飲食店を展開(写真撮影/相馬ミナ)

山本さんに初めて会ったのは、1号店の「BUDOKAN」だった。10年ぐらい前だろうか。

鈴なり横丁の向かいにある小さなバーだ(写真撮影/石原たきび)

鈴なり横丁の向かいにある小さなバーだ(写真撮影/石原たきび)

「古着屋、ラーメン屋、ガールズバーがめちゃめちゃ増えました」

というわけで、名物の「元祖シモキタカレー」と「シモキタラッシー」のセット(1100円)をいただきながら話を聞きましょう。

「下北沢カレー王座決定戦2019」で準優勝を獲得(写真撮影/相馬ミナ)

「下北沢カレー王座決定戦2019」で準優勝を獲得(写真撮影/相馬ミナ)

山本さんが「BUDOKAN」を出したのは13年前。それ以前から下北沢にはよく飲みに来ていたそうだ。

「当時のシモキタは、飲み屋の客がおっちゃんばっかり。今は本当に若者が多い。あと、鈴なり横丁のあたりはちょっと柄が悪かったんですが、平和になりました。さらに、古着屋、ラーメン屋、ガールズバーがめちゃめちゃ増えましたね」

山本さんは言う。

「懐かしい街が変わっていくのはちょっと寂しい部分はありますが、悲観的には考えてないですよ。むしろ、若者とかがいっぱい来てくれたら盛り上がるんで、僕としてはありがたいです」

そう言われてみれば増えた気がします(写真撮影/石原たきび)

そう言われてみれば増えた気がします(写真撮影/石原たきび)

東北沢、下北沢、世田谷代田の3つのエリアが「下北線路街」で繋がる

そんななか、小田急電鉄は東北沢駅〜世田谷代田駅間の地上に生まれた1.7kmのエリアを「下北線路街」として整備してきた。

ほとんど交流がなかった3つのエリアが「下北線路街」で繋がる(画像提供/小田急電鉄)

ほとんど交流がなかった3つのエリアが「下北線路街」で繋がる(画像提供/小田急電鉄)

このエリアは道が狭く、入り組んでいるため、この直線による新しい動線は街の姿を大きく変えつつある。

山本さんと別れ、次に向かったのは下北沢駅の「南西口」改札方面。

今、駅のこちら側に注目が集まっている(写真撮影/石原たきび)

今、駅のこちら側に注目が集まっている(写真撮影/石原たきび)

というのは、こちらの方面に下北線路街で注目されている「BONUS TRACK」があるからだ。オープンは2020年4月で、緑に包まれた遊歩道沿いにユニークなテナントたちが入居している。

新しいスタイルの“商店街”が誕生した(写真撮影/石原たきび)

新しいスタイルの“商店街”が誕生した(写真撮影/石原たきび)

そのテナントとは、世界の発酵調味料を扱う「発酵デパートメント」、食材にこだわり抜いたコロッケが食べられる「恋する豚研究所 コロッケカフェ」、古今東西の日記関連本が購入できる「日記屋 月日」などの14店舗だ。

開放感に満ちた中庭を囲むように店舗が並ぶ(写真撮影/相馬ミナ)

開放感に満ちた中庭を囲むように店舗が並ぶ(写真撮影/相馬ミナ)

「『サブカルの街』というイメージは徐々に変わりつつあります」

下北沢の開発は、どのような想いのもと行われたのだろうか。ここの会議スペースで小田急電鉄の開発担当者、向井隆昭さん(31歳)に話を聞いた。

まず今の下北沢を、向井さんは「以前は若者の街、『サブカルの街』というイメージでしたが、徐々に変わりつつあります」と話す。
「実際に街に住んでいる人に着目すると、子育て世帯やシニア層も多く、文化が根付くだけでなく住宅街である側面が分かります。家賃の高騰もあり、住んでいる若い人の属性も変化しており、夢を追うアーティストというよりは、ちょっとお金に余裕がある学生や社会人にスライドしており、より多様な人々が街にいるイメージと捉えています」

週の半分は下北沢に通い詰める日々を送っている(写真撮影/相馬ミナ)

週の半分は下北沢に通い詰める日々を送っている(写真撮影/相馬ミナ)

線路跡地を活用しようという動きは2013年の時点で始まっていた。そして、2018年には現在の「下北線路街」としてのプランが明確になる。

「コンセプトは『BE YOU.シモキタらしく。ジブンらしく。』です。この街は低層の建物が多く、路地裏も歩きやすい。また、飲食、音楽、演劇、古着、雑貨、本、映画など、さまざまなジャンルで、いろんな個性を持った人が活動しています。それをさらに引き出すのが開発の役目だと思っています」

なお、「BONUS TRACK」に入居するテナントは30代のオーナーが多い。床面積は1、2階あわせて計10坪で2階は住居スペース。これで賃料は15万円とのことで、若い世代が挑戦しやすい設定にしたという。

今まで下北沢にはなかったようなテイスト。新しい潮流を感じた。駅からちょっと離れているだけに、下北沢という街のエリアが広がった気がする。

全寮制プログラムを受けられる「SHIMOKITA COLLEGE」

さて、ここからは街に出て向井さんが勧めてくれた“注目スポット”を巡ることにする。

まずは、2020年12月に下北線路街で開業した「SHIMOKITA COLLEGE」から。下北沢の街をキャンパスとして活用しながら、高校生、大学生、若手社会人らが暮らす居住型教育施設だ。

明るい光が差し込む1階の共用スペース(写真撮影/相馬ミナ)

明るい光が差し込む1階の共用スペース(写真撮影/相馬ミナ)

居室への動線上に食堂やラウンジなどの共用スペースを配置(写真撮影/相馬ミナ)

居室への動線上に食堂やラウンジなどの共用スペースを配置(写真撮影/相馬ミナ)

高校生は1学期間(3カ月)の共同生活体験プログラム、大学生・社会人は2年間の全寮制プログラムを受けられる。実際の入居者に話を聞いてみよう。

左から江口未沙さん(25歳)、州崎玉代さん(21歳)、岩田健太さん(27歳)(写真撮影/相馬ミナ)

左から江口未沙さん(25歳)、州崎玉代さん(21歳)、岩田健太さん(27歳)(写真撮影/相馬ミナ)

江口さんはIT企業の営業職。大学4年生のときから下北沢に住んでいたが、リモートワークになったこともあり、シェアハウスへの入居を考え始めた。

「たまたま小田急さんのリリースを見て、こんなに面白そうな学びの場があるのなら絶対に入りたいと思いました。ここでの生活はめちゃくちゃ楽しいです。専門分野や背景が違ういろんな人と話せるので、自分へのフィードバックが進みます」

江口さんのお気に入りの店「ADDA」

江口さんのお気に入りの店「ADDA」

カレーがおいしい

カレーがおいしい

「街も人も商店もエネルギーがすごいと感じています」と話す岩田さんは、まちづくり系の仕事をしている。

「私はいち消費者として街や人に関わることに興味がありました。シモキタにはあまり来たことがなかったんですが、実際に住んでみて街も人も商店もエネルギーがすごいと感じています。街を“自分ごと”として捉えている人が多いというか」

岩田さんが今気になっているのは、下北線路街の施設の一つとして2020年9月に開業した温泉旅館「由縁別邸 代田」。35室の客室、露天風呂付き大浴場、割烹、茶寮などを備えている(写真提供/小田急電鉄)

岩田さんが今気になっているのは、下北線路街の施設の一つとして2020年9月に開業した温泉旅館「由縁別邸 代田」。35室の客室、露天風呂付き大浴場、割烹、茶寮などを備えている(写真提供/小田急電鉄)

大浴場では箱根から運んだ温泉が楽しめる(写真提供/小田急電鉄)

大浴場では箱根から運んだ温泉が楽しめる(写真提供/小田急電鉄)

最後は洲崎さん。東京大学で都市計画を専攻している。大学に登校する日が激減した状況下で寮生活を満喫している。

「シモキタはたくさんのカルチャーが混じり合う街。いろんな人が歩いていますよね。『多様性が際立っているというイメージ』ですね。お気に入りのお店は『BONUS TRACK』の中の『恋する豚研究所』。店員さんと連絡先を交換したりして、人と人の距離が近いです」

「恋する豚研究所」

「恋する豚研究所」

「恋する豚研究所」のコロッケ

「恋する豚研究所」のコロッケ

東京農大の学生がつくった食品が買える「世田谷代田キャンパス」

続いて訪れたのは、2019年4月にオープンした「世田谷代田キャンパス」。同じ世田谷区内にメインキャンパスを持つ東京農業大学とのコラボでオープンカレッジが開講されている。

1階は農大ショップ(写真撮影/相馬ミナ)

1階は農大ショップ(写真撮影/相馬ミナ)

ここでは、農大の卒業生が醸造した日本酒や味噌などが購入できる。話を聞かせてくれたのは施設の統括マネージャー、土橋潤二さん(65歳)。

土橋さんも農大の卒業生なのだ(写真撮影/相馬ミナ)

土橋さんも農大の卒業生なのだ(写真撮影/相馬ミナ)

「私、以前は造り酒屋をやっていたんですが、この施設を出す際に『手伝ってくれ』と言われまして」

置いている商品はすべて東京農大関連のもの写真撮影/相馬ミナ)

置いている商品はすべて東京農大関連のもの写真撮影/相馬ミナ)

お勧めの商品はどれですか?

「農大の学生がつくったジャムが美味しいですよ。材料の栽培から製造までを一貫して担当しています」

さらに、「こんな面白いものもありますよ。うちでは一番人気です」と土橋さん。なんと、農大オホーツクキャンパスで育てたエミューの卵で生地をつくったどら焼きだという。

いただいてみましょう。

北海道産小豆の粒あんを使った餡はちょっとピンクがかっている。エミューどら焼き324円(税込)。後ろにあるのは農大生がつくったジャム(写真撮影/相馬ミナ)

北海道産小豆の粒あんを使った餡はちょっとピンクがかっている。エミューどら焼き324円(税込)。後ろにあるのは農大生がつくったジャム(写真撮影/相馬ミナ)

おお、生地がモチモチで美味しい!

2階はオープンカレッジスペース(写真撮影/相馬ミナ)

2階はオープンカレッジスペース(写真撮影/相馬ミナ)

2階では、定期的に市民講座、子ども向け講座が開催されるほか、サークル団体などに会議室やイベント会場としても貸し出している。

「地元の方もいらっしゃるし、ちょっと離れた下北沢駅から歩いて来る若者や家族連れも多いですね。農業を通じてさまざまな人が繋がる場になれば」と土橋さんは言う。

下北沢の穴場見つけたり、という感じだ。

個性的かつハイクオリティな店舗が並ぶ個店街「reload」

最後に訪れたのは、2021年6月、下北沢駅にほど近い立地にオープンした「reload」。全24店舗がが入居予定の個店街だ。

モダンなエントランス(写真撮影/相馬ミナ)

モダンなエントランス(写真撮影/相馬ミナ)

施設名には、もともと線路が走っていた場所が新しくなったので「リ・ロード」、また完成することなく変わり、更新し続ける場という2つの意味が込められている。

施設内には、京都の老舗“小川珈琲”のフラグシップ店「OGAWA COFFEE LABORATORY」、三軒茶屋から移転オープンしたセレクト文房具・雑貨の専門店「DESK LABO」など、個性的かつハイクオリティな店舗が並ぶ。

まず、我々が訪れたのはシーシャ、いわゆる水タバコの専門店「chotto」だ。

26歳の若きオーナー、小澤彩聖さん(写真撮影/相馬ミナ)

26歳の若きオーナー、小澤彩聖さん(写真撮影/相馬ミナ)

「こういう施設にシーシャ屋が入るのは、今までなかったはず。従来のイメージと違って、店の雰囲気を明るくしています。ちなみに、シモキタは日本におけるシーシャ発祥の地と言われているんです」

料金は専用のガラスボトル1台にオリジナルノンアルドリンクが付いて3000円(写真撮影/石原たきび)

料金は専用のガラスボトル1台にオリジナルノンアルドリンクが付いて3000円(写真撮影/石原たきび)

「うちは初心者や非喫煙者も吸いやすいノンニコチンのフレーバーを推しています。これを置いている店はあまり多くないんです」

左からオレンジ、ブルーベリー、ピスタチオのフレーバー(写真撮影/相馬ミナ)

左からオレンジ、ブルーベリー、ピスタチオのフレーバー(写真撮影/相馬ミナ)

「まるで心ときめく恋の味」(写真撮影/石原たきび)

「まるで心ときめく恋の味」(写真撮影/石原たきび)

小澤さんは「シーシャはひとつのコミュニケーションツール、会話の間を取り持ってくれるような存在」だと言う。

「仲間内でも初めましての人同士でも、ゆったりとのんびりと話せます。ボトル1台で2時間弱持つから、カフェとかより長く滞在できる。そこでの会話を通して、新しい縁も生まれます」

楽しそうに煙を吐く店長の航平さん(25歳)。(写真撮影/石原たきび)

楽しそうに煙を吐く店長の航平さん(25歳)。(写真撮影/石原たきび)

下北沢の人々の交流の場が、またひとつできた。「今までシモキタで遊んでたけど、大人になって遊ぶとこなくなったよねという人たちに来てほしい」と小澤さんは言っていた。

さあ、下北巡りラストの1軒は立ち飲みスタイルの「立てば天国」だ。

オーニングの下にはちょっとした外飲みスペースも(写真撮影/相馬ミナ)

オーニングの下にはちょっとした外飲みスペースも(写真撮影/相馬ミナ)

対応してくれたのはオーナーの福家征起さん(42歳)。これまで、下北沢に「下北沢熟成室」「カレーの惑星」「胃袋にズキュン」「胃袋にズキュン はなれ」という4つの飲食店を展開してきた。

かわいらしい店名は「10分で決めた」とのこと(写真撮影/相馬ミナ)

かわいらしい店名は「10分で決めた」とのこと(写真撮影/相馬ミナ)

「個店街の2階というロケーションが面白いし、広い空が見える立ち飲み屋もなかなかないでしょう」

フードメニューはひと捻りもふた捻りもあるものばかり(写真撮影/石原たきび)

フードメニューはひと捻りもふた捻りもあるものばかり(写真撮影/石原たきび)

お一人様にもうれしい小皿料理がメイン。居酒屋料理にアジアの調味料やハーブなどのフレイバーを加えているという。完全にニュースタイルの立ち飲み屋だ。ホッピーは三冷、ビールは赤星で酒飲みの心をガッチリと掴む。

「今のシモキタですか? 昔と変わって来たなあという感じはありますね。老舗のたこ焼きやさんとか、掘っ建て小屋みたいなとこでやってた居酒屋さんがなくなって、ここもそうですが、きれいな建物が増えましたね」

個人的には下北沢っぽくないお洒落な空間に、こういう本気の立ち飲み屋が入っているのはうれしい。

未来の下北沢を盛り上げる人々にバトンが渡った

かくして、“新生”下北沢ツアーは終了。随所にオシャレな要素が垣間見えたが、一方で“実力”も伴う施設、店舗ばかりだった。

以前は、駅の北口に戦後の闇市がルーツのレトロな一画が存在感を放っていた。その中に好きな飲み屋があり、下北沢に来ると必ず立ち寄ったものだ。もちろん、今はない。

寂しくもあるが、街は生きている。今回の「下北線路街」巡りでも感じたが、未来の下北沢を盛り上げる人々にバトンが渡ったというわけだ。

●取材協力
下北線路街

元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2021/08/182061_main.jpg

石原たきび