住まいの水害対策の最新事情2021年版!「浮く家」「床下浸水しない家」など

全国各地の水害被害が以前よりも話題にのぼるようになった今、これから家を建てるなら水害リスクを頭に入れて検討したいもの。ではどうやったら水害に強い家をつくれるのか? 専門家や住宅メーカーに聞いてみた。

5つの水害対策法を費用対効果の面から検証している(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

ひとたび床上浸水すれば建物だけでなく家具やキッチン、浴室、トイレ等の設備もダメになり、下手をすればリフォームに1000万円近くかかることもある。またその地域に被害が集中するため、職人が不足して、復旧までに時間がかかりがちだ。避難生活のストレスも計り知れない。そうしたことが毎年のように全国のどこかで起こるようになってきた。

「水害対策は従来、土木分野の課題だと言われてきました」と国立研究開発法人建築研究所の主席研究監である木内望さん。「川から水が溢れないようにする、という考え方です」。ところが最近はそれだけでは被害が防げないという声が上がってきた。そのためここ数年で、土木だけでなく建築でも対策を考えなければならなくなってきているという。「特に2019年に甲信越地方から関東、東北地方まで記録的な豪雨をもたらした台風19号が大きな転換期でした」

台風19号により大きな進展がもたらされた、建築方面からの水害対策。木内さんは現在、住宅の水害対策方法を5つ挙げ、それらを費用対効果の面から検証している。「もちろん他にも方法はあるでしょうが、まずはこれらの方法が浸水レベルによってどれだけの費用対効果があるのかを検証しています」

その5案とは以下の通りだ。
(1)修復容易化案
(2)建物防水化案
(3)高床化案
(4)早期生活回復可能案
(5)屋根上避難可能案

(1)修復容易化案とは、浸水した後の復旧をなるべく簡単に済ませることができるようにするもの。浸水すると床下や床上の清掃から、濡れて使えなくなった部材を撤去しなければならないが、例えば断熱材を発泡ウレタン系など乾かせば再び使えるものを使用したり、電気設備と配線の位置を高くしておいたりすることなどで被害を小さくし、早めに復旧できるようにする。

浸水した後の復旧をなるべく容易にできるよう、部材の選び方などさまざまに工夫する方法(画像提供/建築研究所)

浸水した後の復旧をなるべく容易にできるよう、部材の選び方などさまざまに工夫する方法(画像提供/建築研究所)

(2)建物防水化案とは外壁をある程度の高さまでRC(鉄筋コンクリート)など止水性のある材料で覆うなどにより、住宅内への浸水を食い止めるというもの。水面が一定程度の高さになるまでは浸水しないようにするという考え方だ。

外壁をある程度の高さのRC(鉄筋コンクリート)壁で覆う方法。RC壁で覆えない掃き出し窓等には止水板を備える(画像提供/建築研究所)

外壁をある程度の高さのRC(鉄筋コンクリート)壁で覆う方法。RC壁で覆えない掃き出し窓等には止水板を備える(画像提供/建築研究所)

(3)高床化案とは基礎を高くしたり、敷地をかさ上げなどして住宅への浸水を防ぐという方法。こちらも(2)建物防水化案同様、水面が一定程度の高さになるまでは浸水させないという考え方だ。豪雪地帯では冬の積雪に備えて1階部分をRC造にしている住宅が多いが、それと同じような考え方といえる。

図のように基礎を高くしたり、敷地をかさ上げすることなどで浸水を防ぐ(画像提供/建築研究所)

図のように基礎を高くしたり、敷地をかさ上げすることなどで浸水を防ぐ(画像提供/建築研究所)

(4)早期生活回復可能案は(1)修復容易化案をさらに一歩進めた考え方で、浸水後の修復期間でも2階で生活が出来るようにしたもの。本来、修復する際は避難所等での生活が強いられるが、修復中も2階で生活できるので避難生活のストレスを軽減できる。

 2階部分に浴室やトイレなど水まわりを用意することで、1階部分の修復中も生活できるようにする方法の例。太陽光発電を備えれば、停電になっても電気も使うことができる(画像提供/建築研究所)

2階部分に浴室やトイレなど水まわりを用意することで、1階部分の修復中も生活できるようにする方法の例。太陽光発電を備えれば、停電になっても電気も使うことができる(画像提供/建築研究所)

(5)屋根上避難可能案は(1)修復容易化案や(2)建物防水化案の派生形。水位の高い氾濫時に、屋上などから避難できるようにしておく方法で、水流が早い場合でも住宅が流されないようにしておくことが必要。水に浸かった部分は諦めるしかないが、命だけは守るという考え方だ。

水位が高い氾濫の場合でも、住宅が水流に流されず、屋上などから避難できる方法の例(画像提供/建築研究所)

水位が高い氾濫の場合でも、住宅が水流に流されず、屋上などから避難できる方法の例(画像提供/建築研究所)

いずれの方法も、従来の家づくりと比べたら費用がかかる。また浸水後の被害もそれぞれ違う。一方で浸水リスクは一様ではない。そのため浸水リスクに応じて対策方法を選んだ方が効率的だ。

「例えば、滋賀県の『地先の安全度マップ』では10年に1回、100年に1回、200年に1回の頻度で起こる水害の時に、それぞれ想定される水深がどれくらいになるかを公表しています。これをもとに水害対策でかかった費用と、無策のため復旧にかかった費用がイーブンになる年数、つまり水害対策費用がどれくらいの期間で回収できるのか、上記案の費用対効果を調べてみました。すると(1)修復容易化案の水害対策で約6割のエリアが20年で回収できる計算になります。同様に(2)建物防水化案なら約3割のエリアが、(3)高床化案は約5割のエリアが20年で回収できると分かりました」

上記5案に関するこれまでの検討は、あくまで水害対策の概ねの方向性と費用対効果を調べるためのもので、例えば(1)修復容易化案ならどの部材ならOKなのか、といった建築の詳細を詰めるものではない。むしろこれらの方法をマンションならどう活用できるかといった応用を検討したり、今後のまちづくりや浸水リスクのゾーン分けを考えるベースになるものだと木内さんはいう。とはいえ今後の家づくりに大いに参考になるはずだ。

浸水を“重し”にする、それでもダメなら水に浮いて被害を抑える住宅

木内さんも述べているように、上記5案以外にも方法はある。その1つが、一条工務店が開発した「耐水害住宅」だ。「開発のきっかけは2015年の集中豪雨による鬼怒川の氾濫でした」と一条工務店の津川武治さん。耐水害の対策だけなら、例えば先述の(3)高床化案なども検討したというが、コストが高くては普及が難しいと判断。コストを抑えつつ耐水害を実現する方法を模索したそうだ。

「当初は水害に遭った際、どうやって基礎の通気口から水や泥を入れないか、壁や窓、ドアの密閉性をどう高めるか、その方法の開発にかなり時間をかけました」。ようやく目処がついて実証実験が行われたのは、開発スタートから約4年後の2019年のこと。これを便宜上、耐水害住宅の初期型とする。

その際の水面の高さの目安は1m。これは鬼怒川の氾濫で多かった膝くらいの高さ(50cm前後)に十分対応できるものだった。「ところが実験の直後に台風19号による水害が長野県や関東地方で起こりました。それを見て『今後はもっと水害被害が大きくなるのではないか』と考え、もう一段上の耐水害住宅を目指そうということになったのです」

(出典:国土交通省 河川事業概要2020)

(出典:国土交通省 河川事業概要2020)

そこで販売直前だったにもかかわらず、初期型の販売をとりやめ、開発を進めることに。初期型の開発時に、一般的な規模の住宅の場合、水深が1.3mほどになると建物が浮力によって浮き始めることを突き止めていた。この浮力をどうするかがこの先の課題だった。

「そこで考えられたのが、床下から水をあえて入れ、水を重しにする方法です」。これが現在販売されている耐水害住宅の「スタンダードタイプ」だ。災害後は簡単に水抜き穴から排水できるようになっている。もちろん初期型で開発した壁や窓等の密閉性能も盛り込まれた。これなら浮力が大きくかかる水深1.3m前後でも耐えることができる。

しかし同社はさらに開発を進めた。「もしもさらに高い浸水の水害は遭ったらどうするか?」

最初は基礎にアンカーを埋めて浮いた住宅を引き留める方法が考えられたが、水害時の浮力はアンカー装置ごと引き抜いてしまうくらいの力があった。アンカーの本数を増やしたり、アンカーを長くしたりという方法も検討されたが、それではコストがかさむ。

2020年10月に行われた実証実験では水深3mで検証が行われた(写真提供/一条工務店)

2020年10月に行われた実証実験では水深3mで検証が行われた(写真提供/一条工務店)

その時に「だったら浮かしてしまおう、という発想が生まれたのです。耐震住宅ではなく免震住宅のように、加わる力に対して抗うのではなく、いなすという考え方です」。そして、水が引いた後に建物が再び元の位置に戻れるよう、ポールと建物をつなぐダンパーを用いたシステムも開発した。実験の結果では、水が引いた後に着地した時の誤差は3cm。給排水管は浮上時に一定の力がかかると配管の接続部が引き抜け、着地後は簡単に差し込み直せる工夫がされている。水道管は住宅が浮き上がって引き抜かれると同時に自動で止水弁が閉まる仕組み。これは洗濯機の給水管と同じ仕組みが応用された。

ポールを自由に上下できるワイヤーが住宅をつなぎ止め、ワイヤーの間に備えられたダンパーが住宅を元の位置にとどめる役割を果たす。基礎の下にもコンクリートを敷く二重基礎構造により、安定した着地が可能に(画像提供/一条工務店)

ポールを自由に上下できるワイヤーが住宅をつなぎ止め、ワイヤーの間に備えられたダンパーが住宅を元の位置にとどめる役割を果たす。基礎の下にもコンクリートを敷く二重基礎構造により、安定した着地が可能に(画像提供/一条工務店)

実験の結果、耐水害住宅は、床下、室内ともに被害を受けなかった(画像提供/一条工務店)

実験の結果、耐水害住宅は、床下、室内ともに被害を受けなかった(画像提供/一条工務店)

この浮上タイプは最大5m、同社のスタンダードタイプの住宅でも1m程度の浸水まで対応できる。建築地の浸水リスクに応じて、どちらがいいかをユーザーが選べるようにした。コストの目安としては、35坪の住宅でスタンダードタイプなら、同社の通常の住宅+約46万円、浮上タイプで+約77万円と、当初の同社の狙い通り、コストが抑えられている。

光熱費を削減するためのシステムが水害対策で注目を集める!?

一方、もともとは別の目的で開発されたユニバーサルホームの「地熱床システム」も、近年注目を集めている。「2002年に開発したシステムで、その名の通り地熱を活用して室内温度を一定に保つことで冷暖房費を削減できるシステムとして当初は販売していました」とユニバーサルホームの安井義博さん。ところが最近は水害対策の住宅として注目されるようになってきたという。

「地熱床システム」はもともと地熱を利用して室内温度を一定に保つことで冷暖房費を削減できるシステム。床下は土と砂利、コンクリートで密閉される(画像提供/ユニバーサルホーム)

「地熱床システム」はもともと地熱を利用して室内温度を一定に保つことで冷暖房費を削減できるシステム。床下は土と砂利、コンクリートで密閉される(画像提供/ユニバーサルホーム)

その理由は、「地熱床システム」の住宅が床下浸水しないからだ。このシステムは、地下の熱を得るために床下が密閉構造になっているため、浸水が起こっても床下に水が入らず、建物に対する浮力が発生しない。実際、津波被害に遭ったエリアで、他の住宅が波に流される中、地下熱システムを備えた住宅はその場にとどまったままだった。「また床下に水が入らないので、床下浸水自体が発生しません。さらに強固な基礎構造ですので、地震にも強いというメリットがあります」

(写真提供/ユニバーサルホーム)

(写真提供/ユニバーサルホーム)

万が一、基礎部分を超えて浸水(床上浸水)した場合でも、復旧処理は床上だけで済む。本来は床を剥がして基礎部分に入った泥や水を取り除き……といった作業が必要なのだが、それが不要になるのだ。

通常は床下を乾燥させるために基礎には通気口が設けられている。浸水時はここから床下に水や泥が入るので復旧時の作業が大変なのだが、地熱床システムは床下が土や砂利、コンクリートで密閉され、通気口もないため水が入ってくる心配がない(画像提供/ユニバーサルホーム)

通常は床下を乾燥させるために基礎には通気口が設けられている。浸水時はここから床下に水や泥が入るので復旧時の作業が大変なのだが、地熱床システムは床下が土や砂利、コンクリートで密閉され、通気口もないため水が入ってくる心配がない(画像提供/ユニバーサルホーム)

「床下浸水は損害保険が適用されないことが多いのですが、地熱床システムなら床下浸水の心配がないので安心です」

最近では水害に強い住宅として注目を集めるようになってきたため、同社では水害対策としてエアコンの室外機等を床より高い位置に設置したり、窓の止水版なども用意したりしている。また災害後もすぐに自宅で過ごせるよう太陽光発電+蓄電池のセットも用意しているという。水害に強い上に、光熱費を削減でき、地震にも強いとあっては今後も注目を集めそうだ。

ハザードマップを見ながら各自で水害対策を練ることが必要

頻発する水害を受け、国も水害対策に関する法律「流域治水関連法(特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律)」をつい最近、2021年5月に公布し、7月に一部施行した。「この法律で水害が起こりやすいところの建築や開発規制をかける仕組みはできました。ただし、法律で守るのは建物ではなく人の命です。具体的にこの方法で建てるように、という規制のための法律ではありません」と建築研究所の木内さん。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

とはいえ「例えば水害リスクを伝えるために宅建業法の重要事項説明に盛り込んだり、耐震等級のように耐水害対策についても性能表示項目に定めるという動きがあってもおかしくありません。また周囲の住民が逃げられる施設をつくったマンションは容積率を緩和するとか、水害対策をする住宅に補助金を出すとか、そういった形は今後考えられると思います」という。

現状、われわれができることは、ハザードマップを見て、大河川の氾濫は無理だけど内水氾濫(集中豪雨によって用水路等の排水能力を超え、市街地が浸水してしまう災害)には耐えられるようにしようとか、冒頭の5つの案を参考に対策するか、上記で紹介した水害対策が施された住宅を選ぶなど、各自で対策を判断するほかない。

ただし注意したいのがハザードマップの見方だ。従来のハザードマップは数百年に1度の水害に対応したものだったが、現行のハザードマップは、命を守る目的もあって、1000年に1度の水害に対応したものになっている。しかし1000年に1度の大洪水ともなると、エリアによっては想定されている水深が3〜5m、5m〜10m……となる。

「水害によって水面が5mを超えると、たいていその数字を見ただけで諦めてしまいがちです。しかし起こる頻度の低い水害ではなく、本来は浸水による水深が低くても起こる頻度の高い水害を想定したほうが住宅においては水害対策になります」。先述した「地先の安全度マップ」を作成した滋賀県など、既に動いている自治体もあるが、こうしたハザードマップの改善も今後の課題と言えるだろう。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

また、浸水の頻度が低くて浸水した場合に想定される水深が低いエリアなら、被害に遭った時は保険でカバーするのが費用対効果としては高いこともある。あるいは自治体で水害時に逃げ込める高い建物をつくったほうがよいケースもある。「滋賀県の場合、浸水リスクの高いエリアでは避難先としての高い建物をつくるという条例ができました」。浸水リスクが一様ではないのと同様、対策もさまざまあるのだ。

いくつかある対策方法の中から、自ら選ぶ必要がある。簡単に言えば「自らの命は自らで守る」と行動することが、現状の最善策なのだ。まるで新型コロナウイルス対策みたいだが、どちらも従来にはなかった新たな脅威。少なくとも「自分は大丈夫」と思う「正常性バイアス」にだけは気をつけたい。

●取材協力
建築研究所
一条工務店
ユニバーサルホーム

元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2021/09/182579_main.jpg

籠島 康弘