ホテルの名建築をイラスト図解! 「ホテルはデザインをまるっと体験できる場所」 遠藤慧さんインタビュー

ホテルの実測スケッチがSNSで人気を集めている一級建築士・カラーコーディネーターの遠藤慧さん。実測スケッチとは、建築物などの対象物を観察しメジャーなどでそのさまざまな部分を測量、スケッチに落とし込んでいくものです。「アマン東京」「hotel hisoca」「LANDABOUT TOKYO」など写真ではなくイラストでホテルを図解することで見えてきた名建築の魅力をインタビューしました。

「OMO5」、「山の上ホテル」、「hotel siro」、「MUJI HOTEL」など国内外のホテルを訪れて描いた実測スケッチ(画像提供/遠藤慧さん)

「OMO5」、「山の上ホテル」、「hotel siro」、「MUJI HOTEL」など国内外のホテルを訪れて描いた実測スケッチ(画像提供/遠藤慧さん)

遠藤慧さん(写真撮影/YUTA ITAGAKI)

遠藤慧さん(写真撮影/YUTA ITAGAKI)

ホテルは寝食住のデザインをまるっと体験できる場所

――実測スケッチからは、遠藤さんがホテルを訪れたときの感動が伝わってくるようです。国内外のメディアにも紹介され、人気を博していますが、ホテルをスケッチしようと思ったきっかけを教えてください。

遠藤慧さん(以下、遠藤):ホテルの実測スケッチは、建築事務所に勤めていたころ、設計のリサーチとしてはじめました。建築をなりわいにしている人は、デザインの勉強のために実際の建物を訪れることがよくあります。建築家が建てた空間を体験したいと思ったときに、例えば個人宅は公開されていないので、見学するのはハードルが高いですよね。美術館や図書館などの公共施設やレストランは誰でも行けますが、他の人もいるし、基本は夜閉館時間になったら出なくてはいけません。

丸一日その場所に滞在し、ご飯を食べて、お風呂に入って、就寝まで過ごして、デザインを丸ごと体感できるのがホテル(宿泊施設)の良いところだと思っています。部屋で実測していても誰からも変な目で見られないのも良いところです(笑)。

――遠藤さんは、その後も、数多くのホテルを訪れ、30枚以上に及ぶ実測スケッチを描いてSNSで公開されています。ホテルのどこに惹かれたのでしょうか?

遠藤:ホテルってすごいんですよ。建物のデザインはもとより、インテリア、家具、アメニティー、食器、パンフレットや部屋番号のサインに至るまで総合的にブランディングされ、デザインされているところが多いです。特に最近のホテルは体験をデザインすることに重きを置いていて、一つ一つのアイテムにこだわりがあり、食事などもホテルの過ごし方に合ったメニューが用意されています。大袈裟に言えば、ホテルは、「寝食住」のデザインを一番コンパクトに、まるっと体験できる場所だと思っています。

ホテルのコンセプトが体現されているアメニティーをスケッチすることも。「hotel hisoca」のアメニティーは、コンセプトカラーに合わせてセレクトされているのがかわいい(画像提供/遠藤慧さん)

ホテルのコンセプトが体現されているアメニティーをスケッチすることも。「hotel hisoca」のアメニティーは、コンセプトカラーに合わせてセレクトされているのがかわいい(画像提供/遠藤慧さん)

食器などを含め総合的にプロデュースされた食事も描く。「アマン東京」の朝食は、直径85cmのテーブルぴったりにお皿が並ぶさまが壮観(画像提供/遠藤慧さん)

食器などを含め総合的にプロデュースされた食事も描く。「アマン東京」の朝食は、直径85cmのテーブルぴったりにお皿が並ぶさまが壮観(画像提供/遠藤慧さん)

――実測スケッチはどのような過程で描かれていくのでしょうか? 

遠藤:チェックインをすませたら、部屋を歩き回って観察して、気になったところをどんどんスケッチしていきます。メジャー、レーザー距離計で実測して寸法値を書き込んだあと、それをもとに鉛筆で下書き・ペン入れをします。水彩絵の具での着彩は帰宅後に行い、細かい寸法などを描き込んで仕上げます。1枚描くのに8〜10時間ほどかかっていると思います。

宿泊中は色見本帳(※1)で内装の色を測ったり、水栓金物や家具などのメーカーもチェック。せっかく良いホテルに来て観察ばかりしていてはもったいないので、カフェに行っておやつを食べたり、プールやスパ、レストランなどに行ってホテルステイを堪能します。

※1/ここでは日本塗料工業会が発行している「日塗工色見本帳」のこと。建築物・景観設備・インテリアカラーや日本工業規格(JIS)で定められた色などの実用色を多く収録しているので、建築の色を測る際に便利。

着彩を行うための作業台と色見本帳(画像提供/遠藤慧さん)

着彩を行うための作業台と色見本帳(画像提供/遠藤慧さん)

最初は寸法を測らず、間取りと“すてき”だと感じた場所を描く。その後、実測した数値を書き込んでいく(画像提供/遠藤慧さん)

最初は寸法を測らず、間取りと“すてき”だと感じた場所を描く。その後、実測した数値を書き込んでいく(画像提供/遠藤慧さん)

間取りだけでなく体感した居心地のよさを描き込みたい

――実測スケッチは、1枚に平面図とパースで構成されていますね。

遠藤:子どものころ、小学館の図鑑を眺めるのが大好きでした。スケールの違うものや、時間軸、表や文字など、ある項目にまつわるあらゆる切り口の情報が、等価にレイアウトされて1ページに収まっているのが好きだったんです。そんな「図鑑」を自分でも作ってみたい、という気持ちがあります。

「hotel hisoca」の実測スケッチ。部屋を真上から見た平面図と遠近法で家具などが描かれたパースが図鑑のように1枚に表現されている(画像提供/遠藤慧さん)

「hotel hisoca」の実測スケッチ。部屋を真上から見た平面図と遠近法で家具などが描かれたパースが図鑑のように1枚に表現されている(画像提供/遠藤慧さん)

――配置を描いた平面図だけでなく、家具や窓からの眺めなどのパースがあることで、写真だけではわからない部屋の雰囲気までも伝わってきます。

遠藤: どのホテルのスケッチにも平面図は絶対に入れるようにしています。縮尺を設定して描いているので他のホテルとの比較がしやすいし、お部屋全体を一番網羅的に表現できます。空間のイメージはパース(建物の外観や内部を立体的に描いた透視図)や立体的な絵のほうがわかりやすいので、平面図で表せなかった部分を意識して付け加えています。客室で体験したことをギュッとまとめて見せられるような構図を目指しています。

「hotel hisoca」の平面スケッチ。客室内に個室サウナを備えたプランが特徴的。バスタブやキングサイズベッドまであらゆる寸法が記入されている(画像提供/遠藤慧さん)

「hotel hisoca」の平面スケッチ。客室内に個室サウナを備えたプランが特徴的。バスタブやキングサイズベッドまであらゆる寸法が記入されている(画像提供/遠藤慧さん)

「hotel hisoca」の上品な色で統一された客室。ホテルのブランドカラーは、dusty pink(くすんだピンク)とdusty green(くすんだグリーン)(画像提供/ナカサアンドパートナーズ)

「hotel hisoca」の上品な色で統一された客室。ホテルのブランドカラーは、dusty pink(くすんだピンク)とdusty green(くすんだグリーン)(画像提供/ナカサアンドパートナーズ)

遠近法で部屋の様子を描いたパース。照明器具が組み込まれたベッドのヘッドボード回りの寸法がよくわかる(画像提供/遠藤慧さん)

遠近法で部屋の様子を描いたパース。照明器具が組み込まれたベッドのヘッドボード回りの寸法がよくわかる(画像提供/遠藤慧さん)

オリジナルファニチャーのパース。洋服掛けについて「両側から使えるのがとてもヨイ!」と感想もメモしている(画像提供/遠藤慧さん)

オリジナルファニチャーのパース。洋服掛けについて「両側から使えるのがとてもヨイ!」と感想もメモしている(画像提供/遠藤慧さん)

池袋にある「hotel hisoca」。「ホテルのコンセプトカラーであるくすんだピンクとグリーンが、建物、家具、アメニティーなどすべてに徹底されているのが素晴らしかったです」(遠藤)(画像提供/ナカサアンドパートナーズ)

池袋にある「hotel hisoca」。「ホテルのコンセプトカラーであるくすんだピンクとグリーンが、建物、家具、アメニティーなどすべてに徹底されているのが素晴らしかったです」(遠藤)(画像提供/ナカサアンドパートナーズ)

描くことで設計者がデザインに込めた物語が見えてくる

――建築士・カラーコーディネーターとしてどのような視点でホテルを見ていますか?

遠藤:仕事で自分でも建築設計やカラーコーディネートを行っているので、それに活かしたいと思いながら見ています。ホテルによって客層や目指している方向性が全然違いますし、どのようにしてデザインに落とし込んだのかとか、いろんな制約をどうやって乗り越えているのか……と思いながら見ていますね。歴史があるホテルも、新しいホテルも、ブランドに対して並々ならぬこだわりと企業努力があって、たくさんの物語があるんですよ。興味をもって調べたり聞いたりするといくらでもそういうのが出てくるので面白いです。

LANDABOUT TOKYOの実測スケッチ。カラフルな内装は、まちの色や素材をサンプリングしたものだという。「アメニティー、食事も同じ世界観で統一されていておしゃれ」(遠藤)(画像提供/遠藤慧さん)

LANDABOUT TOKYOの実測スケッチ。カラフルな内装は、まちの色や素材をサンプリングしたものだという。「アメニティー、食事も同じ世界観で統一されていておしゃれ」(遠藤)(画像提供/遠藤慧さん)

鮮やかなピンク色の床が特徴的。ベッドは小上がりに設置されていることで空間が広く感じられる(画像提供/遠藤慧さん)

鮮やかなピンク色の床が特徴的。ベッドは小上がりに設置されていることで空間が広く感じられる(画像提供/遠藤慧さん)

企画・内装デザインは、「株式会社HAGI STUDIO」(画像提供/Hajime Kato 加藤甫)

企画・内装デザインは、「株式会社HAGI STUDIO」(画像提供/Hajime Kato 加藤甫)

「LANDABOUT TOKYO」のエントランス。入ると地域に開かれたパブリックなカフェラウンジがある(画像提供/Hajime Kato 加藤甫)

「LANDABOUT TOKYO」のエントランス。入ると地域に開かれたパブリックなカフェラウンジがある(画像提供/Hajime Kato 加藤甫)

図解スケッチやホテルのおすすめの楽しみ方

――実測スケッチで伝えたいことは?

遠藤:設計者はみんな心を尽くして設計をしていますから、その片鱗がスケッチから少しでも伝わったらいいなと思います。私は、体感した空間を図にすることで理解しているんだと思います。描くことの良い点は、ものをよく見ることができること。描いてみると、いかに普段自分がぼんやりとしかものを見ていないのかわかるんですよね。構造がどうなっているのかわからないと描くことはできないんですよ。なんとなくだと描けない。上手い下手とはまた別の話です。

「アマン東京」の実測スケッチ。遠藤さんが驚いたのは、部屋の中央にベッドがあること。ベッドやテーブルのセンターラインに対してライトや椅子、ソファがシンメトリーに配置されている(画像提供/遠藤慧さん)

「アマン東京」の実測スケッチ。遠藤さんが驚いたのは、部屋の中央にベッドがあること。ベッドやテーブルのセンターラインに対してライトや椅子、ソファがシンメトリーに配置されている(画像提供/遠藤慧さん)

ソファのある窓際は、ベッドのある床から一段下がっている。「視界をさえぎるものはなく、空が近かった!」という遠藤さんの感動が伝わってくるパース(画像提供/遠藤慧さん)

ソファのある窓際は、ベッドのある床から一段下がっている。「視界をさえぎるものはなく、空が近かった!」という遠藤さんの感動が伝わってくるパース(画像提供/遠藤慧さん)

伝統的な日本の住居からインスピレーションを得てデザインされた室内。「木の色と白、黒のほぼ3色だけでコーディネートされていることに感動」(遠藤さん)(画像提供/アマン東京)

伝統的な日本の住居からインスピレーションを得てデザインされた室内。「木の色と白、黒のほぼ3色だけでコーディネートされていることに感動」(遠藤さん)(画像提供/アマン東京)

部屋を描いたあとは、カフェやレストラン、スパなど共用部を楽しむ。プールサイドのベッドのイラストには、「水着のままあがってもOK」「めちゃやわらかいタオル」など体感したこともメモ(画像提供/遠藤慧さん)

部屋を描いたあとは、カフェやレストラン、スパなど共用部を楽しむ。プールサイドのベッドのイラストには、「水着のままあがってもOK」「めちゃやわらかいタオル」など体感したこともメモ(画像提供/遠藤慧さん)

スタイリッシュなデザインの美しいプール。窓の向こうには、東京の大パノラマが広がる(画像提供/アマン東京)

スタイリッシュなデザインの美しいプール。窓の向こうには、東京の大パノラマが広がる(画像提供/アマン東京)

――実測スケッチを見ていると、描かれているホテルに行ってみたくなります。ホテルの楽しみ方を教えてください。

遠藤:SNSでも、「写真を見るより雰囲気がわかる!」「行ってみたくなった!」という声をいただくことが多くてうれしいです。行く前にホテルの由来などを調べたり、受付にパンフレットなどがあればぜひ読んでみるのもおすすめです。ホテルのコンセプトや設計者が建物に込めた思いをより感じられると思います。最近は“ホカンス(ホテルでバカンス)”という言葉も流行り、ホテルで過ごすこと自体をおしゃれに楽しむという風潮もありますが、建物の美しさにも目を向けてみるとよりすてきな発見があると思います。ぜひ訪れて、一つ一つのホテルの物語を感じてもらいたいです。

●取材協力
・遠藤慧(Twitter)
・hotel hisoca
・LANDABOUT TOKYO
・アマン東京
・株式会社HAGI STUDIO

内田優子