ウィズコロナの安全な旅スタイルとしておすすめしたいのが、一軒家に泊まる奄美大島の「伝泊」です。伝泊とは伝統建築に泊まる宿泊施設のこと。世界で活躍する同島出身の建築家・山下保博氏が、島の伝統家屋をオシャレかつ快適にリノベーション。改装、という仕事が、ここまで古民家に新しい命を吹き込めるのかと感嘆すべきリノベ術、そして、現代人が芯からリラックスできる癒やしの宿をリポートいたします。

古くて新しくて懐かしい一軒家で海のある暮らし



山下氏の指揮のもとスタートした「伝泊」は、島民から空き家をなんとかしたい、という相談を受けたことから始まりました。伝泊とは、伝統的・伝説的な建築と文化を次の世代に伝えるための宿泊施設のこと。旅人と地元民が交流できる場も提供します(※新型コロナウイルス感染拡大状況下にある現在は控えています)。


伝泊の条件は、島の伝統的構法を7割以上残す建物であること、島の魅力を体感できるロケーションにあること、集落の人たちが協力的であること、などです。この伝泊には4つのタイプの宿泊施設があります。詳細は、前回の記事を参照ください。

>>奄美大島の「伝泊(でんぱく)」宿泊ルポ1〜新年の休暇はオンザビーチの極上宿へ

まずは、奄美群島の伝統的建築とはどういうものかをご紹介します。

1. 台風対策のためにサンゴ石や生垣の塀が設けられている
2. 平屋で分散型の配置設計。母屋、家畜小屋、納屋、風呂、井戸などが別棟で配置される
3. 湿気を防ぎ、強風を分散させる高床式である
4. 束石(つかいし)の上に載せた柱が床を貫通して梁(はり)まで伸びるヒキモン構造であること
5. 屋根の形は、伝統的な倉庫「高倉」の流れをくむ入母屋造り(寄棟造の上に切妻造をのせた形など)が多い
6. メインの部屋(おもて座敷)は外廊下で囲まれている
7. 清めのために、庭にサンゴ石や海砂を敷き詰めた家もある

伝泊施設は、島北部の笠利町に集まっていて、立地と景観によってそれぞれに名前が付けられています。「伝泊 港と夕陽の見える宿」、砂浜にアダンの木が茂る「伝泊 アダンと海見る宿」、「伝泊 はたおり工房のある宿」などです。上写真は「伝泊 ペットと過ごせる川辺の宿」です。その中でまずは、リピーターが一番多いという「伝泊 水平線と朝陽の宿」に泊まってみました。

絶妙なリノベーション術に魅入る「伝泊 水平線と朝陽の宿」



暖簾をくぐり、両脇にガラスの格子窓を持つ玄関で靴を脱ぎ、外廊下に囲まれ6畳間が2つ続く表座敷へ。外から見るよりはるかに立派です。まず目に留まったのが美しい欄間の透かし模様。そして床の間の床柱と地袋(小棚)、小さな書院障子。さりげなく掛けられたアンティーク時計やフグの絵画。こぢんまりと、すっきりとした静謐な佇まいに、日本の伝統美を改めて実感させられます。


昭和の時代にはどの家にもあったであろう、懐かしい型ガラスがはめ込まれた障子。もうこれだけで、古き良き時代へタイムスリップしたかのよう。


電灯がまた凝っていて、1枚の透明のガラス皿がランプシェードになっており、ガラスについた銀色の輪が天井に映し出されて、さながら天使の輪のよう。なんともオシャレな演出です。


キッチンエリアへ行くと、また感動が押し寄せてきます。


台所とダイニングスペース、その先はワインセラーが用意された仕事部屋、奥には6畳の和室が。まずはダイニングの床。古い家屋にもフィットするPタイルと呼ばれる最新素材を使用しています。


台所の前のガラスも、古いものですが今見てもとてもオシャレです。元からある良い素材はそのまま生かし、水回りや浴室などは、快適な最新設備が備わります。趣味の良い最新家電、食器やグラス、箸、スプーンなど完璧な備えです。


空き家だった古い家屋が、建築家の手でここまでイキイキと再生している様を見て、初めて、美しい改装がどんなものであるか、理解できたというのが正直な感想です。さすが建築家として300軒以上を手がけられた山下さんならではのお仕事。故郷の奄美の伝統建築に対する愛がひしひしと伝わってきます。


「実は坪70〜80万円かかる改装が、半額にできました。なぜなら、建築家である自分が直に地元の職人にオーダーできるからです」と山下さん。出身校の屋仁小学校で撮らせていただきました。


朝起きてすぐ目の前に広がる海へ散歩に出ると、近所のお母さんがジョギングしていました。


ルームサービスのコーヒーと月桃茶。コーヒーは宿泊施設周辺にあるコーヒー焙煎所「豆と麦」のオリジナルブレンドです。

個性豊かな古民家を選べます!



こちらは2泊目に滞在した古民家「伝泊 プライベートビーチのある宿」。


裏庭の小径を抜けると、白砂が広がるビーチ!プライベートビーチのような感覚で自由に過ごせます。


船倉の漁港そばにある「伝泊 港と夕陽の見える宿」は、元は漁師が住んでいた古民家を改装しています。典型的な漁師の家に泊まって、島の人たちの暮らしを想像してみましょう。


ここの床の間に置いてあるのは、島に古くから伝わる酒席の余興「ナンコ遊び」のナンコ盤。2人で、相手の持っているナンコ珠の本数と自分の持っている本数の合計を言い当てるゲームです。


この写真は島の伝統的な倉庫を残した「伝泊 高倉のある宿」。子どもの落書きもそのまま残されています。


お風呂は別棟にあります。きれいに改装されていますが、懐かしの五右衛門風呂はそのまま。


ためしに家の前に建つ高倉の内部に座ってみました。蒸し暑い日でしたが、この空間だけは風が吹き抜け、ひんやりと涼しいのです。


すべての伝泊・古民家は1組限定の貸し切りタイプです。夜は満天の星を仰ぎ見て、ふかふかのお布団で眠り、朝は砂浜でヨガでもしましょうか。黒糖焼酎でもいただきながら、好きなことだけをして過ごす旅。夢の島暮らしが待っていますよ!
問い合わせ:奄美イノベーション
電話:0997-63-1910
https://den-paku.com/
料金:1泊8,030円〜(税込、素泊まり)
 
伝泊 水平線と朝陽の宿
住所:鹿児島県奄美市笠利町用26-1


伝泊 プライベートビーチのある宿
住所:鹿児島県奄美市笠利町手花部ウル畑3010-2


伝泊 港と夕陽の見える宿
住所:鹿児島県奄美市笠利町外金久舟倉1081


伝泊 高倉のある宿
住所:鹿児島県奄美市笠利町須野95



[All photos by Sachiko Suzuki, 奄美イノベーション]