有名な「日本一」ではなく、ちょっとマイナーな「日本一」を紹介するTABIZINEの連載。第1回は日本一高い場所にある普通鉄道の駅を紹介しました。長野県から山梨県に抜ける小梅線沿線の駅でした。第2回は逆に高い場所ではなく、地下深くに延びる洞窟を紹介します。日本一高低差のある洞窟一帯には、同レベルに深い洞窟が密集しているとの話。いわば地中洞窟の「メッカ」があるわけですから、旅を愛する人は、ぜひチェックしてくださいね。
ナンバー1

マイコミ平には深さ数百メートルの竪型洞窟が密集している


新潟県糸魚川

突然ですが「青海」といわれて、どこを思い浮かべますか?関東の人であれば東京都江東区の「青海(あおみ)」を思い浮かべると思います。筆者のようなおっちょこちょいは東京都西部にある「青梅(おうめ)市」を思い浮かべてしまいますが。

今回の舞台である青海はかつて青海町(おうみまち)と呼ばれ、現在は能生町・糸魚川市と合併して糸魚川市の一部となった青海です。

糸魚川といわれれば、日本のどの辺りに位置するかピンと来た人も少なくないと思います。糸魚川市は新潟県西部にある日本海沿いのまち。地理や地学に詳しい人は「フォッサマグナ(の西縁)」を思い浮かべるはずです。フォッサマグナとは「大きな溝」を意味し、本州の東日本と西日本を分ける重要な地帯です。

新潟県親不知

切り立った交通の要所である親不知(おやしらず)・子不知(こしらず)を連想する人もいるはずです。飛騨山脈(北アルプス)の峰々が日本海に落ち込む危険な海岸線で、
<波が荒くて、親は子を、子は親をかえりみる暇もないほどの危険な海岸>(岩波書店『広辞苑』より引用)

と辞書にも書かれています。今回の舞台はこの糸魚川市にあるマイコミ平です。

妙な地名で日本とは思えない響きがありますが、糸魚川ユネスコ世界ジオパークに認定された24のジオサイトのひとつで、このマイコミ平に深さ数百メートルの竪型洞窟が密集しています。

日本に残された数少ない秘境のひとつ




小滝川ヒスイ峡(学習護岸)image by 糸魚川市観光協会

そもそもジオパークとは「地質学」(ジオロジー)と「公園」(パーク)を組み合わせた造語です。
<地球科学分野で重要な、地球の諸現象や変遷の歴史をとどめた固有の地層や地形を有し、生態学や文化的に貴重な遺産も含んだ地域>(小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』より引用)

要するに地質学的にとても貴重な自然公園といった感じ。例えば有珠山や昭和新山など火山を置く北海道の洞爺湖、雲仙岳の大噴火の記憶も残る長崎県の島原半島などと一緒に、糸魚川も日本初の世界ジオパークに認定されています。



白蓮洞(深さ513m)写真提供:糸魚川ジオパーク協議会事務局

中でも糸魚川市にはジオサイト(見どころ)が24カ所もあり、それらのスポットでは地質・文化・歴史を学べる環境が整備されています。その見どころのひとつが先ほどのマイコミ平で、白蓮洞(深さ513m)・千里洞(深さ405m)・大マイコミ(深さ345m)・銀鳳洞(深333m)と深度第4位までの洞窟が近距離に密集しています。



千里洞(深さ405m)写真提供:糸魚川ジオパーク協議会事務局

このマイコミ平は、ある意味で日本に残された数少ない秘境のひとつと呼べるかもしれません。まず許可なしでは危険なので入山できません。入れても年10回ほど開催される「マイコミ平ツアー」で認められるのみです。

周囲は、石灰岩が雨水で浸食された自然の洞窟がそこかしこに点在しています。転落の危険性があり「これより先は洞穴があり、危険防止のため関係者以外の立ち入りを禁止します」と立札も出ているのだとか。さらに2019年の豪雨でアクセス路が被災し、ここ2年は「マイコミ平ツアー」も開催されていません。

糸魚川ジオパーク協議会事務局の担当者によれば、現在は2年越しで復旧工事をしているところだといいます。来年には再開できる見込みですが、今回の執筆のために現地へ行けなかったので、ツアー参加した人を探して現地の様子を聞いてみました。

マイコミ平へ行くには、大きなセメント工場の敷地内を抜けて山道を車で走り、補強のためにコンクリートを打ち直した窮屈な車幅のトンネルを抜けて、さらに山奥へ行かなければいけないとの話。途中で徒歩に切り替え、小マイコミ→大マイコミ→通天洞→千里洞→白蓮洞を巡ります。マイコミとは川の水が洞窟の穴に「舞い込んで」地中に消えていくスポットです。川の水が地中に消えていく、ちょっと恐ろしい光景ですよね。

千里洞や白蓮洞などの穴からは、富士山麓に多い氷穴のような冷たい風が吹き上げてくるらしいです。ガイドが石ころを投げ入れると、いつまでも転がる音が聞こえ続けたとか。

この話はインターネット上にも数多く見られますので、深さを五感で理解させる有名な演出なのかもしれませんね。

東京タワー(333m)を逆さにして突っ込んでも届かない


東京タワー

500m前後の深さとは、具体的にどういったレベルなのでしょうか?

手元には『小学館の図鑑NEO+もっとくらべる図鑑』(小学館)があります。その図鑑にも高さと深さを比べるページに青海千里洞が掲載されています。

情報が古いのか深さは約365mとされていますが、かつて存在した青海町自然史博物館の創立に尽力した故・小野健さんの講演記録によると、関西大学の人たちが5年かけて探索し地底湖にたどり着いた際に深さ405mと判明したそうです。しかし、ここまで深いと、ちょっと実感として深さがわかりづらいですよね。

レインボーブリッジ

レインボーブリッジ

例えばレインボーブリッジ(東京都)の主塔の高さは126mです。地中にレインボーブリッジを埋めても洞窟の深さには届きません。スキューバダイビングで人類が最も深くまで潜った記録は先ほどの『小学館の図鑑NEO+もっとくらべる図鑑』(初版第1刷)によると318.25m。この数字は2005年の記録で、2014年には332.35mに更新されています。

いわば東京タワー(333m)を逆さにして海に突っ込んだくらいの深さです。その東京タワーを地中に突っ込んでみても、千里洞や白蓮洞の深さには及びません。

東京スカイツリー

さらに白蓮洞の深さ500mとなれば、東京スカイツリーを白蓮洞の隣に埋めた時、上空にある第2展望台(高さ450m)まで地中に埋まり、電波塔の頭頂部に設置されるゲイン塔(放送用アンテナを取り付ける柱)だけが突き出す格好になります。

東京タワーや東京スカイツリーであれば、真下から見上げてその高さを体感した人は多いはず。そのスケールを今度は地中に向けて距離を感じてください。それだけ深い穴が比較的近距離にボコボコとあるのですから、一帯の自由な入山が禁止されている理由にも納得ができますよね。

糸魚川は周辺の旅の楽しみもたっぷり


糸魚川ヒスイの拾える海岸

ヒスイの拾える海岸

初めて周囲を訪れる人からすれば、マイコミ平や地中深い洞窟だけでなく、糸魚川市そのものにも「秘境らしさ」を感じられるはずです。

関東方面の人がその険しさを体感したいのであれば、長野県の安曇野あたりから国道147号線(途中から148号線)を北上して、姫川渓谷を通り糸魚川を目指すルートが手軽です。安曇野周辺の道路は平たんな盆地が広がり、信濃大町あたりまでは穏やかなドライブを楽しめるのですが、その先の白馬あたりから急に道が険しくなります。

新潟県糸魚川市

丘から眺めた糸魚川の地形。山と海に挟まれて平野部は少ない

心細い山越えを果たして糸魚川の海に出ても、今度は海と山に囲まれた陸地の狭さに驚くはずです。天候が荒れて高波でも見えれば、心細さは尋常ではありません。富山方面に抜けようと思っても、北陸自動車道の子不知トンネル・新子不知トンネル・親不知トンネルと長いトンネルをいくつも越えなければいけません。トンネルを避けて国道8号(北陸街道)を行けば、海沿いのか細い道を通らなければいけないのです。

とはいえ、その厳しさの裏側に糸魚川は見どころも尽きないから面白い土地です。周囲にはヒスイを拾える海岸があり、約1500万年前の化石海水型温泉に入れる糸魚川温泉の日帰り入浴施設もあります。



道の駅マリンドリーム能生 image by 糸魚川市観光協会

糸魚川市内の能生にある「道の駅マリンドリーム能生」の直売所では、ベニズワイガニを思う存分食べられます。工場夜景の写真家たちが好んで撮影する明星セメントのライトアップも見事です。まるで宇宙船の離着陸基地にたどり着いた気分です。

マイコミ平のツアーが再開し、新型コロナウイルス感染症も終息してきたら、一度旅行を計画してみてください。ほかの場所では楽しめない発見と学びと興奮が待っているはずですよ。



[参考]
※ 小野健「青海町自然史博物館とマイコミ平の不思議」
※ マイコミ平 - 山間地に関係するジオサイト - 糸魚川ジオパーク協議会
※ 世界の地下、一番深い場所は? 日本一は新潟県に - NIKKEI STYLE
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