9月11日で東日本大震災の発生から12年6か月です。津波で児童と教職員84人が犠牲になった宮城県石巻市の大川小学校で、大学生が語り部を務める試みが始まりました。津波による被災経験のない学生たちはどのような思いを胸に震災を語ったのでしょうか。
「自分たちが伝えられるのか」戸惑いながらのスタート
9月8日、語り部ガイドが2日後に迫ったこの日、東北大学のキャンパスで2人の学生が、最終確認を行っていました。ボランティアサークルSCRUM(スクラム)の2年生、上園真輝人さんと後藤太朗さんです。

東北大学SCRUM震災伝承部部長 後藤太朗さん:
「追悼を忘れちゃいけない」
東北大学SCRUM代表 上園真輝人さん:
「それは自分たちが言うのはおこがましいように感じる」
2人が語り部をするのは、児童と教職員84人が犠牲になった石巻市の大川小学校です。
東北大学SCRUM代表 上園真輝人さん:
「最終的に僕らは何を伝えたいのか、それを伝えていいのかという葛藤が難しい。初めての試みなので、自分たちが話すことに抵抗がありますし、何を伝えたいかがまとまらない。あと2日しかないですけど」

震災遺構の大川小学校。主に児童の遺族が、語り部を行ってきましたが依頼が増える中、申し込みを断らざるを得ない場面もあるということです。そうした中、今年2月、以前から交流があったSCRUMに声がかかりました。最初は戸惑いがあったと後藤さんは話します。
東北大学SCRUM震災伝承部部長 後藤太朗さん:
「正直(依頼を)素直には受け入れられなかったなというのが当時の思い。そんなに簡単にできることではないと思っていたので」

しかし、当時の大川小の児童たちと同世代の自分たちだからこそ伝えられることがあると考え依頼を受けることに。ボランティアの活動支援を行う大学の教員にもアドバイスをもらい、準備を進めました。
東北大学 松原久特任助教:
「みんなが何を伝えたいか。それが適切な避難行動につながるか、特徴づけるかもしれない」
上園さんと後藤さんは、客観的な事実だけでなく「語り部」として伝えたいことがありました。
東北大学SCRUM震災伝承部部長 後藤太朗さん:
「次の世代が伝えていくことで、大川小であったことや教訓をもっと先の世代に伝えて、未来の災害から命を守ることに繋がるのではないか」
そして迎えた、語り部の当日。スタートは午後からですが、ある人たちに会うため午前中に大川小へやってきました。
児童の遺族も見守る中で・・「初めての語り部」
児童の遺族で、大川伝承の会で語り部を務める鈴木典行さんと佐藤敏郎さんのガイドに参加するため、午前中から大川小を訪れた学生たち。ガイドには、県の内外から多くの人が訪れていました。
大川伝承の会共同代表 佐藤敏郎さん:
「ここを走ってくる子どもたちの姿を思い浮かべてほしいです。簡単に思い浮かべられます、うちの娘がどんな顔して走ってきたか目に見えます」

およそ1時間。後藤さんたちは、時折、メモを取りながら大川伝承の会佐藤さんの話に熱心に耳を傾けました。語り部を終えると佐藤さんが学生たちに声をかけました。
大川伝承の会共同代表 佐藤敏郎さん:
「質問を受けたときにどう答えられるか、答えられないときは、よくわかりませんって言えばいい。おれなんかも今日言ったけど、それおれも疑問なんだよね、とかでもいい」
午後1時半、いよいよ後藤さんたち学生による語り部が始まりました。大川伝承の会の佐藤さんと鈴木さんも見守ります。

東北大学SCRUM代表 上園真輝人さん:
「式台に置かれていたラジオから、津波が迫ってくるという情報が流れ、避難を呼びかける中、子どもたちはいつ来るかわからない、得体のしれない津波の恐怖に襲われていました。早くお父さんお母さんに会いたい。早く暖かい家に帰りたい。そんな気持ちもあったかもしれません」
12年前のあの日、校庭に50分間留まり避難を始めたのは津波が来るわずか1分前でした。児童が津波に襲われた場所を案内する後藤さんたち。子どもたちがどんな思いだったのか、自分たちの言葉で伝えます。
東北大学SCRUM震災伝承部部長 後藤太朗さん:
「(遺体で見つかった)子どもたちをお父さん、お母さんたちはどんな気持ちで抱き上げたことでしょう。その様子を言葉にするのはとても難しいですが、親御さんたちは、何10年経ってもその気持ちを忘れることはできないと話します。見つかった子どもたちの中には、仲いい子たちが手をつないでいたり、お姉ちゃんが妹を両手で抱えよるようにする様子もありました」

後藤さんたちの言葉に涙を浮かべる参加者も。そして、語り部の最後に、後藤さんたちは参加者をある場所へと案内しました。
助かったはずの場所で・・「命を守るため」伝えたい思い
後藤さんたち語り部は、12年前のあの日、子どもたちが避難していれば助かったはずの裏山を案内し「命を守るために、今からできることがある」と伝えました。

東北大学SCRUM震災伝承部部長 後藤太朗さん:
「大川小の出来事を、未来の命を守るために、そんな場所であってほしい、そう願っています。以上で語り部を終わらせていただきます」
およそ1時間、学生たちによる語り部ガイドは無事、終了しました。
参加者:
「非常に良かった。若い子たちが伝えることで、若い子たちが聞く耳を持ってくれるので、ぜひ広げていってほしい」

学生たちを見守った大川伝承の会の佐藤さんと鈴木さんは、学生たちのひたむきな姿勢に胸を打たれたと話します。
大川伝承の会共同代表 佐藤敏郎さん:
「素晴らしいね。やっぱりどうすれば伝わるか、どう表現すればいいか悩んで言葉選ぶでしょ?そういうのが大事なんだねきっと。当事者しか語れない、経験者しか語れないみたいな壁を、知らず知らず作っていたような気がしますが、(学生たちは)軽々と超えていきましたね。実はそれは壁じゃなかったんだろうな。言葉を選んで、スタイルを考えて向き合えば、色んな人が語っていいんだし、伝えていいんだと示してくれたような気がして、頼もしいですね」
東北大学SCRUM震災伝承部部長 後藤太朗さん:
「けっこう原稿を見ながらの部分があったので、本当に思いが伝わったか不安な部分もあったですけど、涙を流されている方もいらっしゃったので、準備してきた部分が伝わって良かった」

東北大学SCRUM代表 上園真輝人さん:
「やってみて、非常に緊張しました。これまで先輩や大川伝承会の方もそうですし、たくさんの方の支えがあってでここまでできたので、そういう方に感謝を伝えたい」
後藤さんたちは今後も語り部の活動を続け、後輩たちにも引き継いでいくということです。大川伝承の会の佐藤敏郎さんは、学生たちの試みは、津波による被災経験が無くても震災を語ることできる、今後の語り部のモデルになったと話していました。