マイクロサービスは高度に分散されたクラウド環境で動作するため、状態の管理が難しい。Temporal Technologies(本社:米ワシントン州)は、マイクロサービスの状態を管理するオープンソースのマイクロサービスオーケストレーションプラットフォームを構築している企業だ。Datadog、Netflix、Snap、Box、Coinbaseなどが、信頼性の高いクラウドアプリケーションを実行するために、Temporalのプロダクトを使っている。共同創業者でCEOのMaxim Fateev氏と、プロダクトリードのRyland Goldstein氏に、プラットフォームの概要やサービスの特徴などを聞いた。

分散アプリケーションの制御技術をオープンソースで提供

――Fateevさんの職業的背景と、創業の経緯を教えてください。

Fateev:モスクワ国立大学で物理学の学位を取得したあと、1995年にブラジルに渡ってリオデジャネイロ州立大学でコンピュータサイエンスの修士号を取得しました。その後、1998年にアメリカに来て以来、AmazonやMicrosoft、Googleなどでソフトウェア・エンジニアとして働いてきました。

 実は、当初は起業しようと思ってはいませんでした。ただ、私は長い間、技術関係の仕事に取り組んできました。10年前、Amazon Web Services(AWS)で、分散するアプリケーションコンポーネントにまたがる作業のコーディネートを目的とするウェブサービス、AWS Simple Workflow Service(SWF)のリードアーキテクトをしていたころ、分散アプリケーションを記述するためのSWFクライアント側フレームワークであるAWS Flow Frameworkを作りました。Uberに移った際も、AWSの同僚であったSamar Abbas(Temporal Technologies 共同創業者/CTO)と同じような技術をオープンソースプロジェクトで作りました。

 この技術は、Uberの中で普及しましたが、Uber以外でも使われました。AirbnbやBoxのような様々な会社が使い始めたのです。そこで、この技術の可能性を最大限に生かそうと思ったら、たとえオープンソースプロジェクトであっても、会社の中にとどまっている、閉じこもっているのは良くないと感じ、資金調達して2019年に会社を設立しました。

Maxim Fateev
Temporal Technologies
Co-Founder & CEO
1994年にモスクワ国立大学で物理学の学位を取得後、1998年にリオデジャネイロ州立大学でコンピュータサイエンスの修士号を取得。AmazonやMicrosoft、Amazon Web Services、Google、Uberにてソフトウェアエンジニアなどを務め、2019年10月にTemporal Technologiesを共同創業する。

Ryland Goldstein
Temporal Technologies
Head of Product
2012年〜2015年、ワシントン大学にてソフトウェアエンジニアリングなどを専攻。Parallel Machinesでソフトウェアエンジニア、Reshuffleでソリューションアーキテクトやプロダクトマネージャなどを務め、2020年からTemporal TechnologiesのHead of Product。

――Goldsteinさんの役割を教えてください。

Goldstein:Temporalのプロダクト責任者をしています。特に、開発者向けの製品にフォーカスしていますが、オープンソースのものも含めすべて、コアプラットフォームのイノベーションにも注力しています。私はエンジニアリングのバックグラウンドがありますので、開発者のために次に何を作るべきかを考え、すでに製品を使用しているユーザーの成功している点や困っている点を知り、製品の改善に役立てています。

――Temporalのプロダクトはどのようなものでしょうか。

Goldstein:Temporalは分散アプリケーションを構築する際に、信頼性を高めるオープンソースプラットフォームです。私たちの技術を採用するのは、アプリケーションの信頼性に問題があり、運用を続けることができない開発者や、あるいは多くの問題を抱えていて、新しいアップデートの導入やシステムのアップグレードに多くのコストがかかるような企業の方々です。

 開発者は、Temporalのオープンソースを、自社のオンプレミス環境か、あるいは自社が使っているクラウド環境へとデプロイします。そして、自分たちのアプリケーションを構築する際に信頼性を高めることができます。アプリケーションの構築中にダウンしてしまう心配がなくなりますので、何百人、何千人ものエンジニアを使って、スケーラブルで信頼性の高いシステムを構築しなければならないような企業でも、非常に効率的に開発を進められます。

――オープンソースのプロジェクト以外に、マネージドサービスなどを展開していますか。

Fateev:基本的な考え方として、私たちのオープンソースは最初からクラウドサービスで提供しています。複数の役割があり、データベース上で動作します。利用するには、バックエンドのサービスに接続する必要があります。顧客はこのバックエンドのサービスのトランザクション料金を利用した量にしたがって支払うようになっています。

Goldstein:Temporalのプラットフォームはデータベースもなければ、Apache Kafka(分散データストリーミング・プラットフォーム。以下、Kafka)のようなものでもありませんが、アプリケーションに依存性を持たせるという意味では似ています。

 Kafkaをオンプレミスで管理していたのが、Kafkaのクラウドで実行するようになったとしても、Kafkaがアプリケーション・コードを実行し始めるわけではありませんよね。実際に計算を行うサーバーを動かしているわけではありません。Temporalも同じで、データベースのように、サーバー側で動いているものと接続すればいいのです。

Image:Temporal Technologies

大手企業も活用し、オープンソースのコミュニティは急増中

――導入事例をいくつか紹介していただけますか。

Goldstein:2つの大きな事例を紹介しましょう。1つは昨年上場したQualtricsで、エクスペリエンス管理サービスのリーダー的存在です。彼らはTemporalを使うことでシステムの複雑さが大幅に軽減されただけでなく、コストも大幅に削減でき、信頼性も向上し、より迅速に変更を反映させることができるようになりました。

 もうひとつはSnapです。Snapchatのような大規模、大量のインフラを運用するのは大きなチャレンジです。実際、私たちは長期にわたってPoCを実施し、実運用で必要な規模よりもはるかに大きな負荷テストを行いました。最終的にはとてもうまくいき、今では私たちのクラウド製品の顧客となり、Snapのストーリー機能にTemporal Cloudを使用しています。

――事業の成長率をお聞かせいただけないでしょうか。

Fateev:現時点では、お金を支払うユーザーよりも、オープンソースコミュニティの成長を重視しています。オープンソースプロジェクトが幅広く利用されない限り、ビジネスの大きな成長は見込めないからです。ですから、私たちはコミュニティの成長に非常に重点を置いています。最近ではコミュニティのメンバー数は四半期ごとに2倍に増えています。

 ほとんどがシリコンバレーのようなアメリカ西海岸の人たちですが、ヨーロッパ、アジア、オーストラリア、日本のユーザーもいます。

Goldstein:私が2020年に入社したときにはTemporalはあまり有名ではありませんでした。NetflixやDatadogなどが利用していることが公表されてからは、オープンソースだけでなく、クラウドサービスも利用する人たちががどんどん増えてきました。

大型資金調達 幅広い言語への対応、ユーザーインターフェースの改良に

――2022年2月にシリーズBラウンドで、Sequoia Capital、Index Venturesなどから1億300万ドル(約140億円)調達しています。この資金はどのように使っていきますか。

Fateev:私たちは比較的順調に成長してきました。スタートアップはプロダクトマーケットフィット(PMF)が難しいと言われていますが、私たちはすでに人が使いたいと思うオープンソースプロジェクトを作っていました。ですから、設立当初の計画を実行し続けるだけだと思っています。これからはとくにクラウド版をオファーしていきます。

 オープンソースにも多くの投資を続けていて、GoやJava、PHPに加えて、PythonやJavaScriptをサポートするようになりました。今はRubyにも取り組んでいることろです。ユーザーインタフェースなど、顧客向けの機能なども全般的な改良をしています。さらに、コミュニケーションやトレーニングにも注力をしていきます。

 メンバーは2021年当初15人で、2022年の初めは約40~50人、現在(取材は2022年6月1日)は80人と、かなりのスピードで増えています。オフィスはシアトル近郊ですが、パンデミックの影響もあって、南米も含めたアメリカのタイムゾーンの地域から開発の人材を採用するようになりました。現在は、アカウント・エグゼクティブやセールスなどの人材も採用しています。

――日本市場への参入は計画していますか。

Fateev:オープンソースのプラットフォームなので、オープンソースが広く普及すれば日本のユーザーもどんどん増えるでしょう。

 日本の市場でビジネスをするには、システムインテグレーターや、顧客のためにソフトウェアを開発している会社などが、私たちの良きパートナーになるでしょう。ロシアでは、保険の請求システムを構築しているシステムインテグレーターがTemporalを使っています。ソフトウェアを作る人は誰でも、クライアントのために可用性を追求しますので、Temporalを採用するのです。

Goldstein:当社のリーダーシップチームには、以前に日本とのビジネスを多数経験したメンバーがいます。彼らは日本市場のことをよく理解していますし、私たちに合うインテグレーターも知っています。

――ここ数年、マイクロサービスによるアプリケーションのモダン化など、デジタルトランスフォーメーションに取り組む企業が増えています。Temporalも貢献できるのでしょうか。

Goldstein:ここ5年ほど、企業がマイクロサービスアーキテクチャに移行する大きなトレンドがあり、Kubernetesがその大きな部分を占めています。多くのみなさんが心配するのは、従来のシステムが古くなり、使えなくなってしまうことや、新しいやり方への移行が難しいということです。つまり、古いやり方から新しいやり方へ移行しなければならず、その間に部分的な解決策を講じる余地はないという印象をお持ちなのです。

 Temporalの優れた点は、部分的な解決策として有効なことです。Temporalを導入すれば、機能している古いアプリケーションを少しずつ削りながら新しくしていくこともできます。そうすることで、両者の長所を生かすことができます。現在の業務をそのまま継続しながら、徐々に将来のソリューションに移行していくこともできるのです。

Fateev:マイクロサービスによるアプリケーション開発は複雑になっています。確かに利点はたくさんあるのですが、開発者に大きな負担を強いてしまうのです。Temporalを使うことで、開発者の働き方をよりシンプルにし、アプリケーション開発に注力していただきたいと思っています。開発者は、基礎となる技術を理解し、同時に結果を出し、プログラムをスケーラブルかつ信頼性を担保する必要があります。Temporalのプラットフォームがそれを実現してくれるのです。

――長期的なビジョンをお教えください。

Fateev:私たちはTemporalの直接のユーザーであり、ソフトウェア開発者でもありますから、すべての開発者がより速く、より信頼性の高いシステムを開発できるように支援したいです。開発者のみなさんに私たちのことを知ってもらい、彼らのツールボックスに私たちのシステムを入れてもらえればと思います。