自動車には、自律運転プログラムや車両の状態確認など、ソフトウェアが欠かせなくなっている。公道を走るという性質上、パソコンやスマートフォン以上に安全性が求められるため、プログラムコードの品質管理やサイバー攻撃からの防御は重要だ。Aurora Labs(本社:イスラエル)は、コネクテッドカー向けにAIを活用したソフトウェアの自己修復ソリューションを提供する企業。共同創業者でCEOのZohar Fox氏に創業の経緯やプロダクトの特徴、将来展望を聞いた。

複雑なソフトウェア開発の「ペイン」に新たな価値を

――Aurora Labs創業までのキャリアについてお聞かせください。

 私は、イスラエルのエコシステムで23年間キャリアを歩んできました。ソフトウェアや組み込みエンジニアリング、クラウドインフラなどの技術を手がけました。銀行向け電子決済ソフトウエア開発に関わった後は、空港や軍隊のような、国境などのセキュリティを担当する非常に大きな組織に移り、プロダクト・セールスのグループリーダーを経てCTOになりました。そこでは、顔認識のためアルゴリズムなども扱っていました。

 多くのセキュリティ標準や規制のなかで、安全なシステムを提供することに注力してきましたが、ソフトウェアというものは時間が経つにつれより複雑になっていきます。私はソフトウェア開発の厳しい現実を見てきましたので、それをサポートするために、Aurora Labsをを2016年に共同創業し、この6年間は機械学習(ML)と人工知能(AI)に人生を捧げてきました。そして、自動車用のソフトウェアのような複雑なシステムを開発するチームのために、AIを活用する方法を考えました。

 創業の際、航空電子工学やIoT分野など、いくつかの業界を検討しました。そして、自動車産業はシステムに対する課題は多いものの、市場から得られるものは最も大きいという結論に達しました。非常に複雑で「ペイン」がある分野に価値を提供したいと思い、自動車業界に進出することにしたのです。

Zohar Fox
Aurora Labs
Co-Founder & CEO
VeriFoneで銀行向け電子決済ソフトウエア開発に従事。Essence GroupでIoT技術の開発に携わった後、Ressolare Security ProductsのCTOとなる。2014年にHachiko共同創業。過去20年にわたり、ソフトウエア技術の開発、実装、製造、販売に取り組んできた。2016年にAurora Labsを共同創業し、現在に至る。

コネクテッドカーのソフトウェア開発を効率化し、安全性の向上に寄与

――現在のプロダクトの特徴やビジネスモデルをお教えください。

 私たちはおよそ100名のチームですが、100以上の知的財産をさまざまな分野で取得しています。そして、ソフトウェアのための自然言語処理の仕組みを作りました。ソフトウェア開発者は、コードを書いてソフトウェアを開発します。私たちは、コードの内容や処理の関係、振る舞いを理解する処理を開発したのです。

 たとえば、非常に大きなシステムを開発するために、インド、日本、ヨーロッパなど、大勢のメンバーが所属するチームがそれぞれ担当の処理のコードを書いていて、それらを統合する必要があるとします。私たちのプラットフォームは、このような統合を容易にできるのです。

 これまで5年以上かけて自然言語処理のAIエンジンを訓練し、予測・メンテナンス・更新承認・プロセス全体の合理化など、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デプロイメント)のサービスとして提供しています。市場に投入したのは4年前からで、ヨーロッパの大手自動車OEMをはじめとする企業の研究開発チームが採用しています。豊田通商からの出資も受け、日本市場でも既に2年近く事業を展開しています。

 主力プロダクトは、車載ソフトウエアの無線アップデートソリューションです。車両に新しいアプリケーションを継続的に配信する方法など、車載ソフトウエアの更新プロセスを強化するためのツールを提供しています。AIによって将来の問題や予知保全などについて非常に精度の高い洞察を得られるようになっており、車両に配信するデータ量の削減も可能です。なお、基本的な料金体系は、配信するソフトウェア容量に応じたライセンスとなっています。

Image:Aurora Labs

――2022年7月にシリーズCラウンドで6300万ドルを調達しています。今後12カ月のマイルストーンをお教えください。

 グローバルに事業を展開したいと考えています。ヨーロッパはもちろん、米国、アジア、中東、アフリカなど、世界各地に展開していきます。技術的にはADAS(先進運転支援システム)の分野にも注力します。ADASには、カメラやセンサーでとらえた内容を認識するなど、コンピュータービジョンのアルゴリズムが動いています。私たちの次のAIの機能では、ADASの安全性を確保するため、その誤検出を理解し、高い品質を得るためのシステムを提供したいと考えています。これは非常に重要なミッションを持つシステムです。

 Aurora Labsのすべてのエンジニアに「あなたは何をしているのですか」と尋ねると「毎日、命を救っています」と答えるでしょう。私たちは、ADASのような先進的な技術を用いて、人が傷つくような事故が起きることを防ぎたいと考えているのです。

自動車の次はスマートシティ ソフトウェアの自己修復が当たり前の世界へ

――すばらしいですね。さて、豊田通商とともに日本では既にビジネスを展開されているそうですが、さらに日本市場での事業を拡大していく場合、どのようなパートナーを求めますか?

 日本で展開したい新たなセグメントとパートナーについての明確なロードマップを持っています。現在、私たちは自動車分野でのソフトウェアの異常検知と自動更新に重点を置いています。この取り組みは中間地点であり、その先にはスマートシティの分野への発展があります。既にこの分野における非常に大きな企業との話し合いをしています。

 私はこれまでのキャリアで、1つの企業がすべてを実行することはできないと理解しています。ある市場に参入してリーダーになるには、業界の一員になる必要がありますが、私たちはそのために強いモチベーションを持っています。私たちのベストプラクティスによって高品質の製品を投入する組織を支援するために、さまざまな分野で日本の企業との強い関係を構築したいと思っています。

――日本は高齢社会となり、自動運転やスマートシティによる生活の質(QOL)向上が期待されています。そのような未来にも貢献されるのでしょうか。御社の長期ビジョンも併せてお聞かせください。

 私たちは、日本という国に対して非常に強い感謝の気持ちを持っています。特定の国や地域一員となりたいなら、そのDNAを理解する必要があると考えているからです。私たちは日本社会を理解し、AIで人々の生活を改善することができると思いますし、スマートシティや医療の分野で大きな変化をもたらすことができるでしょう。

 Aurora Labsの「Labs」は、研究機関のことですね。研究機関は、世の中の大きな課題について研究し、課題を解決する手助けをします。私たちのビジョンは、自動車だけでなく、すべてのアプリケーションが「自己修復」の仕組みを持つことを支援することです。データセンター、テレビ、乗り物、機械などで動くソフトウェアの問題を見つけ出し、それらが自己修復できるような仕組みです。人が常に安全に機械を使えるようにするのが私たちのミッションなのです。