2030年度に温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指す日本。脱炭素に向け、電力業界も大変革を迫られる中、注目を浴びているのがアイ・グリッド・ソリューションズ(本社:東京都千代田区)だ。同社は、商業施設や物流施設の屋上に太陽光発電設備を設置し、施設所有者に電力を供給するPPA(電力販売契約)事業をいち早く手がけ、国内シェアで競合をリード。また、AIやクラウド、IoTを活用した独自の余剰電力循環モデルを確立し、環境省が主催するグッドライフアワードの環境大臣賞最優秀賞をはじめとする数々の賞に輝いている。代表取締役社長の秋田 智一氏に、事業の展望やGXの未来図を聞いた。

震災を経て再生エネのニーズが高まる中、他社に先駆け太陽光PPA事業に着手

―アイ・グリッド・ソリューションズに入社した経緯をお聞かせください。

 大学卒業後、10年ほど広告会社に勤めたのですが、その会社が買収され、企業文化のようなものが失われていくのを感じていました。そんな時、当社現会長の本多聰介氏が立ち上げた会社に人づてに誘われ、以前から社会に貢献できるようなことができないかと思っていたのと、チャレンジ精神旺盛な本多さんが作った会社なら面白そうだということで2009年に環境経営戦略総研への転職を決めました。その会社が、今のアイ・グリッド・ソリューションズにつながっています。

―御社が現在のような業態になったターニングポイントはありましたか?

 東日本大震災が大きなターニングポイントになりましたね。エネルギー業界が震災を契機に大きく変わり始め、再生可能エネルギーの普及を促進する固定価格買取制度(FIT制度)の施行や電力の小売り自由化もどんどん進められていきました。当社は、それまで蓄積してきたエネルギーマネジメントの技術・ノウハウを活用して、電力を再生エネに転換し、かつ自立型の分散電源でレジデンスを高めるといったサービスが提供できるのではないかと考えたんです。

 当社は、2014年に電力供給サービスを開始し、2017年に子会社の「VPP Japan」を設立しました。われわれが商業施設や物流施設の屋上に太陽光発電設備を設置し、そこで発電した再生可能エネルギー由来の電力をその施設の電力使用者に購入してもらうPPA(第三者所有型電力販売契約モデル)事業をいち早くスタートしました。さらに2020年には、「アイ・グリッド・ラボ」を設立して、AIによる電力使用量や発電量の予測技術を独自開発し、余剰電力の循環を可能にするエネルギーマネジメントプラットフォーム「R.E.A.L. New Energy Platform」を構築・提供しています。

秋田 智一
アイ・グリッド・ソリューションズ
代表取締役社長
1976年、愛知県生まれ。広告会社を経て、2009年に環境経営戦略総研(現アイ・グリッド・ソリューションズ)に入社。新規事業開発責任者として太陽光発電事業および電力供給事業を推進し、エネルギーを軸とした法人・家庭向けソリューション構築に尽力。2017年にVPP Japanを、2020年にはアイ・グリッド・ラボを設立し、代表取締役を兼任。2021年、アイ・グリッド・ソリューションズ社長に就任。

独自のプラットフォームで余剰電力問題を解消し、屋上スペースをフル活用

―御社のプロダクトの特長や導入メリットを教えてください。

 当社のオンサイトPPAサービス「R.E.A.L. Solar Power」では、VPP Japanが商業施設や物流施設の屋上にソーラーパネルを設置し、そこで発電した電力をその施設に売電しています。自家発電するわけですから、送電費などはかからず、安価に電力を使用できる上、災害などで停電になった時にも非常用電源として使えるので、電力インフラのレジリエンス(強靱性)を強化できます。また、森林などを伐採してソーラーパネルを設置するのとは違い、われわれは施設の屋上を利用しますので、自然を破壊することもありません。

 オンサイトPPAには、天候などによって左右される発電量をどのようにコントロールするかという課題があります。太陽光発電は、夜間や悪天候時には発電できません。一方、一日中晴天で発電量が多いと、それを自家消費しきれず、余剰電力が発生してしまう場合もあります。そのため、施設の需要量に合わせる形で、本来の屋根ポテンシャルより小さなパネルを設置するのが一般的でした。

 しかし、当社は「R.E.A.L. New Energy Platform」を開発し、太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーをネットワーク化して、余剰電力を循環させる分散・集約型のプラットフォームを構築しました。これは、AIによって発電量・消費量を高精度に予測し、数百カ所に設置された発電設備の電力需給を統合的に管理するものです。ある施設で余剰電力が発生すれば、それを蓄電池やEVの充電に使うこともできますし、自施設だけでなく他の施設や家庭など需要があるところに電力を融通し、地域全体でエネルギーを循環させることもできます。このプラットフォームによって、屋根全体に太陽光パネルを設置することが可能になり、その発電ポテンシャルを最大限に活用できるようになりました。

―事業の収益モデルはどのようになっていますか?

 太陽光発電設備の設置費用などは当社がすべて負担し、例えば10年間の長期契約を交わして、そこで発電した電気を継続的に施設に買い取っていただきます。もちろん、お客様は従前から契約されている電力会社の電気も購入されていますので、その料金はかかりますが、当社の料金は電力会社に比べて割安ですので、トータルの電気代は抑えられます。なお、お客様の施設で発生した余剰電力は、蓄電池やEVの充電に利用していただく他、当社が電力会社から借りている送電網を介して、他のユーザーに送電されます。

―「R.E.A.L. Solar Power」を導入されたお客様の事例を紹介していただけますか?

 東海地方を拠点とする小売り大手のバローホールディングスには、2017年から当社のサービスをご利用いただいており、2021年には国内で初めてPPAの余剰循環モデルを導入いただきました。同社は、以前から自社所有の施設の屋上に自前の太陽光発電設備も設置されており、スーパーについては発電した電気を自家消費できていましたが、ホームセンターなどは消費電力量が少ないため、余剰電力が発生してしまいます。そして、その余剰電力が逆潮流を起こしてトラブルになるという事態も発生していました。

 FITで余剰電力を売るという方法もありますが、売電価格が下落していて投資を回収するのは困難でした。そのような状況の中、当社のサービスを導入いただいたことで、余剰電力問題が解消され、電力の需給バランスを心配することなく、屋根いっぱいに太陽光パネルを設置することができるようになったのです。その結果、消費電力の約7割を太陽光で賄えるようになった店舗もあり、光熱費のコストが圧倒的に下がったと、好評をいただいています。

image: アイ・グリッド・ソリューションズ

「原発5基分以上」の発電ポテンシャルを持つ市場

―昨今のPPAの事業環境はいかがですか?

 われわれがこの事業を始めた頃は、まだ「PPA」という言葉もなく、数年がかりでようやく10MW(メガワット)の契約が取れるといった状態でした。しかし、温室効果ガス削減に政府が本腰を入れ、再生可能エネルギーが注目を浴びるようになってから事業環境が一変しました。洋上風力発電などが普及するのはまだ先のことですので、今のところ再生エネのメインになるのは太陽光発電なのですが、日本は平地面積が少ないですし、森林を伐採して新たに発電設備を設置しようとすれば、自然を破壊することになります。

 また、過疎地域などに大型の発電設備を設置する際には、環境アセスメントが必要になる上に、電線も来ていないのでコストをかけて電線を引くところから始めなければなりません。100MWの大規模発電所を1カ所に作ろうとしたら、整地やインフラ整備を含めて3、4年はかかってしまいます。一方、われわれのビジネスモデルはそういう手間やコストもかからず、自然を破壊することもないので、国や自治体からも注目していただけるようになりました。

 企業としても、CO2(二酸化炭素)削減に取り組まなければなりませんし、ウクライナ情勢などによる燃料価格の高騰で電気料金も上がり、コスト負担が増えています。そのため、エネルギー情勢にかかわらず、安定的に低料金の再生可能エネルギー電力が得られるPPAへのニーズが急速に高まっています。当社への引き合いも一気に増え、今では設置施設が全国で600カ所以上あり、発電量は140MW以上。契約ベースでは300MWに達するまでになっています。

―PPAへのニーズが高まっている分、競合も増えているのではないかと思いますが。

 確かに新規参入する競合は増えていますが、当社は日本でPPAというジャンルを築いた「元祖」という自負がありますので、先行者としての優位性があります。加えて、余剰電力の循環システムは当社しか持っていないで、屋根面積いっぱいに太陽光発電設備を設置して、再生可能エネルギーをフルに活用できるというメリットをユーザーが享受できます。

―PPA市場の今後の可能性をどのようにご覧になっていますか?

 調査会社の試算によると、国内の商業施設や物流施設の屋上を使うだけでも、5.5GW(ギガワット)の発電容量ポテンシャルがあります。原発1基の発電量が1GWと言われていますので、原発5基分以上のポテンシャルを持っているということです。それに比べて、当社の発電規模は、契約ベースだけでもまだ300MW。まだまだ大きな可能性がありますね。

再エネを地産地消し活性化する街、「GXシティ」の実現を目指して

―御社の事業の今後のビジョンを聞かせてください。

 第1に、太陽光発電をもっと増やして、再生可能エネルギーをどんどん作れるようにしなければなりません。現在、契約ベースで300MW、1,200カ所ぐらいの発電設備が作れる見込みですが、まずはこれを500MW、2,000カ所に増やし、長期的には1GWにまでもっていきたいと思っています。日本が必要とする再生エネは、年間大体5GWと言われていますので、その20%程度を当社の太陽光発電で賄えるようにしたいですね。

 また、電気はただ作ればいいというわけではなく、EV充電システムや産業用蓄電池などのエネルギーストレージとも組み合わせて、電気を地域でうまく循環させ、バランスよく利用できるようにしなければなりません。その実現に向けて、当社はPPA事業の他に、「GXソリューション事業」も展開しており、エネルギーストレージの整備に注力していきたいと考えています。

image: アイ・グリッド・ソリューションズ

―御社は再生可能エネルギーの普及の鍵を握る事業を展開されているわけですが、今後どのような企業とコラボして、その事業を加速していくお考えですか?

 再生可能エネルギーを効率よく活用するためには、地域ごとに需給バランスが取れるよう、エネルギーの地産地消を実現しなければなりません。そして、それを担う主体はわれわれではなく、自治体や地元の企業の方々です。今、日本は30兆円近い巨費を使って海外から石炭や石油を輸入していますが、エネルギーの地産地消を進めていけば、海外に支払っているお金を地元に還元することができます。

 地元にあるスペースを活用して太陽光で作った安価な電気を使い、さらにそれを売電事業などにつなげていけば新たな財源が生まれ、過疎化で維持が難しくなる公共サービスなども充実させることができるでしょう。しかし、われわれには事業ノウハウはあっても、地域の方々との接点が豊富にあるわけではありません。その点、地銀や地域商社は、地元にある施設に詳しく、お客様との信頼関係も築かれていますので、そのような企業が主体となり、われわれとアライアンスを組んでPPA事業を推進していただくような形ができればと思っています。

 一方、エネルギーストレージの整備という点では、EVなどのモビリティとの連携がポイントになります。EVは自動車でもあり蓄電池でもあり、電気の需給バランスの調整に重要な役割を果たしてくれますので、これを上手く活用する仕組みを作れば、地域社会で再生可能エネルギーを効率的に使えるようになるはずです。ライドシェアもそうですし、バスなどを地元で作った安価な電気で走らせれば、地域の公共交通にかかるコストを抑えることができます。

 EVはシェアできる蓄電池とも言えますので、それを一つの軸にして、エネルギーコミュニティを構築するために、次世代の交通サービス開発を手掛けるMaaS系の企業などと提携ができればいいなと思っています。

―この記事をご覧になる皆さんに改めてメッセージをお願いします。

 われわれは、再生可能エネルギーを地産地消する街を「GXシティ」と名付けているのですが、それを実現するには、地元の企業やモビリティ系の企業の力が不可欠です。先述のバス以外にも、例えば電力消費量の多いデータセンターを地域に作り、その排熱を農家のビニールハウス栽培に使うとか、電力需給を上手くバランスさせながらエネルギーが循環するようなコミュニティ作りを目指しています。当社の構想に興味をお持ちの方がいましたら、ぜひお問い合わせください。