NHKの連続テレビ小説「おかえりモネ」(総合、月〜土曜午前8時ほか)は、清原果耶さん演じるヒロインが気象予報士を目指す物語。その気象考証を担当し、ご自身も気象キャスターとして活躍されている斉田季実治さんに、これから気象予報士を目指す方へのアドバイスと気象キャスターの仕事についてお伺いしました。

気象予報士になるために

「おかえりモネ」では、主人公の百音(清原果耶さん)が、気象キャスターの朝岡(西島秀俊さん)との出会いや山で突然の激しい雷雨に遭遇したことなどをきっかけに、気象予報士に興味を持っていきます。
様々な理由で気象予報士に興味を持った方、目指している方がいらっしゃると思いますが、そんな未来の気象予報士たちへ、合格率5%前後と言われている気象予報士試験に対するアドバイスをいただきました。
−斉田さんが気象予報士を目指したきっかけを教えてください。
もともと空を見上げるのが好きだったというのもありますが、学生時に水産学部で、海洋気象学を学んだこともきっかけのひとつです。ドラマの中で、百音の妹の未知(蒔田彩珠さん)は牡蠣の研究をしていましたが、それと似ていて、私はホタテの生育に影響する水温変動についての研究をしていました。実習で船に乗ることがあったのですが、船って逃げ場がないので、非常に天気が重要になるんですよね。それで、船を降りた後に気象予報士の資格を取ろうと決めました。
−斉田さんは気象予報士試験のために一日何時間くらい勉強をされていたのですか?
春に受験を決めてその年の8月に試験を受けて、その時は全科目(学科試験の一般知識・専門知識、実技試験)落ちました。その後、次の試験の1月までの間の5ヶ月間で全科目を勉強しました。大学の授業時間以外は全部勉強にあてていたので、一日10時間くらい勉強していたのではないかと思います。
最初の試験は落ちましたが、会場の雰囲気を知ることができたのは良かったですね。実技試験では受験生が一斉に問題用紙の資料部分をビリビリ破るのですが、そんなの会場に行かないとわからないですよね。予行練習を一回していたので、二回目の試験では集中して問題と向き合うことができました。
−ドラマの中で、百音は菅波医師(坂口健太郎さん)から絵本や漫画をオススメされていましたね。おすすめの勉強方法はありますか。
今は分かりやすい本が沢山あるので、そこから興味を持ってもらえたらいいなと思います。私はいわゆる資格マニアなのですが、資格試験マニアとしては気象予報士試験も資格試験なので相手を知ることが大事ですね。
まず過去問を見て、どのような問題が出るのか知った上で臨んだほうが良いかと思います。私は、過去5年分、試験10回分の過去問を当時は全部覚えましたね。この問題は、第何回の何問目に出てきたかというのが、全部頭に入っていました。
−未来の気象予報士たちへアドバイスをお願いします。
気象予報士試験は難しいと言われていますが、満点を取らないといけない試験ではありません。正答率は7割で良い。正直なところ、合格するためだったら勉強しない項目があっても受かります。気象予報士というスタートラインに立つためには、興味があるところから勉強して、取れるところで得点をとって、まず合格するところから始めたら良いと思います。
でも、資格を取った後も、気象予報士の仕事に就けばずっと勉強を続けないといけません。気象防災情報は毎年のように新しいものが追加されて、どんどん変わっていきます。気象予報士は、常に勉強しないといけない職業でもあるので、やっぱり楽しいとか興味を持ち続けられる人が向いていると思います。

画像提供:NHK
画像提供:NHK


気象予報士の仕事を学ぶ

気象予報士の資格取得自体は、スタートラインにすぎません。その後キャリアの積み方についてお聞きしました。
−斉田さんは日本気象協会の九州支社で気象予報士のキャリアをスタートされましたね。
NHK福岡放送局で気象キャスターをされている吉竹顕彰(よしたけあきら)さんと面接をして、その後も吉竹さんのもとで気象予報士の仕事をしました。
当時は、吉竹さんにいつもくっついて、学んでいましたね。私はもともと放送局に勤めていたので、給料的には随分下がってしまったのですが、吉竹さんに「ここで技術を学べば、どこに行っても通用するようになるから」と言われました。私は、学ばないと損だと思い、吉竹さんの技術を盗んだり学んだりしていました。
−九州の天気予報は難しかったですか?天気は西から変わるので、難しいと言われていますが。
私も福岡にいた頃はそう言っていましたね。でも関東に来てみると、関東は東から天気が変わるんですよね。多分、気象予報士はみんな自分たちの担当する地域が一番難しいと思って、誇りを持ってやっているんじゃないですかね。

気象キャスターとしてのやりがい・葛藤・挑戦

今や人気キャスターとして日々天気を解説している斉田さんですが、この仕事の役割や想いについてお聞きしました。
−気象キャスターとして、印象に残っている仕事はなんでしょうか。
東日本大震災ですね。地震の影響で、翌朝のキャスターも来られなかったので、当時は金曜日の夜から土曜日の昼まで気象キャスターとして対応をしていました。
いつもだったら「冷えるから暖かい服装で」といったコメントを伝えるのですが、震災直後で家に帰れない人もいたので、それが出来ない状況でした。何を伝えたら良いんだろう?と思いながらも、できるだけ今の状況を細かく伝えるということを心掛けました。災害後の放送では、被災地に手厚い天気予報を伝える場合があるのですが、被災地の天気予報ばかりを伝えるというわけにもいきません。天気予報は日常の中にあるものですから、早く日常の天気予報に戻したほうが良いんじゃないかなどの葛藤もありました。
「今、何を伝えたら良いんだろうか。」まだ私自身の中で明確な答えは出ていませんが、ずっとこの10年間、考えていることではあります。
−災害が起きたらどうする、は常に考えていらっしゃるんですね。
考えてはいるものの、想定どおりとは限らないですよね。状況が想像を越えてくることも多いです。
私はもともと報道記者をしていたのですが、その際に災害の現場に行くことが多く、当時から気象情報を活かして、「いのちを守る情報」に繋がる発信をしたいと思っていました。だた、実際に気象予報士として情報を発信する立場になっても、なかなか上手く情報が伝わらなかったり、情報を活かしきれなかったりという後悔は多々あります。予報が当たらないこともありますし。
それでも、いま自分が発信する情報が「いのちを守る情報」でもあることに、やりがいを持って仕事をしております。
テレビで情報を発信するだけではなく、TwitterなどSNSを活用して情報を発信することも試みています。たとえば、「本当に危ないから、私自身もこういった備えをしました」ということも発信しますね。今は様々な手段から情報を得るようになってきていますので、思いつくことは何でもやるようにしています。
−これからの気象予報士の役割は、どのようなものだとお考えでしょうか。
天気予報の精度も上がってきていますし、防災的な役割はもちろん、環境的な役割もありますよね。気象予報士の仕事がもっと増えれば良いと思っています。
今回、「おかえりモネ」で気象考証を担当しましたが、私自身、それまでは気象考証なんて仕事があるとは知りませんでした。気象予報士の仕事をもっと増やして、気象予報士がもっともっと身近に、一般化することができればと思います。

斉田季実治さんプロフィール

1975年、東京都生まれ。北海道大学在学中に気象予報士資格を取得。報道記者を経て、2006年からNHKの気象キャスターに。現在はNHKニュースウオッチ9に出演。著書に「新・いのちを守る気象情報」(NHK出版新書)など。

[取材・文/齊藤愛子(日本気象協会 気象予報士)]