日本車いすテニス界のホープ、小田凱人

5月31日、「全仏オープン」で車いすテニスの部がスタートする。シングルスのドロー数が拡大となった今大会、特に注目したい選手がいる。それが小田凱人(東海理化/世界ランク9位)である。4月28日、記者会見を開いて、車いすテニス選手国内最年少の15歳11ヵ月20日でプロ宣言をし、「テニスを始めた時から夢見てきたプロ車いすテニスプレイヤーに15歳という年齢でなれたことを心からうれしく思っています」と語った小田。No.1となることはもちろん、次世代の車いすテニス界を背負う存在として期待されている小田に、その思いを聞いた。




Q.プロ宣言おめでとうございます。今のお気持ちを教えてください。

「プロというのは、始まった時から目標として来ていたところでもあったので、それが現実となったというのは、素直にうれしいですし、これから本当の意味で、世界を目指す決意が決まったというか、発表したことで、さらに、テニスに対する情熱が上がると思います」

Q.「プロフェッショナル」という肩書き。ご本人としては、どんな意味と捉えていますか?

「自分の中でプロというのは、プレーだけではなくて、プレー以外の部分で一人の人間としてどの面で見ても、レベルの高い人を自分は『プロフェッショナル』だなと思っているので、そういう人間になることを目指してやっていきたいと思います」

Q.テニス界問わず、プロ選手としてリスペクトする存在はいますか?

「新庄剛志(現日本ハムファイターズBIG BOSS)さんです。現役の時からチェックしていて、派手なパフォーマンスもそうだしトークもできる。自分もただプレーして勝つだけでなく、そんな風に楽しませたいという思いもあるので、ちょっと似ているかなと感じる部分があります。そういう意味でかっこいいなと思う存在です」

Q.プロとなって環境面、練習など変化はありますか? 

「以前は週3、4回、2時間しかやってなかったですが、今は週5回3時間をやっています。本当にめちゃくちゃ多くなったなと思いますし、内容もそうですね。それまでは選手で集まって打ち合うという感じでしたが、今はコーチとマンツーマン。4月から練習量がグンと増えてケガや痛みも出るかなと思っていましたが、そんなこともなくスムーズにこなせていて、本当にベストな状況でテニスができています」


「競技用の車いすがものすごく
かっこよく見えたんです(笑)」

Q.意識の変化はもちろん、質の高い練習にもついていけているわけですね

「そうですね」

Q.記者会見では、10歳で車いすテニスをやった時に、「ビビッと」来たとおっしゃっていました。どんな部分にでしょうか?

「最初は、競技用の車いすがものすごくかっこよく見えたんです(笑) それまで見ていた車いすは病院の重たい車いすや街で見かけるものしか知らなかったので、初めて競技用のものを見てみて、本当に惹かれて『競技用の車いすに乗ってみたい』というのが最初。おもちゃ感覚というのか(笑) それが最初に思ったことですね」

Q.ビビッと来た! すごい巡り合わせですね。何度か取材させていただいて、小田選手の落ち着きには驚いています。どなたかロールモデルがいたりするのですか?

「海外に行っている中で、徐々にいろいろな対応力とか落ち着いて過ごせるようになったのはありますね。元々こういう感じだったんですけど、最近さらに変わってきていると思います。それこそ緊張もあまりしなくなった。大会に出場する中で今みたいな感じになりましたね。記者会見は緊張しましたが(笑)」

Q.小田選手の話題になると、国内外で“国枝慎吾(ユニクロ/同2位)選手”のこともセットで紹介されますね。どんな存在ですか?

「もちろん特別な存在ではあります」

Q.今年の全豪オープンでは、国枝選手が「本当に明るい日本の車いすテニスにとって明るい存在。いつでも、バトンタッチできるなと思うし、全部のショットが一級品だと思うので、ショットは相当いい。いつトップに来てもおかしくない状態にあります」とおっしゃっていました。元は憧れの存在が、今は倒すべき存在となりました。

「元々持っている“憧れ”といったものは変わらないですけど、同じ土俵で戦っていることを考えていると、『憧れている』とか『まだまだ遠い未来』と思っていたら勝つことはできない。そういう意味では、本当に今は一人の選手として、ライバルというか勝たなければいけない相手として見ている感じです」

Q.1月のメルボルン大会で対戦した際には6(1)-7、6(2)-7。SNSでは「やっぱり強かった」と綴っていましたね。

「正直勝てる自信があったというか、その前に、ゴードン(リード/イギリス・同4位)とか、トム(エフベリンク/オランダ・同8位)に勝っていて、調子も悪くなかったので、勝てるという自信はありました。調子も今までで一番良かったかなと思うくらいで。その絶好調で負けたというのは力の差があったということです。出しきれずに負けたならそうは思えていませんが、本当に全部を出し切って試合後フラフラになるくらいで負けたというのは、単純に力不足だと感じたので『やっぱり強かった』という言葉になりましたね。その時は少し凹みましたし、悔しいとも思いましたが、すぐに『次戦では勝ちたい』と切り替えました」


「理想は何でもできる選手。超オールラウンダーで
すべてが武器という選手です」

Q.世界No.1のアルフィー・ヒュウェット(イギリス)とも2回戦っていますね。小田選手は、彼が持っていたジュニア時代の最年少1位記録を塗り替えています。すでに2度対戦していますが、どんな印象でしたか?

「正直、1位にふさわしい選手というか、この前の対戦(3月のアメリカ・バトンルージュ大会)も3-6、3-6で負け。彼はそのまま優勝しましたが、一人群を抜いた存在だなと感じます。ただ、アルフィー(24歳)の存在は自分にとって大きくて、彼みたいに若くて強い選手がいるのは、僕にとってもモチベーションになる。これから何十回も戦うと思いますが、長い目で見ていい関係を築いていきたいなと思います」

Q.では、世界のトッププロはチェアワークが違うと感じたとおっしゃっていました。外で見ていても、この1、2年で車いすテニスはどんどん進化してきていて、特にパワー化が進んでいるように見えます。シニア大会に出るようになって、改めて感じたことはありますか?

「確かにパワーは感じます。でも、その分、自分も十分パワーをつけられているなと感じていて、パワーで負けることは、最近はありません。みんながレベルアップしているというのか、半年前と比べても車いすテニス全体のレベルが上がっている感じはわかりますね」

Q.小田選手の武器は「パワーショットとサーブ」。戦ううえで、テンポや強打など、どんなテニスが理想としていますか?

「理想は何でもできる選手。超オールラウンダーですべてが武器という選手です。後ろからでも勝負できるし、前に出ても打てる。ディフェンスもできるし、と何でもできる選手になっていきたいです。今まではサーブが一番の武器で、それ以外も悪くはなかったけど、サーブほどの武器ではなかった。そうなるとやっぱりサーブが不調だと勝てなくなってしまいます。だからこそ、すべてを高いレベルに、というのが目標です」

Q.貝吹健コーチ(一般社団法人トップアスリートグループ)曰く「イメージしたものをやる能力が高い」と小田選手を評しています。そういった長所は、役立っていると思いますか?

「そうですね。元々マネとかコピーするというのは、小さいころから得意でした。車いすテニスを始めたばかりは、教えてくれる人もそんなにいない状況なので、国枝選手を見て、見て真似をするという選択しかなかったですし。そうやってマネしていく中で、自分の打ち方を見出したという感じですね。マネしたというのは、自分のプレーにとって大きかった気がします」

Q.すると、選手の打ち方モノマネのレパートリーはいっぱいあるわけですね!?(笑) 

「選手だったら、けっこうできますね(笑)」

Q.話題を変えて、日本の選手だとどの方と親交がありますか?

「国枝選手も大会で本当に良くしていただいていますが、眞田(卓/凸版印刷)さんには、かなりお世話になっています。昨年末のトルコ大会では、途中2週間の空きがあったんですけど、そこでも毎日に一緒にいて面倒を見ていただいていました。昨年の東京パラリンピック前の合宿にも、眞田さんが最初に言っていただいて読んでいただきまいた。神戸オープンの前にも、岐阜まで練習にきてくれたり、本当に良くしてくださっています」

Q.プロとなり練習の時間も増えている状況で、オンオフも難しくなりますが、リラックスする時間はどうしていますか?

「家では常に音楽を聴いていますね。オールジャンル、どんな曲でも聴きます。昔の90年代の曲とか、今のJPOPとか、レゲエとかラップ、ヒップホップ、バラード、邦楽も洋楽もジャンル問わず。ずっとかけていて、それがリラックスする時間になっていますね」

Q.ついに全仏オープンでグランドスラム・デビューとなります。「シニアでの最年少世界No.1」というのが一つ目標とおっしゃっていますが、それまでにどんな目標を立てているでしょうか?

「まず全仏オープンというところは、本当に自分の中で大きくて、去年から『出たい』と考えていた大会でした。出場に関しては実現したので、クレーは苦手ではないので出るからには優勝を目指して、しっかり勝てるようにというところが直近の目標ですね。もちろん、ジュニアに続いてシニアでの最年少世界No.1を目指します」

Q.最後にファンの方へ、車いすテニスに興味を持っている方にメッセージをお願いします。

「期待してもらった分、応援してもらった分、恩返しができるという自信があります。楽しんでもらえるような熱いプレーだったり、を常に心がけていますので、ぜひ試合を見ていただければと思います。試合以外でもいろいろな自分にハマってもらえたらうれしいです」

Q.車いすテニス界の“BIG BOSS”になってください。

「頑張ります(笑)」

※取材日:2022年4月28日


■全仏オープン2022
日程/2022年5月22日(日)〜6月5日(日)
開催地/フランス・パリ:ローランギャロス
賞金総額/4,360万ユーロ(約59億円)
男女シングルス優勝賞金/220万ユーロ(約3億円)
サーフェス/クレーコート




Profile
小田凱人 TOKITO ODA
■生年月日:2006年5月8日(16歳)
■所属: 東海理化 ■世界ランク9位
■9歳で骨肉腫を発症。左足が不自由になったため、大好きだったサッカーをあきらめ、10歳から車いすテニスの世界へ。そのきっかけは、国枝慎吾(ユニクロ)選手の活躍を病床で見て、心動かされたから。競技生活を始めて4年後の2020年、18歳以下の世界No.1決定戦「世界Jr.マスターズ」に14歳で出場すると単複優勝。さらに2021年4月26日付のITF車いすテニスジュニアランキングで史上最年少となる14歳11ヵ月18日で1位となると、同年末にITFから車いすテニスジュニアの年間最優秀選手に選出。2022年4月28日、車いすテニス選手国内最年少の15歳11ヵ月20日でプロ宣言をしている。

著者:Tennis Classic 編集部