作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMの音楽番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00〜19:55)。4月24日(日)の放送は「村上RADIO公開収録 和田誠レコード・コレクションより@The Haruki Murakami Library」をお届けしました。

番組ではこれまで、ライブイベント「村上JAM」などをおこなってきましたが、ラジオ番組の公開収録は、今回が初の試みとなります。昨年10月に開館した早稲田大学国際文学館(通称・村上春樹ライブラリー)に作られたスタジオで、村上さん自身がレコードに針を落とし、音楽を語る貴重なイベント。

今回の公開収録のテーマは「和田誠レコード・コレクションより」。2019年に亡くなったイラストレーター和田誠さんは、村上さんと親交が深く、多くの村上作品の装丁やイラストを手がけました。

今回は、和田さんが遺した膨大なレコードのなかから村上さんが厳選し、早稲田大学に寄贈されるレコード・コレクションを、貴重なエピソードや解説とともに紹介しました。この記事では、その中から後半5曲についてお話された概要を紹介します。


画像提供:早稲田大学


◆Helen Merrill「中国地方子守歌」
ヘレン・メリル、ご存じのようにアメリカの実力派ジャズ歌手です。
猫山さん、ヘレン・メリルをご存じですか? にゃーお(猫山) ご存じだそうで(笑)。
彼女はご主人の仕事の関係で、1966年から72年にかけて日本に住んでいました。そしてそのあいだに日本のミュージシャンたちと組んで、数多くの録音を残しています。そういうレコードはだいたい廃盤になって、オリジナル盤は今、中古屋さんでけっこうな値段がついているみたいです。和田さんのコレクションを見せてもらったら、そのメリルの日本吹き込み盤がずらっと揃っていたんで、「さすが」と感心しました。
今日はその中から「ヘレン・メリル、フォークを歌う」というレコードを取り上げました。伴奏は山本邦山&オール・スターズ。山本邦山さんは初代の方ですが、尺八の演奏家ですね。メリルの歌声と尺八の音色、不思議に合うんです。日本語で歌う「中国地方子守歌」を聴いてください。

◆坂本九「セブンティーン」
これは坂本九さんが1972年に発表したプレスリーのヒット曲のカバー集なんだけど、面白いのは歌詞がすべて阿久悠さんの手になるもので、原曲とはまったく関係ない歌詞がついているということです。全体的にかなり攻撃的っていうか、姿勢がロックンロールしています。坂本九さんというと、どちらかというと優等生っぽい印象があるんですけど、このアルバムではかなり「不良方面」に走っています。そういう意味で、異色のアルバムといっていいと思います。CD化はされていないみたいで、けっこう珍しい盤かもしれないですね。これも和田さんのコレクションの中で見つけて、「おお、こんなものが」と驚きました。
今日は「冷たくしないで(Don't Be Cruel)」を作り替えた「セブンティーン」を聴いてください。

<収録中のつぶやき>
全然原曲と歌詞の内容が違うんですよね、なかなか楽しいですけど。

◆浜口庫之助「夜霧よ今夜も有難う」
次は、作曲家・浜口庫之助(はまぐち・くらのすけ)さんの「歌えば天国」というタイトルの自作自演アルバムです。これも「お宝」というか、かなり珍しいものです。オリジナルLPではまず見かけません。録音されたのは1966年頃です。
和田さんのコレクションには、浜口さんのレコードが何枚かあったので、個人的な親交があったのでしょうね。このレコードを聴くまで知らなかったんだけど、ハマクラさん、歌がうまいんですね。感心しました。
今日は「夜霧よ、今夜もありがとう」をボサノヴァ・アレンジで聴いてもらいます。この曲、うちの番組でも少し前にかけたんですけど、またかけます。というのは、このバックバンドが実に素晴らしいからです。リーダーがギターの沢田駿吾、世良譲のピアノ、日野元彦のドラム、そしてテナーを吹くのは日本のスタン・ゲッツ、西条孝之介です。

◆Frank Sinatra「Everything Happens To Me」
和田誠さんはフランク・シナトラがずいぶんお好きだったようで、「シナトラ協会(Sinatra Society of Japan)」にも入っておられました。レコードとかテープとかCDとか、シナトラ関連の品物もずいぶん揃っていました。貴重なエアチェックなんかもたくさんあったんですけど、なにしろ量が多過ぎてうちではとても引き取れなくて、惜しいけれどパスしました。そんなシナトラ好きの和田さんを偲んで、しっとりとしたシナトラの歌を最後に聴きましょう。
これはキャピトル・レコードのアルバム『Close to You』に収められているんですけど、バックを務めているのがハリウッド・ストリング・カルテットという、有名なクラシックの弦楽四重奏団です。このカルテットが中心になり、そこに管楽器が少しだけ絡みます。
マット・デニスの名曲「Everything Happens To Me」を聴いてください。トミー・ドーシー時代から、シナトラが大事に歌い続けている曲です。

◆Stan Getz「They Can't Take That Away From Me」
今日のクロージングの音楽は、スタン・ゲッツ・オクテットの演奏する「誰もぼくから奪えない(They Can't Take That Away From Me)」です。
僕は和田誠さんと、この『村上ソングズ』という本を出していました。僕が好きな音楽の歌詞を日本語に翻訳して、それにエッセイをつけ、和田さんが絵を添えるという本だったんですけど、最後に和田さんが和田さんの好きな曲に訳詞をつける、というおまけを付けました。そのときに和田さんが選んだ1曲が、この「誰もぼくから奪えない」でした。

それでは今日はここまでです。素晴らしい画家であり、素敵な人柄だった和田誠さんのご冥福を祈りたいと思います。和田さん、長い間どうもありがとう。

<番組概要>
番組名:村上RADIO 公開収録〜和田誠レコード・コレクションより@The Haruki Murakami Library〜
放送日時:4月24日(日)19:00〜19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/