作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMの音楽番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00〜19:55)。

1月10日(月・祝 13:00〜14:55 )は、特別番組として「村上RADIO 成人の日スペシャル〜スタン・ゲッツ 音楽を生きる〜」を放送しました。

天才的ジャズテナーサックス奏者スタン・ゲッツを愛聴し、評伝『スタン・ゲッツ 音楽を生きる』の翻訳も手掛けた村上さんが、2021年11月に早稲田大学国際文学館(通称:村上春樹ライブラリー)でおこなった朗読イベント「Authors Alive! 〜作家に会おう〜」の模様をオンエア。イベントでレコードをかけながら語ったスタン・ゲッツの波乱の人生と美しい音楽を2時間の特別番組でお送りしました。番組では、評伝の一部を朗読する貴重な音源も! 今回は2時間にわたる特別番組の内容を「6回」にわけて配信します(本記事は【#5】)。


――ここからは「村上RADIO成人の日スペシャル〜スタン・ゲッツ 音楽を生きる〜」後半です。2021年11月13日に「村上春樹ライブラリー」でおこなわれたレコード・コンサートの模様を引き続きお楽しみいただきます。
村上さんがこよなく愛するジャズ・ミュージシャン、スタン・ゲッツ。天賦の才能でトップミューシャンとなったゲッツは、ヨーロッパに渡り、再びアメリカに帰ってきました。プライベートでは結婚、離婚、再婚を経験。1960年代、ニューヨークでは「新しいジャズ」が芽吹いていました。

◆「Spring Can Really Hang You Up The Most」
スタン・ゲッツは一家を引き連れてアメリカに戻ってきて、バンドを組んでニューヨークのジャズクラブで演奏します。スタン・ゲッツが3年ぐらいヨーロッパに行っていて、どんな風になって帰ってきたかと。興味津々で、みんな聴きに来ます。仲間のミュージシャンがジャズクラブに押しかけるんです。そんななかで、彼は根性を入れて演奏します。

1961年11月26日のヴィレッジ・ゲイトの録音から「Spring Can Really Hang You Up The Most」。春は何かだらんとさせる……という意味の曲なのかな。これはよくわからないですけど。聴いてみてください。メンバーはスティーヴ・キューンというヨーロッパのピアニストですね。
ロイ・ヘインズがドラムス。このドラム、結構いいです。

こういうライブ盤を聴いてると何かお酒が飲みたくなってきますけど。きょうは、大学内なのでお酒が出なくて申し訳ありません。

◆「Summer Afternoon」

久しぶりに吸い込むニューヨークの空気と新しいジャズシーンの眺めはスタン・ゲッツに非常にいい刺激を与えます。それで彼は、これまでにやったことのない音楽をやらなくちゃというふうに決意を固めます。ジョン・コルトレーンに抜かれたんで負けてはいられないという感じで、やる気が出てきたんですね。それで新しいことをやろうと思って、彼はエディ・ソーターというベニーグッドマンの楽団にいて彼が気に入っていたアレンジャーに、「俺のためにLP1枚分のオリジナルの組曲を作ってくれ」と頼むんです。エディ・ソーターはすごく才能があるんだけど、あまり世に受け入れられなくて不遇な生活を送っていましたが、意気に感じて、「よし、ゲッツのためにすごく良いものを書いてやる」って、自分で譜面を書いてアレンジメントもして、素晴らしいアルバムを作ります。

それがこの「Focus」というアルバムなんですけど、これ、僕が高校生のときにお金を貯めて買いまして、聴きまくってました。本当に素晴らしいレコードです。
玄人受けはしたんですけど、あんまり営業的には成功しなかったんですね。でも本当に美しいアルバムで、高校生の僕は、これでもうスタン・ゲッツが好きになっちゃったんです。その中から「Summer Afternoon」を聴いてください。

(曲が終わって、会場に拍手が起きる)
このスタン・ゲッツのリリシズムというのは、スタン・ゲッツにしか出せないものなんですよね。
当時はもうジョン・コルトレーンの全盛時代です。ジョン・コルトレーンはマイルズのグループから分かれて、自分のバンドを組んで、マッコイ・タイナー、エルヴィン・ジョーンズ、ジミー・ギャリソンの例の凄いバンドを組んでモードジャズを追求して、それからどんどんフリーの方向に行って、最先端を行くわけですよね。
ゲッツも新しいことはやるんだけど、コードジャズからやっぱり離れられない。というか、むしろコードジャズの可能性を掘り下げていくという方向に行くんですよね。だから、60年代に全然違うタイプのジャズに2人は突っ走るわけです。

でも結果的に言うと、ジョン・コルトレーンはやっぱり行き詰まっていくんですよね。これ以上先に進めなくなっちゃうという状態に陥ります。それからあと、もっと違う形に発展したと思うんだけど、そこで亡くなっちゃって(1967年没)。ゲッツは、スタイルを変えないで自分のなかを深めていくという方向に行って、60年代に生き残ります。60年代を生き抜くっていうのは結構大変なことだったんですよね。

この「Focus」というレコードは玄人筋には評価されたけど、営業的にはあまり売れなかったと言いましたけど、その次にやった新しいことでスタン・ゲッツは世界で一番お金持ちのジャズ・ミュージシャンになります。それがボサノバです。

<BGM:スタン・ゲッツ「イパネマの娘」>

◆「Corcovado」

これは本当に圧倒的な成功を収めました。この「Getz/Gilberto」、言うまでもなくアントニオ・カルロス・ジョビンとジルベルト夫妻と一緒に組んでやったものですけど、特に「イパネマの娘」が大ヒットしました。もともとボサノバというのは、ギタリストのチャーリー・バードがブラジルで見つけてきて、スタン・ゲッツに「こういうのがあるんだ。一緒にやらないか?」と言って紹介したんですけど、それをなんかいいとこ取りしてスタン・ゲッツが全部持っていったみたいで、チャーリー・バードとの間でひと悶着あったんです。

でも、実際に聴いてみるとわかると思うんだけど、ゲッツのリリシズムと、それからブラジル音楽の雰囲気の親和性というのは他では得難いものです。チャーリー・バードもボサノバをやってますけど、やはりちょっと違うんですよね。

ボサノバというのはシンメトリカルじゃないリズム、アシンメトリカルなリズムなんです、右と左で違うというか……そこにスタン・ゲッツのサックスがふっと乗っていくこの間合いがね、本当に素晴らしいです。これは他の人では真似できない。いろんな人がボサノバを演奏してますけど、スタン・ゲッツのボサノバはまったく違うものです。というわけで、今日は「Corcovado」(コルコバド)を聴いてください。

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<番組概要>
番組名:村上RADIO 成人の日スペシャル 〜スタン・ゲッツ 音楽を生きる〜
放送日時:1月10日(月・祝)13:00〜14:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/