作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMの音楽番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00〜19:55)。12月26日(日)の放送は「村上RADIO〜素敵なエレベーター・ミュージック〜」と題して、「もしも村上春樹がビルのオーナーだったら、エレベーターの中でどんな音楽を流すのか?」というユニークな企画をお届けしました。

エレベーター内に流れる音楽はイージーリスニングが定番ですが、村上春樹さんがビルのオーナーだったら、エレベーターでどんな音楽を流すのか……? 村上さんの小説のなかに登場するエレベーターの情景で流れる楽曲をはじめ、どこか聞き覚えのある曲をオンエア。

この記事では後半4曲とクロージング曲についてお話された概要を紹介します。




◆Chet Atkins 「Chaplin In New Shoes」
◆Leroy Anderson「Forgotten Dreams」

2曲続けて聴いてください。
カントリー・ギターの王様、チェット・アトキンスが「チャップリンのニューシューズ」を弾きます。1971年リリースのアルバム『For the Good Times』に入っていました。チャップリンはいつも古いどた靴を履いていますが、彼が新しい靴を履いたら、こんな風に軽快に歩くのかな……という曲なんでしょうね。

それから、ルロイ・アンダーソンの作曲した「Forgotten Dreams」(忘れられた夢)、作曲家自身が指揮した演奏です。この「Forgotten Dreams」という曲は、アンダーソンの作品のなかでは比較的知られていない曲です。とても美しいメロディーなんですけどね。
   


エレベーターの話なんですが、高所恐怖症の僕がこれまで乗っていちばん怖かったエレベーターって、ウィーンのシュテファン大聖堂のエレベーターでしたね。シュテファン大聖堂、かのアマデウス・モーツァルトさんが結婚式を挙げたところです。

この大聖堂にはとても高い塔がありまして、そこに登ればウィーンの街が一望できるんです。階段もありますが、エレベーターで登れるので、奥さんに強要されてそれに乗ったんです。

まあ、エレベーターがあるのなら大丈夫だろうと思って。ところがエレベーターを降りたら、そこからもうすとーんと垂直の切り立った崖みたいになってまして、立っているスペースもすごく狭くて、足がすくみました。一歩も動けなくなっちゃうんです。

で、手すりにしっかりしがみついて、下りのエレベーターが来るのを待っていたんだけど、それがなかなか来ないんです。もう怖くて、ウィーンの風景を眺めるどころではなかったですね。もう30年以上前の話なので、今では事情が違っているかもしれませんが、高所恐怖症のみなさん、よく気をつけてくださいね。

それからバルセロナの、サグラダ・ファミリアのエレベーターも相当怖かったです。「高所恐怖症、閉所恐怖症、妊娠中の方、なんらかの健康に問題のある方はご利用いただけません」と注意書きにあったんですが、僕は愚かにも、それを読まなかったんです。

◆Lord Sitar「Daydream Believer」
ロード・シタールが演奏するモンキーズのヒットソング、「デイドリーム・ビリーバー」。文字通り終始、シタールで攻めます。


■にこまま(41歳 女性 大阪府)
「村上RADIO」を聴くようになって、ラジオを聴くという習慣がうちの日常になりました。以前は、朝、時間を知るためにテレビをつけていましたが、テレビだと「観る」に集中してしまい、手が止まって、子どもが支度するペースも遅くなり、イライラした毎朝でした。毎朝、ラジオに変えて「聴く」に集中するようになって、手が止まることなく、朝ごはんもゆったり食べれるようになり、豊かになりました。ラジオ、ありがとう。

* 

ラジオ、いいですよね。僕もよく食事の支度なんかしながら、ラジオを聴いています。テレビって、けっこう音がキャピキャピしてうるさいんですよね。いらいらすることが多いです。ラジオの放送のほうが、音が比較的よくコントロールされていると思います。

僕は話をするのが専門ではないし、語りの訓練を受けていないので、できるだけゆっくりわかりやすく、おだやかに話をすることだけを心がけています。リラックスして聴いていただけると、とても嬉しいです。

僕はアメリカに住んでいたとき、気に入ったDJの番組をMDでたくさんエアチェックしていました。家事をするとき、たとえばアイロンをかけるときなんか、そういうのを繰り返し聴きながらのんびりとやっております。そんなわけで、MD、うちではいまでも現役で元気に働いております。まあ、今どきエアチェックなんて死語になってると思いますが。

◆Toots Thielemans「Ne Me Quitte Pas」

ジャズ・ハーモニカといえば、トゥーツ・シールマンス。彼がシャンソンの名曲「いかないで(Ne Me Quitte Pas)」をしっとりと演奏します。


全国にMDを活用している人、結構いると思いますよ。便利だもん。でももうディスクが売ってないんだよね。うちにはまだいっぱいあって、新品が何パックも残っているんだけど……。あと僕MDウォークマンも2台持っている。使わないけどね(笑)。『アンダーグラウンド』という本の取材でインタビューをしているときは、まだカセットテープだったんだよね。小澤征爾さんとの対談のときはMDだったので、小澤さんと話したこともMDでたくさん残っています。

<クロージング曲>
James Galway & Henry Mancini「Two for the Road」

今日のクロージング音楽は、クラシックのフルート奏者、ジェームズ・ゴールウェイが、ヘンリー・マンシーニの指揮するオーケストラをバックに演奏する、映画「いつも2人で」(Two for the Road)のテーマです。1967年の映画、主演はオードリー・ヘップバーンとアルバート・フィニーでした。僕はガールフレンドと2人でこの映画を神戸の映画館で観ました。

「レストラン席に2人でいて、ひとことも言葉を交わさない。これは、どういう人たちだろう?」とアルバート・フィニーがオードリー・ヘップバーンに質問します。

「What kind of people just sit in a restaurant and don't say one word to each other?」
「Married People(夫婦もの)」とヘップバーンが答えます。

2人はまだ若くて貧しくて、愛し合っています。話題なんていくらでもあります。レストランでむっつり黙り込んだ中年夫婦の姿を目にして、2人はあきれておかしがります。でもやがて彼らは結婚し、もう若くはなくなり、レストランの席に着いてもろくに口をきかないような冷めた関係になっています。この会話は映画の中に三度繰り返されて出てきます。

最初にその映画を観たとき、2人の会話が妙に心に残りました。もちろんまだ10代だったから、それがどういう感じのことなのか、よく実感できませんでしたけどね。「ふーん、そんなものなのか」というくらいで。

「Married People」のみなさん、おたくはいかがでしょう? 僕は日頃から、できるだけ話題をストックしておくようにつとめています。夫婦間の沈黙があまり長くならないように。そういうのって、やばいです。あなたもがんばってくださいね。

「いつも2人で」はなかなか面白くて役に立つ映画なので、もし機会があったら観てください。最後のシーンの決めの科白も、「うーん」と唸(うな)らされます。

今回が今年最後の放送になります。今年はヤクルトスワローズも無事に優勝して、とてもめでたい1年でした。

みなさんよいお年をお迎えください。

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聴取期限:2022年1月3日(月)AM 4:59 まで

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<番組概要>
番組名:村上RADIO〜素敵なエレベーター・ミュージック〜
放送日時:12月26日(日)19:00〜19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/