「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「急ぐ」、「緊急」「急務」の「急」。今年のうちに済ませておきたい用事に急かされ急ぎ足。そんな年末にふと立ち止まり、ひもといてみたい漢字です。



「急」という字の上半分、「心」の上の部分は、「及ぶ」「普及する」の「及」という字がもとになっています。
この字は、人が後ろから右手(ヨ)を伸ばし、前にいる誰かを捕らえようとする形、まさに「及ぼう」とする形を描いたもの。
さらに、その下に「心」という字を添えることで、前の人に追いつこうと、はやる心を示したのです。
そこから「いそぐ・すみやか」という意味をもつようになりました。
また、切迫した気持ち、ゆとりのない状態を表し、そこに攻撃を与えられると状態や状況が急変する大事な場所を、「急所」というようになったのです。

この時期に気持ちが急かされるのは、何百年も前の人たちとて同じこと。
鎌倉時代末期の随筆文学、吉田兼好の『徒然草』第十九段、「折節の移り変はるこそ」にも、そんな年末の風物詩が描かれています。
「年の暮れ果てて、人ごとに急ぎ合へるころぞ、またなくあはれなる」
年も押し迫って、誰もがみな忙しく動きまわっている様子は、このうえなく感慨深いもの……、そんな思いで、世間を眺めている兼好。
移ろいゆく自然も、その中で生きる人間たちも、すべては無常ではかないもの。
それでも師走のこの時期は、煤を払い事を納め、門松をたてて正月を待つ。
あくせくと動きまわる庶民の姿を微笑ましく思いながら、世捨て人と言われた兼好は、こう、感じていたはずです。
たとえ何が起ころうとも、自然の巡りや人の営みは、絶えることなく続いてゆくだろう、と。

ではここで、もう一度「急」という字を感じてみてください。

師走も終わりに近づけば、普段走ることのない僧侶でさえも、お経をあちこちであげるために走りまわる……。
「シ」は「年(トシ)」の「シ」、その一年が終わる、「果てる・果つ」から「し・はつ」で「師走」という説など、「師走」の語源は、そのほかにも諸説あるようです。
「師走」だと意識するだけで、なぜか急ぎ足になってしまうのは、今、このひとときがはかない無常だと、わかっているから。
それでも今年という一年は、一度きり。
幸先のよい新年の始まりまでに、とはやる心の片隅で、今、目の前にある日常を、ゆっくりといとおしむ余裕も、お忘れなく。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。
その想いを受けとって、感じてみたら……、
ほら、今日一日が違って見えるはず。


*参考文献
『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)
『徒然草 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典』(吉田兼好/著 角川書店/編 谷口広樹/デザイン 角川ソフィア文庫)

12月30日(土)の放送では「年」に込められた物語を紹介します。お楽しみに。


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<番組概要>
番組名:感じて、漢字の世界
放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット
放送日時 :TOKYO FMは毎週土曜7:20〜7:30(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)
パーソナリティ:山根基世
番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/kanji/

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