作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMの特別番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00〜19:55)。8月29日(日)の放送は、「村上RADIO Music in MURAKAMI〜村上作品に出てくる音楽〜」と題して、全国から寄せられた「村上春樹さんの小説に出てくる音楽」のリクエスト企画特集をオンエア。貴重な執筆秘話も明かされるとともに、小説の一節を自ら朗読しました。この記事では、オープニングトークと、村上さんの小説『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』ついてお話された概要をお届けします。



こんばんは、村上春樹です。村上RADIO、今日は僕の書いた小説に出てきた音楽、という特集です。皆さんから本当に数多くのリクエストをいただきました。できるだけたくさんお応えしていきたいと思います。さて、どんなものがかかるでしょうね。お楽しみに。

皆さんからいただいたリクエストの曲名を見ていくと、「ああ、そうだな、こういう曲を出したな」というものもあれば、「ええ、こんなの出したっけ?」みたいなものもあります。僕は自分の書いた本って、よほど必要がなければ読み返しません。恥ずかしいから。だから、書いたことをどんどん忘れていきます。登場する人の名前とか、出てくる音楽とか、それから(ひどい話だけど)結末なんかもほとんど覚えてないですね。インタビューなんかで、昔の作品について「ここはどういうことですか?」と質問されて、「なんのことだか?」みたいなことはよくあります。というわけで、がんばってあやふやな記憶を辿りながら、曲をかけていきます。

The Beach Boys「California Girls」
まずは僕の最初の小説『風の歌を聴け』からいきます。この本を出したのは、1979年のことです。とにかく生まれて初めて書いた小説なんだけど、それが文芸誌「群像」の新人賞を取りまして、すぐ本になって、なぜかけっこう売れて、そのまま自分でもよくわからないうちに、するっと小説家になってしまいました。今から考えるとおそろしい話です。
当時、僕は千駄ヶ谷でジャズの店を経営していまして、将棋会館の近くだったんですが、ときどきお昼に将棋会館に行って、「王将弁当」というのを食べてました。ご飯が王将の駒の形をしているんです。そういう変なことをよく覚えています。最近は、藤井聡太くんのおかげで、テレビのニュースなんかによく将棋会館が登場しますが、けっこう懐かしいです。

まあ、そういうのはどうでもよくて、この『風の歌を聴け』のなかにビーチ・ボーイズの「カリフォルニア・ガールズ」が出てきます。これはよく覚えています。リクエストをくれたのは、「『村上』の私にラジオネームを」という女性です。村上さんなんですね。

「大学生だった私はこの本を読んだ直後、千駄ヶ谷の『ピーターキャット』にバイトの面接へ伺いました。ハルキさんはカウンターに座っていて、『担当の人が来るまでここで待っていて下さい』と言われました。採用にはなったのですが、ハルキさんはお店を別の方に譲渡したので、しばらくバイトをして辞めてしまいました。リクエストは『カリフォルニア・ガールズ』」

もう40年も前の話ですね。そうか、採用されたんだ。当時うちでバイトしていた人、なかなか素敵な女性が多かったです。

Stan Getz Quintet「Jumpin' With Symphony Sid」
それから、やはり店を経営しながら2作目を書きました。『1973年のピンボール』。このタイトルは大江健三郎さんの『万延元年のフットボール』のもじりですね。ちょっと拝借しました。この本のなかに、スタン・ゲッツ・カルテットが演奏する「ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド」という曲が出てきます。この曲に意外と、たくさんリクエストをいただきました。オリジナルLPでかけます。

ティモシーフロムナウさん(沖縄県 30代 看護師 男性)
リクエスト曲はスタン・ゲッツ「ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド」です。『1973年のピンボール』で主人公は女の子とゴルフ場を歩きながらソロを口笛で完璧に吹きます。爽やかに。結婚のために沖縄から大阪に出てきたけれどすぐに恋人に捨てられ、寂しい都会生活が始まった頃に読みました。図書館に返却した帰りに立ち寄ったディスクユニオンで試聴して「口笛で吹けたらなぁ」と猛烈に村上さんに伝えたくなった思い出の曲です。

そうか、いろんな思い出があるんですね。でもね、ゴルフ場を歩きながら口笛で吹くのは、実は「ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド」ではありません。別の曲です。たぶん、これ、あなたの思い違いです。

カセットテープで古いスタン・ゲッツを聴きながら、昼まで働いた。スタン・ゲッツ、ジミー・レイニー、アル・ヘイグ、テディ・コティック、タイニー・カーン、最高のバンドだ。「ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド」のゲッツのソロを、テープに合わせて全部口笛で吹いてしまうと、気分はずっと良くなった。(『1973年のピンボール』より)

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聴取期限:2021年9月6日(月)AM 4:59 まで
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<番組概要>
番組名:村上RADIO Music in MURAKAMI〜村上作品に出てくる音楽〜
放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット
放送日時:8月29日(日)19:00〜19:55(※放送日時が異なる局があります)
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/