1週間のニュースをまとめてお伝えしているTOKYO FMのラジオ番組「TOKYO NEWS RADIO〜LIFE〜」(毎週土曜 6:00〜6:55)。9月16日(土)放送の特別番組「胚培養士〜エンブリオロジスト」では、知られざる“胚培養士の世界”に迫りました。


「浅田レディース品川クリニック」スタッフの方々と


◆11人に1人が体外受精で生を授かる時代

2021年の調査では、1年で約6万9,800人が体外受精で生まれており、生まれてきた子どもの約11人に1人が体外受精で生まれている計算になります。

この体外受精をはじめとした不妊治療には、医師と並んで重要な役割を果たす胚培養士(はいばいようし/エンブリオロジスト)の存在が欠かせません。胚培養士とは、不妊治療における人工授精や体外受精のための卵子と精子、そして受精卵を取り扱うスペシャリストのことで、不妊治療をするカップルから預かった卵子と精子を受精させ、女性の体内に移植する直前まで、さまざまなサポートをおこないます。

不妊治療は、2022年4月から保険の適用対象となりました。そこで番組では、知られざる胚培養士の仕事現場を取材。胚培養士の技術と知識、仕事への想いを現役の胚培養士から伺いました。


「浅田レディース品川クリニック」培養室の様子


◆卵子と精子に夫婦の“願い”が詰まっている

東京都品川区にある不妊治療専門のクリニック「浅田レディース品川クリニック」の培養室では、培養に使う機材・機械・パソコン以外は何もない、清潔な空間が保たれています。また、培養室では卵胞液や培養液の温度が37度で一定になるよう、器具の温度調整も管理されています。

というのも、卵子と受精卵は本来、女性の体内にあるもの。そのため、短時間でも外に出す以上、できる限り温度変化などでストレスをかけないために設備の温度が保たれています。

胚培養士が培養室でおこなう業務は多岐に渡ります。そのなかでも、この仕事を象徴するのが、顕微鏡を覗き、スポイト状の針を使って卵子に精子を直接注入する“顕微授精”です。胚培養士は、たくさんの精子のなかから“運動性”と“精子の形態”を見て正常性の高いものを選別。その精子をスポイト状の針で吸い込み、卵子に慎重に刺して精子を注入します。

ちなみに、卵子の直径は約100マイクロメートル。髪の毛の太さが50マイクロメートルと言われているため、顕微授精では針の操作に極めて繊細かつ慎重な作業が求められます。

不妊治療において、1人の女性から卵子を採取できるのは月に一度だけ。一度の採卵で平均5〜10個の卵子がとれるといわれていますが、もっと少ないケースもあります。また、女性にとって採卵は肉体的にも精神的にも負担が大きく、長くかかる人では数年もの期間を不妊治療に費やしている場合もあります。

胚培養士歴20年以上でクリニックの副院長でもある福永憲隆さんは、作業中は常に“怖さ”と向き合っていると語ります。「患者さんの気持ちがこの卵子1個に詰まっているので、ミスは絶対にできません。“怖さ”を知っているからこそ慎重になるし、目の前にある卵子に対して“ミスなく確実にできるように……”と思いながら作業しています」

ただ、顕微授精がうまくいったとしても、卵子と精子そのものに力がないと受精には至りません。胚培養士は受精卵を培養器(インキュベーター)という機械で培養し、経過を見守ります。

ライフ80 #胚培養士 の放送前に
「胚培養士の仕事」を動画で確認。(その3)
卵子に精子を針で注入する作業の様子です。#TOKYOFM #エンブリオロジスト #手島千尋
番組は 9月16日(土)朝6時から
▼#radiko はこちらから!https://t.co/lko6y93S1Q pic.twitter.com/jMhD3InMF7

— TOKYO NEWS RADIO LIFE (@TOKYONEWSRADIO) September 15, 2023

◆胚培養士を国家資格に

卵子や受精卵を凍結する作業、保存、融解作業など胚培養士の仕事は多岐にわたり、不妊治療の保険適用によって胚培養士のニーズはさらに高まっています。一方で、福永さんは「胚培養士にはクリアすべき課題がある」と指摘します。

というのも、胚培養士が実践的な教育を受けられる機関がほとんどなく、就職したクリニック内でしか学ぶ機会を得ることができません。そのため、クリニックで適した教育ができない場合、患者に影響が出ていくことが予想されます。

かつて日本は、医者が顕微授精や受精卵の培養を受け持っていましたが、不妊治療のニーズとともに「専門の技術を持つ人が必要だ」という声が高まり、日本卵子学会、日本臨床エンブリオロジスト学会が独自の資格制度を整備し、現在に至ります。

つまり、胚培養士ではない医療スタッフが受精卵などを扱っても法律的には問題はないのですが、2022年から不妊治療が保険適用となり、公的な医療保険の対象になった今、国のお墨付き・後ろ盾として、胚培養士を国家資格にすることが社会の信頼・安心につながるのではないかと議論されています。

手島は、今回の取材を通して“ものを言わない細胞”と対話しながら、真摯に向き合っている姿が印象的だったと言い、「福永さんは『あくまで私たちは、(受精する)その前までをお手伝いするお仕事なので、最後は卵の力にお任せするしかないんです』とおっしゃっていました。しかし、昔はこんな技術自体がなく、子どもが自然にできなかったら、諦めなければならなかったんですよね。そう考えると“子どもを授かりたい”と思っているカップルにとって、胚培養士は命を手繰り寄せるコウノトリのような存在ではないかと感じました」と振り返りました。

不妊治療件数が世界でもっとも多く、もっとも妊娠率が低い日本で奮闘する胚培養士。名前のない細胞に名前が付く日を目指して、日々“100分の1ミリの世界”と向き合っています。

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9月16日放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 2023年9月24日(日) AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。
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<番組概要>
番組名:TOKYO NEWS RADIO〜LIFE〜特別番組「胚培養士〜エンブリオロジスト」
放送エリア:TOKYO FM
放送日時:毎週土曜6:00〜6:55
パーソナリティ:村田 睦、手島千尋
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/newsradio/