ゴールデンステイト・ウォリアーズのアシスタントコーチ、ロン・アダムズにとって、今季は優勝争いの当事者ではない立場で過ごす久々のシーズンとなった。特に2014年に入閣してから昨季までの5年間は、ファイナルまで戦うことが常だっただけに、肩透かしを食らったような感覚だろう。

「今シーズンは本当に試行錯誤の繰り返しだった。正直に言えば、ステフ(カリー)、クレイ(トンプソン)がケガで、そして(ケビン)デュラントが移籍してしまい、チームの中心がほぼ全員いなくなった状況では、昨シーズンまでとは100%別のチームとして試合に臨むことを突きつけられた感じだ。私も(マイケル・ジョーダンのドキュメンタリー)『ザ・ラストダンス』を見たが、あの頃のジョーダン、ピッペン、ロッドマンの3人がいないブルズはもう同じブルズではないのと同じことだ」とアダムズは言う。
  若手の育成も視野に入れ、様々な選手を起用して今季を戦ったウォリアーズだったが、NBAは若手を育てながら多くの勝利を手にできるほど甘い世界ではない。全ての試合が勝つか負けるかの真剣勝負だ。チームの有望株で、2〜3年後にはオールスター級になり得る選手に優先的にチャンスを与えるのはある話だが、どのチームも1勝でも多く勝つためにやっているのだから、基本的には「NBA=若手育成の場」という図式は成り立たない。

「主力が離脱するとなると一筋縄ではいかない。いろいろな条件と制限の中でシーズンを乗り切らなきゃいけないが、今シーズンのウォリアーズは皆から諦めたとか、ドラフト1位指名権狙いだとか言われるのも受け止めるしかない」とアダムズ。「しかし、チームのファンからは、“5年間もトップに君臨していたのだから1年ぐらいはこんなシーズンがあっても仕方のないこと”と言ってもらえるのはありがたい話だ。なぜなら、チームとしては上位で戦えないことは本当に、本当に不本意なのだから」とも言う。
  ルーキーシーズンに1年だけウォリアーズに在籍したOBのクリス・ウェバーは、「ここからがスティーブ(カーHC)の腕の見せ所だ」と語る。「ウォリアーズの今シーズンはコロナの影響を受けて終了したが、すでに来シーズンへ向けての準備が始められている。選手人事のところから、来シーズンもプレーする選手へのインプットまでいろいろな部分で進められている」と長期の準備期間を前向きに捉えている。

 チームの主力であるカリー、トンプソン、ドレイモンド・グリーンにとっても長期による準備期間はプラスに働くはずだ。彼らは2015年から昨季まで、プレーオフを含めて年間約100試合を戦ってきた。だがカリーは32歳、トンプソンとグリーンは今年30歳を迎え、少しずつ世代交代の時期も近づいている。それでも今季とこの夏を“休暇”に充てたことで、精神的にも肉体的にもリフレッシュされ、万全のコンディションで来季の開幕を迎えることができるだろう。
  また、現在アトランタに住んでいるウェバーはホークスとの交流もあり、7月末から再開されたシーディングゲームに参加できなかったホークスのようなチームを、「大きなチャンスだ」と言う。

「スケジュールに余裕が生まれたこのオフ期間を有意義に過ごせたチームは、来シーズンにジャンプアップする可能性がある。なかでも特に何とかしたいと思って精力的に活動しているのが、ホークスのヘッドコーチのロイド・ピアースと司令塔のトレイ・ヤングだろう」

 多くの若いタレントを有するホークスは、今季開幕前には躍進も期待されていたが、終わってみれば前年を下回るカンファレンス14位に低迷。ヤングは2年目にしてオールスターに選ばれるなど飛躍を遂げたものの、ウォリアーズと同じく育成と勝利を両立することはできなかった。

 そのヤングは、自身のモチベーションのひとつにホークスに入団した経緯を挙げている。2018年のドラフトで、自身を5位指名したダラス・マーベリックスが、ホークスが3位指名したルカ・ドンチッチとトレードしたことについてだ。
 「トレードがあったことが問題とかではない。純粋にドンチッチとはドラフトの時になにかの縁があったんだろう。彼の活躍は言うまでもなく素晴らしいもので、自分はそれ以上の試合ができるようになると信じてプレーしている。彼のチームと少なからずライバルとして戦えるところまで早く行かねばという思いは大きい」とヤングは言う。

 ホークスで注目すべきは、ピアースHCだろう。NBAの若手コーチの中でもここ数年で評価を高めている存在だ。2007年からクリーブランド・キャバリアーズのアシスタントコーチに就くと、フィラデルフィア・76ersなど複数のチームでのコーチ経験を経て18年にホークスのヘッドコーチに就任。44歳ながらアメリカ代表のアシスタントコーチも務め、指揮官のグレッグ・ポポビッチにも太鼓判を押されている。
  ホークスの共同オーナーであるグラント・ヒルは「コーチは当然、チームを勝利に導く術を持っていることが重要。ただ、ピアースはコートでの振る舞い以前に人格者だ。ホークスに限らず、これからのスポーツ界は誰からも慕われるような人格こそ、リーダーとなる人が持たねばならない資質だ」とピアースを評価している。

 4か月以上の中断を経て上位22チームで再開されたNBAだが、成績によって参加を見送られた残り8チームも、この状況の中で活動が止まっているわけではない。

「バブルに参加していないチームの方が、コロナ対策を独自で行なう分チーム活動は苦労が多いかもしれない。しかし、この今までなかった経験を来シーズンにどうつなげるかを模索しながら、常にレベルアップを図ろうとしている」とヒルは語っている。

 少し早い話かもしれないが、今季を一足早く終えたウォリアーズやホークスが、どのように進化して来シーズンを迎えるのか大いに注目したいところだ。

文●北舘洋一郎