「逆転の明石商」の空気が漂い始めたのは、やはりプロも注目する2人が登場してからだった。

 8月7日の夏季兵庫県大会5回戦、独自大会としては最後の試合となるこの戦い。明石商は神戸一との一戦(明石トーカロ球場)で1対2とリードされて迎えた7回、2死満塁となってからセンターへ痛いタイムリーヒットを浴びる。三塁走者に続いて二塁走者もホームへと突入するが、打球を処理した来田涼斗(3年)のバックホームで本塁アウト。代打から出場したキャプテンが守備で盛り立て、ピンチを最少失点でしのいだ。

 打線は土壇場の9回に2点を奪って試合を振り出しに戻す。タイブレーク方式の延長戦に突入すると、10回から救援のマウンドに上がった中森俊介(3年)が昨夏の甲子園以来となる150キロを計測する投球で無失点に抑えた。直後の11回に1点をもぎ取り、この試合で初めての勝ち越しに成功した。
  明石商は昨夏の兵庫県大会決勝で9回に逆転し、最後は中森が締めて完投で優勝を決めた。甲子園でも3勝のうち2勝が逆転勝ち。その流れを、この試合でも呼び込んだように見えた。だが、中森が押し出しの四球で同点にされると、次の打者には内野安打を打たれて4対5のサヨナラ負け。1年前の再現とはならずに、明石商は最後の試合で涙を呑んだ。

 全国の高校でも、明石商は新型コロナウイルスの影響でモチベーション維持に苦労したチームの一つだろう。今年1月にセンバツ出場を決めていたが、昨年の春から続く甲子園出場が立ち消え、夏の甲子園と出場校を決める地方大会も中止。その後、各都道府県の高野連はそれぞれの独自大会開催を発表し、兵庫県はベスト8までのトーナメント形式の大会を決行した。

 今大会に臨む前に、明石商はチーム全体で2つの目標を共有して士気を高めた。まずは、毎試合ごとにベンチ入りメンバー変更が認められる特別ルールが可能にした「3年生39人全員の出場」だ。狭間善徳監督は「勝たないと全員が出られないというプレッシャーはある」と語ったが、選手同士に「俺も出たから頑張れよという雰囲気」を生み出しながら、大会最後の試合で目標を達成できた。
  1年時から聖地を踏む投打の中心2人も、苦楽をともにした仲間の喜ぶ姿は、甲子園出場とは別のモチベーションであると口にしている。

「悔しい気持ちが残っていたが代替大会が開催されることになり、普段メンバーに入れない選手もベンチに入れて、活躍しているのがとてもうれしい」(来田)。

「今大会は1試合でも多く勝って、3年生全員が試合に出られるように無失点で抑えるというのをテーマにマウンドに立っています」(中森)

 普段は試合に出ないメンバーが結果を残してベンチが弾ける姿は、主力選手が活躍したときのリアクションよりも大きかった。

 もう一つの目標に掲げた「(8月10日から始まる)センバツ代替大会まで全勝」はかなわなくなったが、明石商にはもう1試合、甲子園での一戦(8月16日、対桐生一高戦)が残されている。

 当日までの課題を問われた狭間監督は「やり尽くしたから、最後は気持ちを持って戦うというところだけ。いい舞台でできるわけやから、全力を尽くしたい」と話した。
  中森は「自分の失敗が失点につながった。完全に実力不足です」とタイブレークの難しさを言い訳にせず、「この悔しさを交流試合にぶつけたい」と前を向いた。キャプテンの来田も「目指してきた甲子園でできることに変わりはないので、そこが決勝だと思って。チーム全員が一つになって悔いの残らないように」切り替えようとしている。

 泣いても笑ってもラスト1試合。昨年、春夏ベスト4入りを果たした明石商が、今度は有終の美を飾りに“4季”連続の甲子園へ乗り込む。

文●藤原彬

著者プロフィール
ふじわら・あきら/1984年生まれ。『SLUGGER』編集部に2014年から3年在籍し、現在はユーティリティとして編集・執筆・校正に携わる。ツイッターIDは@Struggler_AKIRA。

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