8月31日のトレード・デッドラインが過ぎた。短縮シーズンということもあり、どう動くのか判断に迷った球団もあったようだが、それでも予想以上に多くのトレードが行われた。

 今シーズンの戦力強化という観点なら、最大の勝者はパドレスだろう。29日〜31日の3日間に6件ものトレードを成立させ、先発投手陣、ブルペン、打線に加え、捕手の陣容までも向上させた。インディアンスから獲得したマイク・クレビンジャーは、8月上旬に新型コロナウイルス感染防止のプロトコル違反が発覚して物議をかもしたが、昨季まで3年連続2ケタ勝利とエース級の実力の持ち主。新加入のリリーフ4投手のうち、トレバー・ローゼンタールとテイラー・ウィリアムズは、それぞれロイヤルズとマリナーズでクローザーを務め、2人ともこれまでにセーブ失敗なしと安定している。

 固定できていなかったDHには、レッドソックスの22試合で打率.310、8本塁打を残した長距離砲ミッチ・モアランドを獲得。また、弱点となっていた捕手には、好守が売りのジェイソン・カストロと、強打の捕手として開花したオースティン・ノラを獲得した。

 彼らを得るためにパドレスが手放した16人の中に、際立ったプロスペクトがいない点も見逃せない。チームの将来を犠牲にすることなく、今シーズンの補強に成功したのだ。ノラも絡んだトレードでマリナーズに譲った外野手のテイラー・トランメルは、昨夏に3選手と交換にレッズから獲得したプロスペクトだが、やや伸び悩み気味で評価は下がっている。
  パドレスに次ぐ勝者には、ブルージェイズを挙げたい。こちらは故障者が相次いでいる先発投手陣に重点を置き、マリナーズからタイワン・ウォーカー、ダイヤモンドバックスからロビー・レイ、ドジャースからロス・ストリップリングをそれぞれ手に入れた。特にストリップリングはリリーフもできるので、使い勝手が良い。

 一方、いくつかのメディアは、今回のトレード市場の敗者にヤンキースを挙げている。8月上旬までは地区首位に立っていたヤンキースだが、故障者が続出して8月18〜27日に7連敗を喫し、現在ではその座をレイズに譲った。にもかかわらず、補強は皆無に近かった。2件のトレードをまとめ、リリーフ投手と捕手を獲得したが、ヤンキースはどちらも40人ロースターに入れていない。

 先発投手陣にウォーカーやランス・リン(レンジャーズ)を加えるのではないかと噂され、外野手のスターリング・マーテイ(ダイヤモンドバックスからマーリンズへトレード移籍)やリリーフ投手のジョシュ・ヘイダー(ブルワーズ)に興味を抱いているとの報道も出たが、どれも実現には至らなかった。リンに関しては、レンジャーズが22歳の有望株、デイビー・ガルシア投手を要求したためまとまらなかったらしい。

 もっとも、ガルシアは8月30日のダブルヘッダー2試合目にメジャーデビューし、6イニングで6三振を奪い、四球を与えることなく無失点に封じた。ダブルヘッダーの際にロースター枠が1人増える“29人目の選手”としての昇格だったため、翌日に降格したが、“新戦力”となっていく可能性を感じさせた。実績ある先発投手は得られなかったが、ガルシアを手放さなかったヤンキースは、必ずしも敗者とは言い切れないのではないか。

文●宇根夏樹

【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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