現在、プロとして活躍しているテニス選手も、現役を引退してコーチをしている人も、小さい頃には憧れのプロがいたはずだ。【プロが憧れたプロ】シリーズの第9回は、本村浩二さんに話を聞いた。兄弟で同じスポーツに取り組んでいる人は特に、共感できるだろう。

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 現在コーチとして活躍している本村浩二さんにとって、最も意識せざるを得なかったプロは、5歳年上の実兄、本村剛一だと言う。「自分が優勝しても、どんなにいい成績を出しても、兄貴はクリアしているものなので、常に剛一の弟でした」。複雑な心境を抱えながらも、自分が目指す大会ですでに結果を出している兄は、憧れでもあり、越えたい壁でもあり……。「夢と現実がすごく入り混じった」身近な存在だった。

 本村剛一は世界ランキング最高134位で、全日本選手権は4度優勝。長い期間日本男子テニス界をリードした選手である。「兄貴は全部できて当然だと思っていました。自分ができない領域、感覚なんだろう」と、現役時代は思っていたという。

 その影を振り払えたのは、27歳で引退し、兄のツアーコーチを2年間務めた時。「兄を冷静に見たんです。兄は超不器用で1個のことしかできない。僕は器用なので、頭でイメージして2、3個できるんです。同じ兄弟でもこれだけ違うんだって……」
  テニスにおいて完璧だと思っていた兄が、視点を変えれば自分よりもできないことがあるとわかった。がむしゃらに勝利にこだわれる剛一と、豊富なショットで試合を組み立てられる浩二。どちらにも違った才能があった中で結果に違いが出たのは、努力の差だったと納得させられた。

 その後1年ほど現役に復帰すると、今まで勝てなかった選手にどんどん勝ち、出場した大会はほぼ優勝。ノーランキングから一気に日本50位程度まで駆け上がった。兄の剛一よりも 「フォアの破壊力があり、センスもある」と言われることが多かった弟の浩二が、やっと自身の才能に気付いて伸び伸びとプレーできた1年だった。

 最後に身内の存在にプレッシャーを感じている人にアドバイスをお願いすると、「違いがあるということに気付けると(レベルアップへの)アプローチの仕方が変わってくると思います。同じアプローチで考えるとプレッシャーだけ。1つの角度から見ていると突破できません」。自分の良さに気付けるかが、劣等感を拭い去れるカギである。

取材・文●赤松恵珠子(スマッシュ編集部)

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