シカゴ・カブスのダルビッシュ有は現地時間25日、敵地で行われたシカゴ・ホワイトソックス戦に先発。シーズン最終登板となるこの試合を、7回94球を投げて無失点、3安打1四球5奪三振と好投して8勝目を手にした。

 過去3登板はピリッとせずサイ・ヤング賞争いから後退した感もあったが、最終戦の素晴らしいピッチングにより再び賞レース先頭争いに参戦。最多勝はほぼ確定的な状況であり、防御率2.01もリーグ2位、93奪三振も3位と、主要3部門でトップクラスの成績に入っている。そしてサイ・ヤング賞のライバルとなるのが、奪三振数で1位と2位に入っているトレバー・バウアー(シンシナティ・レッズ)とジェイコブ・デグロム(ニューヨーク・メッツ)の2人である。

“分かりやすさ”からなのか、日本の多くの媒体では主要3部門のみで賞レースを占う記事が散見されるが、メジャーのアウォードはそう簡単に決まるものではない。投票権を持つ識者は、さまざまなデータを比較しながら自身の中でふさわしい選手を選定していく。なぜなら、彼らはいかなる考えの下で投票したのか説明責任があるからだ。
  例えば、勝利数は打線の援護などに大きく左右される数字であり、白星の数はイコール投手の実力を証明するわけではないのは周知の事実だ。他のスタッツが優秀でなければ、評価の対象としては低くせざるを得ない。過去2年連続でサイ・ヤング賞を受賞しているデグロムがいい例だろう。

 彼は18年に10勝9敗、昨年は11勝8敗という成績ながら最高の栄誉に輝いた。勝敗数は平凡であっても、防御率や投球回、奪三振率やその他スタッツで圧倒的な数字を残していたからであり、“見かけ”の数字を超えた部分を識者が評価したからこその、受賞となったわけである。

 では、今年のナ・リーグのサイ・ヤング賞レースはどうか。現時点でのダルビッシュ、バウアー、デグロムの3投手の成績を比較したものが【表】である。QSは6イニング以上を投げて自責点3以下の試合、WHIPは1イニングに許した走者の数、FIPは奪三振・与四球・被本塁打を基に算出される疑似防御率、WARは勝利貢献度を差し、『FanGraphs』と『Baseball-Reference』が算出しているものを明記している。

 整理すると、ダルビッシュは勝利(8勝)、QS(10)、fWAR(3.0)でリーグ1位。バウアーは防御率(1.73)、奪三振(100)、被打率(.159)、WHIP(0.79)、デグロムは奪三振率(13.84)、FIP(1.99)でトップという形だ。

 23日の試合に中3日(本人は一番投げやすいという)で臨み、8回1失点12奪三振の力投を見せたバウアーは「サイ・ヤング賞? 俺で決まりだろ」と言っていたが、こうして有力候補3人の成績を比較すると、断言するのはさすがに早計なように思われる。
  確かにバウアーの二冠は“見栄え”はいい。さらに成績を向上させるために、シーズン最終戦に登板するようであれば、彼が抜け出していた可能性は高いが、レッズがポストシーズン進出を決めたため、おそらく登板することはないだろう。すると、ダルビッシュとバウアーの成績はここから変更がないことになるが、アウォード投票で重視される勝利貢献度WARでダルビッシュは『FanGraphs』版で1位、『Baseball-Reference』でもほぼ互角の数字であり、「バウアーが大本命」と推すにはやや説得力に欠ける。

 むしろ、あと1登板を残すデグロムが最終登板で素晴らしいピッチングをした時は、バウアーも奪三振のタイトルを失ってそれぞれが一冠ずつを分け合うことになり、内容面を考えるなら、デグロムがやや優勢と見られる可能性もあるだろう。

 つまり、現時点でもバウアーが抜きん出ているというのは、旧スタッツに引っ張られた評価であって、数字を見ていくと、日本人云々を抜きにしてもダルビッシュがサイ・ヤング賞を獲得してもまったく不思議はないのである。

「バウアーの最後のインパクトが強い!」というのであれば、それは「内容も伴った上での7戦7勝を挙げたダルビッシュ」も、相当にインパクトはある。地区優勝をほぼ確実にしたチームのエースとして、“勝たせてもらった白星”ではなく自らのピッチングで勝利をもぎ取ってきたのは、その数字を見ても明らかだ。デグロムという特異点は別として、得てして偉大な投手は“勝てる”ものでもある。
  もしダルビッシュが最多勝、バウアーが最優秀防御率、デグロムが奪三振王を分け合うようになれば、相当に投票者を悩まされることになる。その時は各人が「何を重視」し、「どういうプロセス」で順位をつけたのかを明確に説明しないと、ファンが納得するのは難しいだろう。2016年、ジャスティン・バーランダーとリック・ポーセロをめぐるサイ・ヤング賞投票で記者が炎上したのは記憶に新しい。

 では、みなさんは誰が賞にふさわしいと考えるだろうか。そこに真の説得力を持って選出するような思考を巡らせることこそが、賞レースの議論を発展させていく上で大事な要素であるし、こうした土壌が生まれることが賞の価値を高めていくはずである。

 そして結果はどうあれ、投手最高の栄誉であるサイ・ヤング賞のファイナリストとしてダルビッシュの名前が挙がっていること自体が、今シーズンの投球の素晴らしさを証明していることに他ならない。日本人投手でサイ・ヤング賞投票3位以内に入ったのは2013年のダルビッシュ(2位)と岩隈久志(3位)の2人だけ、あの野茂英雄も4位の2回が最高だった。

 もしダルビッシュが受賞できなかったとしても、その投球に拍手を改めて送りたいものである。

構成●新井裕貴(THE DIGEST編集部)

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