2020年のMLBを後に振り返った時、真っ先に思い出される選手の一人は、フェルナンド・タティースJr.(パドレス)だろう。21歳にしてMVP級の働きをしただけでなく、大量リードの試合終盤にカウント3−0から満塁本塁打を放ち、“暗黙のルール”に関する論議も呼び起こした。ワイルドカード・シリーズの第2戦で2打席続けて本塁打を放つなど、その旋風は今も続いている。

 パドレスの象徴的存在となったタティースJr.だが、実は球団生え抜きの選手ではない。ドミニカ共和国出身のタティースJr.は、15年7月にホワイトソックスと契約し、翌年6月のトレードでパドレスへやってきた。
 
 この時、タティースJr.とエリック・ジョンソンの2人と交換でホワイトソックスへ移ったのが、ベテラン先発投手のジェームズ・シールズだ。『ジ・アスレティック』の記事によると、18年を最後にユニフォームを脱ぎ、サンディエゴ郊外に住んでいるシールズは「街で時々、あのトレードについて感謝される」ことがあり、それに対して「礼を言うべき相手は(パドレスGMのAJ・)プレラーさ」と返しているという。
  MLBのトレードは、目の前の勝利をつかみたい球団と将来に向けた人材を手に入れたい球団の間で行われることが多い。シールズとタティースJr.が動いたトレードの場合、ホワイソックスが前者で、パドレスは後者だった。

 実は、パドレスにはメジャーデビュー前にシールズと入れ替わりに移籍した選手がタティースJr.の他にもう一人いる。今季15本塁打、OPS.959と大活躍したウィル・マイヤーズもそうだ。マイヤーズとシールズが絡んだトレードが行われたのはタティースJr.のトレードよりも前のこと。12年オフ、当時トップ・プロスペクトとして期待を集めていたマイヤーズは、4対3の大型トレードでロイヤルズからレイズに移籍した。マイヤーズは新人王を受賞し、14年オフの三角トレードでパドレスに加入した。一方のシールズも、ロイヤルズではエース格として活躍。14年にはチームを29年ぶりのリーグ優勝に導いた。

 だが、タティースJr.とのトレードで16年途中にホワイトソックスに移った後は22先発で防御率6.77とまったくの期待外れ。ホワイトソックスにとって、未来のスターを手放したこのトレードは球団史に残る“黒歴史”として記憶されそうだ。

文●宇根夏樹

【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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